第二章2-4
皆は、桜井と柏が言う「開かない扉」の前に立っていた。
それは二階の客室と客室の間にある、妙に細長い扉だった。
桜井がノブをガチャガチャ回すが、明らかに施錠されていて開かない。
「確かに……このホテルの部屋は全部開くはずだよね?」
柏が少し不安げに、後ろでスマホを構えている寿に問いかける。
「何度も言わせんなよ。このホテルの部屋は、従業員用も含めて全部解放されてるはずなんだ」
そう言いながらも、寿の表情にはわずかな不安が混じっていた。
「ってことは……手紙を置いた人物、俺たちを閉じ込めた人物が、この部屋にいるってことじゃないか?」
俺は頭を巡らせながら言った。
ふと桜井を見ると、どこか罰が悪そうな顔をして視線を落としていた。……気のせいか?
「おい、桐島。蹴破れ」
寿が吐き捨てるように言う。
さっきのこともあり、逆らえない。俺は緊張しながら扉から数歩下がり、勢いをつけて蹴り込んだ。
――しかし、びくともしない。
「この部屋……他の部屋と違う気がする」
柏が小声で呟いた。
「柏が突進したら開きそうじゃね?」
寿は笑いながらスマホを構え、柏を煽る。
桜井は「はぁ……」と深く溜息をついて呆れ顔。
だが柏は言われるがままに後ろへ下がり、助走をつけて体ごと突っ込んだ。
――それでも、扉は微動だにしなかった。
「無理よ、この部屋は」
やっと桜井が口を開いた。
「無理ってなんだよ」
寿がスマホを桜井の目の前に突きつける。
桜井はスマホに一瞥もくれず、低く呟いた。
「思い出したの。……ていうか、見た瞬間に分かってた。この扉は“選ばれた人”しか入れない。木造じゃない、鉄でできてるの」
そしてはっきりと告げる。
「ここは……開けてはいけない扉よ」
俺たちは息を呑んだ。桜井だけが知っている“何か”。
寿は白い歯をむき出しにして笑った。
「そういや噂で聞いたぞ。桜井と榊原、付き合ってたんだろ?」
ニヤニヤとスマホを近づけていく。
「あのね、私と榊原はそういう関係じゃない」
「じゃあ、なんでそんな噂が出てくんだよ〜?」
寿は舌が回りはじめ、饒舌に煽り立てる。
桜井は俯き、答えに窮していた。俺は訝しげにその姿を見つめる。
「それは私も知らない! あなたたちが面白がって言いふらしてたのは知ってるけど!」
柏は両手を広げ、「落ち着け」のポーズを取るが、誰も気にしない。
――トン、トン。
音がした。全員が一瞬で黙り込む。
どこから叩いているのか確認する間もなく――
――トン、トン。
まただ。今度ははっきりと。
人が、扉を叩いている音だった。
俺たちは確信した。
その音は――開けてはいけない扉の向こうから発せられていた。




