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第49話 わがまま

 トイレに行くと言ってから白君はしばらく戻ってこなかった。

 突然驚いた様子で何もいない後ろを振り返ったと思ったらこれだ。

 以前から白君にはおかしなところがあった。


 何もない虚空を見つめたり、突然何かに驚いたようなリアクションをしたり、まるで彼にだけ何かが見えているような感じがした。

 あたしがそのことを指摘する度に白君は決まって言う。鼻の頭を掻きながら〝虫がいただけだよ〟と。

 嘘が下手すぎるんだよ、バカ。


 でも、それを追求する気はない。隠したいことを無理に聞き出して白君との関係が壊れるのは怖いのだ。


「ごめん、待たせたね」

「ホントに待たされたんですけど?」

「あはは、ごめんて」


 むくれるあたしに対して、白君は苦笑しながら謝罪する。まったく、どれだけ心配したと思っているのだ。心配するこっちの身にもなってほしい。


「それじゃあ、行こうか」

「ふぁ!?」


 白君は、さも当たり前かのようにあたしの手を取って歩き出したため、素っ頓狂な声が出てしまった。


「どうしたの?」


 不思議そうに首を傾げる白君の表情はどこか笑っているように見えた。


「混んでるから手は繋いどいた方がいいと思ったんだけど」


 この野郎、ワザとだな!


 今すぐ振り解いてやりたい衝動に襲われるが、手を繋いでいると安心感があるのも事実。


「そ、じゃあ繋がせてあげる」


 結局あたしは内心では動揺しながらも、表面上は平静を装うことにした。

 ラッシャイ通りにあるサイネリアへは、ラッシャイシティへ来たきたときと同じ地下道を通っていけばすぐに着く。


 途中、何度かカップルや家族連れ、友人グループなどとすれ違ったが、みんな幸せそうな笑顔を浮かべていた。きっと今日という日が楽しい一日だったのだろう。

 あたしも同じだ。

 門限があるからご飯を食べたら解散という形になるだろうけど、ありのままの自分でいられる白君との時間は間違いなく幸せなものだった。


「英さん、時間的に厳しいかもしれないんだけど、ご飯食べたら一緒に映画見ない?」

「映画?」


 白君の提案に思わず足を止める。

 時刻を確認すると十六時半を過ぎており、確かにあまり余裕がない時間帯になっていた。


「実は一度ニドコイを劇場で見たかったんだ」


 最近公開されたばかりの映画だというのに、まるで一度見たことがあるような言い草だ。

 それにさっき本屋で原作漫画を見たときも、そこまで興味があるようには見えなかった。


「……どうしても?」

「うん、どうしても」


 白君は珍しく食い下がる。いつもならあたしに合わせてわがままを聞いてくれるあの白君がだ。

 正直に言えばもっと二人で居たい。でも、これ以上わがままを言うわけにはいかないことも分かっていた。


 お母さんに心配はかけられない。家では良い子でいるあたしが遅い時間まで男子と二人きりなんて絶対ダメだ。ダメな、はずなのに。


「わかった。ちょっとお母さんに相談してみる」


 気がつけば、あたしは白君の手を離し、お母さんへと電話をかけていた。


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