第二章4-4
時刻は02:11。
私達はロビーで黙り込んでいた。誰も口を開かない。何もしていないのに、時間だけが容赦なく進んでいく。タイムリミットは朝6時――もうあまり余裕はない。
寿の配信用スマホはどこへ行ったのか。
彼の私物スマホは、死んでいた部屋の机に残されていた。
私は手持ちぶさたに客室にあったノートをめくっていた。
普通に考えれば、同じ部屋にいた桐島しか寿を殺せない。けれど、それがあまりにも当然すぎて、問いただすことができなかった。
「そうだよ」とあっさり認められても、狼狽して否定されても――どちらも見たくなかったから。
昔から桐島はクールで、何を考えているか分からなかった。
それでも私は桐島に友情の愛情を抱いていた。
柏は私の正面に座り、ずっと桐島をまっすぐに見つめていた。濁りのない綺麗な瞳。その視線が突き刺さるように続いていた。
「桜井、行こうか。」
沈黙を破ったのは桐島だった。首をかしげると、彼は優しげに微笑んでいた。けれど、その笑みが私には恐ろしく見えた。
「言っただろ。二人で話があるって。」
「……そうだったね。」私はそう答えるしかなかった。思考を止めて、これは夢だと思い込みたかった。もうキャパシティを超えていた。
私は柏の視線を振り切るようにして、そっと彼の手のひらに自分の手を重ね、立ち上がった。そして桐島と共に、一階の空いている客室へと入った。
扉を閉めようとした瞬間、両肩を強く掴まれる。
「好きだ、桜井。」
桐島の声。至近距離で見る彼の瞳は、焦りと恐怖、そして儚さに満ちていた。私は動揺し、言葉が出なかった。
「付き合ってくれ。」
肩に食い込む指の力は、私の肉を抉るほど強かった。
「……痛い。」ようやく声を絞り出す。
「痛いよ、桐島。」
一瞬、桐島の動きが止まる。だが次の瞬間、さらに強く握り締められる。
違ったのは彼の目だった。涙ぐみながら、必死に何かを訴えるように伏せられている。
「……した。」
うつむいたまま何かを呟いた。
「何?聞こえないよ。」
私は恐怖を押し殺し、あえて柔らかい声で問い返した。
桐島は顔を上げ、私の目を見据えた。肩を握る力がほんの少しだけ緩む。
「俺が寿を殺した。」
その瞳は獣のように鋭く、私は全身で嫌悪を覚えた。
「手紙によれば、明朝にはここから出られる。そうなれば警察が入ってきて、寿の死体も、凶器も、指紋も見つかる。そしたら俺は捕まる。」
桐島の声は冷静で、だがどこか壊れていた。
「なら、それまで俺の言うことを聞け。俺がお前を好きだと言ったら――お前は俺を好きになれ。」
「……お前?」
桐島にそんな呼ばれ方をされたことがなく、私は強い動揺と恐怖を覚えた。
「殺した証拠はあるの?」震える声で問いかける。
桐島はゆっくりと肩から手を離した。そして、楽しむように笑みを浮かべ、ポケットに手を突っ込む。
ヌルリと引き抜かれたそれは――血のついたナイフだった。
視界に入った瞬間、私は恐怖で体を硬直させ、動けなくなった。




