第二章3-4
「ここから出して!」
柏が拳で鉄扉を打ちつける。鈍い音がロビーに響いた。
「中で人が殺されてるんです!」
私も必死に叫んだ。喉が焼けるように痛む。拳を叩きつけても扉はびくともしない。冷たい鉄の感触だけが手のひらを刺した。
その後ろに桐島がいた。
背を壁に預け、薄暗いロビーの中で一人静かに立っている。その落ち着きが、逆に異様で怖かった。
――コン、コン。
「警察です。中の方、状況を説明してください」
外から低い声が響いた。
「開かないんです!閉じ込められてるんです!」
私は鉄に口を押しつけるようにして叫んだ。唇が鉄の冷たさで震えた。
外の警察官は少し間を置いて答えた。
「報告書では『全館解放されている』とありますが……」
どこか疑うような口調。信じてもらえない焦りが胃を掴んだ。
「そうかもしれません!でも本当に開かないの!」
声が裏返り、自分でも驚くほど大きな声になった。
「この企画、主催は寿さんの息子さんですよね? 過激な演出じゃないですか?」
外の声には、まだ本気にしていない響きがあった。
「その寿が殺されたんだ!!!!」
柏の怒号に私は肩をすくめた。
柏は鬼気迫る表情で、扉の向こうを睨みつけるように叫んでいた。
外の警察官が呟く。
「……確かに、主催者の声が聞こえない」
私は勇気を振り絞って尋ねた。
「警察官さん……どこまで配信をご覧になってました?寿のスマホ、見てましたか?」
少しの間のあと、声が返る。
「通報は二時間前から来ていました。でも、彼は過激な配信をするでしょう?最初は演出だと思ったんです。しかも取材許可も確認できていた。……ただ、ここ三十分で通報が急増した。『寿さんが殺された』という通報をね。だから来ました。……ドアを開けてもらえますか?」
その声音はどこか素朴で優しく、地元の駐在のようだった。
――助かる。
この扉さえ開けば。
そう思った瞬間、背後から声が落ちた。
「警察官さん」
桐島だ。
「これも全て演出ですよ。僕と寿が仕組んだ殺人ドッキリ。まさか警察官さんまで巻き込むとは思いませんでした。ごめんなさい」
その声音は落ち着いていて、知的で、冷酷だった。
「そんなわけない!本当に寿は殺されてるんだ!血を流してる!」
柏が必死に訴え、扉をドンドンと叩き続ける。
私は振り返れなかった。桐島の顔を見てはいけない――そう直感した。
一言でも反論すれば、次は自分が殺される。
足元だけを見つめ、震える指先を握りしめた。
「この街は寿家が牛耳っている。……僕らの企画を潰せば、代償があるのは分かってますよね?」
桐島の低い声が背中を這った。
外の警察官は黙り込む。
やがて、短く答えた。
「……一度署に戻って確認します」
「待って!行かないで!」
私と柏は必死に扉を叩いた。鉄が軋み、手の皮が擦り切れる。
だが願いとは裏腹に、外の気配は静かに遠ざかっていった。




