第二章2-3
待っていても仕方がない。俺たちはついにホテルを探索することに決めた。
時刻は22:20。
「取りあえず、二手に分かれて探索しよう」
そう言ったのは桜井だった。
この薄暗いホテルで皆がかろうじて平静を保てているのは、桜井が冷静で居続けているからだろう。
グーとパーで組を決めることになった。
俺はパーを出した。桜井と柏はグー。
横を見ると寿もパーを出していて、白い歯を見せつけながらニヤリと笑った。
「俺たち仲間だな」
嫌だった。どうしようもなく嫌いな奴と二人きりで動くのが。
「よろしく」俺は作り笑顔を貼り付けて返した。
探索はざっくり、桜井組は右へ、俺と寿は左へ。
ロビーを左に進むと、薄暗い廊下に客室の扉が点々と並んでいた。
古びた木の扉はところどころ塗装が剥げ、湿った空気が漂っている。
「このホテルに鍵がかかってる部屋はあるのか?」
ふと疑問が浮かび、後ろを歩いてスマホを構えている寿に問いかける。
「ねぇよ。さっきも言ったけど、川島が“この日は全部開けてある”って言ってた。これが金持ちとお前の違いだな」
「そうか。それはすごいな」
寿の機嫌を損ねないよう、当たり障りのない返事だけをした。
「なぁ桐島。お前は、誰が犯人だと思う?」
「は?」
「あの手紙だよ。“榊原悠真は自殺じゃない”ってやつ。つまり誰かが殺したんだろ?」
寿がスマホを俺に向ける。不快だった。
「知らない。誰かのイタズラかもしれないし、唯一分かってるのは――お前の親が榊原の親の仕事を潰して倒産させて、そのせいで榊原は壊れて、屋上から飛び降りたってことだけだ」
「へぇ? お前に落ち度はなかった、とでも? ……俺とお前が仲良くなったのって、榊原の経営難が始まった頃じゃなかったっけ? 偶然にしてはタイミング良すぎねぇか?」
寿は後ろから挑発的な声を浴びせてくる。先ほどまでの怯えは消えて、むしろ楽しんでいるように見えた。
胸の奥がチリチリと熱くなる。
俺が仲良い人と仲良くなるのに、タイミングなんて関係あるか。俺は悪くない。何もしていない。
寿はさらに畳みかけるように、薄暗い廊下で笑い声を上げた。
「そういやさ、俺のコメント欄、昔はこんな殺伐としてなかったんだよ。金と権力で大企画やって、信者ばっかでさ。でもある日を境に荒れ出した。連投、過激コメント、荒らし。……なんでだろうなぁ?」
「飽きられたんだろ。金ばかり使って視聴数を稼ぐから」
「あー、確信したわ」
寿は突然スマホを操作し、「配信一旦ミュートにするわ」と言った。
そして一気に俺の横へ来て、耳元に囁いた。
「お前が荒らしてたの、知ってるぞ。開示請求でな」
背筋が凍った。
足を止めないよう必死に歩き続けるが、内心の動揺は隠せない。冷や汗が背を伝う。
寿はさらに低く囁いた。
「バラされたくなかったら……俺の犬になれ」
息が詰まる。何も言えない。
その時だった。
「ひとつだけ、鍵が閉まってる部屋があった!」
桜井と柏が息を切らせて走ってきた。
桜井は肩で呼吸しながら俺たちに告げる。
「このホテルで、唯一閉ざされてる部屋よ」




