第二章1-1
鉄の扉を押し開けた瞬間、夜の闇がさらに濃くなる。
懐中電灯の光が前に伸びるが、その輪の外はすべて闇に呑み込まれていた。
ロビーはひっそりと静まり返っている。
高い天井に吊るされたシャンデリアは、電球を失い、鎖一本で斜めに傾いている。
わずかに残ったガラス片が懐中電灯に照らされ、鋭い光を反射した。
壁紙は黒ずみ、湿気で膨れ上がった部分が裂けて垂れ下がっている。
雨漏りの跡が黒い筋となり、天井から床へと流れ落ちていた。
それはまるで何年も泣き続けた涙の跡のようだった。
奥にあるフロントデスクは影に溶けている。
懐中電灯を向けると、ひび割れた木の表面と、割れたままの受付窓ガラスが不意に浮かび上がる。
鍵を掛けていたであろうボックスには、かろうじて残った番号札がいくつかぶら下がっていた。
ロビーの中央にソファセットが並んでいる。
皮の表面は裂け、綿が飛び出している。
埃を被ったそれは、まるで人が腰掛けているかのように影を落としていた。
廊下は左右に伸び、闇そのものになっている。
照明器具は残っているが、どれも電球は砕け落ち、金具だけが鈍く光を返した。
懐中電灯を当てても奥までは届かず、暗黒に吸い込まれるだけだった。
空気は重く湿っていて、鼻をつくカビと錆の匂いが入り混じる。
時折、遠くで水滴が落ちる音が響く。
その音が、ただの静寂よりも不気味に思えた。
まるで、この建物そのものが呼吸をしているように。




