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第65話 失った道標

 それから夕飯を食べたり風呂に入ったりしていたが、英さんは一向に目を覚まさなかった。

 やっぱり死因がショックだったんだろうなぁ……。


 それに加えて僕にその死因を知られたということもショックなのだろう。

 プライドの高い英さんのことだ。そのショックは常人とは比べ物にならないだろう。


「はぁ……疲れた」


 今日一日だけで、いろいろなことが起こり過ぎた。

 越後さんの躍進に喜び、吉祥院さんの勘の鋭さに恐怖し、最後は未来からやってきたモモとの出会いだ。


 モモと話していたときは明るい彼女に振り回されて気にならなかったが、今になって未来で若くして英さんが亡くなったという事実が心を蝕んでいく。

 何よりも、未来じゃクロとの約束を果たせていない自分が情けなくて仕方がなかった。


「何をやってるんだよ、僕は……!」


 苛立ち紛れにゴミ箱を蹴り飛ばす。

 どうしても頭に過ぎるのは、成仏する前のクロとのやり取りだ。


『せいぜい紅百合を幸せにしてやれ。今のお前なら余裕だろ?』

『当たり前だ!』


 あんな啖呵を切っておいて、どの面下げて英さんを死の未来に追いやったんだ。

 確かに英さんの死因は自身の癖と生活習慣が招いた自業自得かもしれない。


 でも、彼女がそんなことをしないとやってられない状況にしたのは間違いなく僕だ。


 自分の気持ちを伝えるのを恐れ、

 未来を変えられる全能感に溺れ、

 金に目が眩んで、


 寂しがり屋な英さんをまた一人にした。


「だからって、どうしろってんだよ……」


 英さんが僕を好きだって知ったから告白? そんなのは後だしジャンケンもいいところだ。


 僕は英さんが好きだ。クロに宣言したように幸せにだってしたい。

 でも、それは正々堂々正面からぶつかってこそだ。

 それを封じられた今、僕はどうすればいいかわからなくなってしまった。


 クロのいなくなった今、僕を導いてくれる人はいない。

 クロのようになりたくないから、真面目に生きてきたはずだった。


 それこそが僕にとっての道標だったのだ。


 それを失った今、僕は自分に自信が持てない。

 もう僕には何もない。

 ただクロづてに聞いた未来知識を持っただけの、真面目さしか取り柄のない人間なのだ。

 真面目といえば聞こえはいいが、要するにルールを守って当たり前のことをするしか能のない人間ということだ。

 クロは僕に自分で考える人間になって欲しかったみたいだが、彼に導かれていなければ僕はここにいることすら叶わなかった。


 こんな人間が、英さんを幸せになどできるわけもない。

 本当に、どうして僕はこんなダメなのだろうか。


「いやいや、これ以上考えるな」


 ネガティブ思考に塗り潰される前に頭を振って思考を中断する。

 こういうときはメンタルリセットしないと無限に落ち込んでいってしまう。


「片付けないと……ん、何だこれ?」


 それから散らばったゴミ箱の中身を片付けていると、見覚えのない鍵が出てきた。

 いや、見覚えはある。

 確かほとんど使っていない机の引き出しの鍵だ。

 さっそく引き出しの鍵穴に差し込んでみると、カチャリと音を立ててあっさり引き出しが開いた。

 引き出しには何も入っていない。が、すぐに違和感に気がつく。

 引き出しの大きさに比べて底が浅すぎる。

 案の定、下から衝撃を与えてやれば板がズレた。


「二重底って、漫画じゃないんだから……」


 呆れながら引き出しの板を持ち上げると、そこには――何もなかった。


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