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第一章 2
榊原悠真。
聡明で、優しく、顔立ちも整っていた。誰もが一目置き、羨む存在。クラスの中心に立つわけではなかったが、その影響力は確かにあった。
――そんな彼が自ら命を絶った。
理由は父親の会社の倒産。
榊原の父は不動産業を営み、アパートやマンションの賃貸、土地の管理、さらにホテル経営にまで手を広げたやり手だった。俺の住む地域では、榊原家の名を知らぬ者はいないほどだった。
しかし、それを一変させたのが寿家の登場だ。
この地に移り住んできた寿家は、デジタル化と新しい経営手法で一気にシェアを奪い、榊原家を追い詰めた。
「……俺に、何ができた?」
俺は何度も自分に問いかけてきた。だが、答えはいつも同じ――どうすることもできなかった。
ただひとつ、はっきりしていることがある。
俺は寿が嫌いだ。
あの尊大な態度。貼り付けたような薄ら笑い。思い出すだけで吐き気がする。
ならば、断ればいい。行かなければいい。
――だが、あいつは何をしでかすか分からない。自分だけでなく、家族や友達すら利用するかもしれない。しかも寿には過激な視聴者が大勢いる。
断る選択肢はない。
俺は布団に突っ伏した。
行くしかない――あの場所へ。




