第二章3-3
――血。
こんな量の血は、現実では見たことがない。
寿が倒れていた。胸のあたりが赤黒く染まり、仰向けのまま動かない。
誰も近づけなかった。
時刻は0:14。
寿の話を聞いたあと、私たちは疲労も極限で、とりあえず空いている部屋で休むことにした。
タイムリミットまで体力を温存しよう――そう決めて。
安全のため二人部屋で寝ようと、グッとパーで組み合わせを決めた。
結果、桐島と寿が同室になった。
その後。
私は桐島に起こされた。
「寿が……死んでる」
ドアの前に立つ桐島は、顔を蒼白にしていた。
その言葉の意味を、すぐには理解できなかった。
足を運ぶと、寿はすでに事切れていた。
「寿が……死んだ?」
呆然と呟いたのは、言葉にしなければ現実を受け止められなかったからだ。
「寿?……寿? 目を覚ませよ。なんかのドッキリだろ?」
柏が恐る恐る近づく。その声は震えていた。
――ドンドンドン!
玄関の方から、激しいノック音が響いた。
全員がその音に顔を上げる。
「行こう!」柏が声を上げる。「寿の配信を見た誰かが通報してくれたんだ!警察かもしれない!」
巨体を揺らしながら、玄関へ走っていく。
その瞬間、私はハッとした。
――そうだ。寿はずっとスマホで配信を続けていた。
この惨状は、今この瞬間も視聴者に映っている。
寿の死体も、私たちの表情も、全てが世界に流れている。
「おーい!中にいる人!警察です!」
玄関の外から声がした。懐中電灯の光がドアの隙間を照らす。
柏は必死に叫んでいる。
「助けてください!友達が……! 中で人が死んでるんです!」
だが、ドアは開かない。
外に出られない。
鍵が掛けられている。
私は寿の顔を見下ろした。
開いたままの瞳。苦痛に歪んだ口元。
思わず目を逸らす。
「人が死ぬときって……こんな顔をするんだ」
どこか俯瞰して考える自分に、吐き気がした。
「桜井?どうした」
桐島が声を掛けてくる。整った顔立ち、キリッとした目。
けれど――私は彼を100%信じたことはなかった。
「こんな状況で……ずいぶん落ち着いてるね」
「こういう時こそ、落ち着かないと」
その声に、心臓が嫌な音を立てた。
私は玄関へ向かおうとした――その瞬間、手を掴まれた。
ゾワッ、と全身に鳥肌が立つ。
振り返ると、桐島が私の手を強く握っていた。
今まで見たことのない威圧感。
その瞳は、冷酷な何かに染まっていた。
「話がある。二人で話そう。そのために……警察には帰ってもらう。協力してくれ」
「……話?」
声が震えた。恐怖でそう返すことしかできなかった。
桐島の目は、覚悟なんて格好いいものじゃない。
もっと暗く、底の見えない何か。
私は確信した。
――寿を殺したのは、桐島だ。




