第一章 1
俺はベッドに横たわりながら、無意識にスマホをスクロールしていた。
芸能人の不倫、スポーツ選手の失敗、スーツ姿で泣きながら謝罪するYouTuber。
何年も「もうやめよう」と思ってきたのに、指はSNSから離れない。
枕元には、開封されていない開示請求の封筒が二、三枚。目に入るたび胸がざわつくが、見ないふりをしてきた。
「くだらない」
そう心の中でつぶやき、桐島は体を起こして朝飯を作ろうとした。
その瞬間――スマホが震えた。
いつもの通知音なのに、今日は何故か違って聞こえた。背筋を冷たいものが走る。
画面には、寿からのメッセージ。
「なあ、桐島、榊原と仲良かったよな?
あの榊原の親父が経営してたホテル、今じゃ幽霊が出るって有名なんだよ。
しかも許可も取れたし、配信もOK。せっかくだからお前も来いよ。
俺の視聴者100万人が待ってるぞ(笑)」
俺は思わずスマホを落としかけた。
寿――この地方では有名な地主の息子。金に物を言わせた派手なストリーマーだ。
配信の中身は正直つまらない。だが数字はいつも桁違い。俺には、その理由が分からなかった。
だが、それ以上に問題なのは――「榊原」という名前だった。
その名を耳にするだけで胃の奥が重くなる。
(……榊原が死んだのは、もう三か月前か。)
寿の言うホテル。それはきっと、おぼろがおかホテルだ。
最近になって「窓に人影が映った」「幽霊が出た」と噂され、肝試しスポットとして急速に広まっている。
行きたくない。絶対に。
だが――寿の誘いを断ったらどうなる?
無視したら?逆に何をされる?親にまで迷惑をかけられたら……。
俺の喉が、ごくりと鳴った。
恐る恐る、返信欄に指を走らせる。
「……OK」




