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第48話 ああ、叶うならば

 病院に着くとそこにはチューブに繋がれて目を閉じたままの紅百合の姿があった。


「純君……!」

「遅くなりました」


 紅百合の病室には紅百合の両親である恵莉花さんと雄一さんがいた。


「一体何があったんですか」

「……紅百合は、その、処方されていた薬を大量に服用したらしい」

「それって……!」


 紅百合は精神的に不安定なところがあり、慢性的に不眠症を患っていた。その処方されていた睡眠導入剤を溜め込み、一気に飲んだのだ。


「どうしてだよ……!」


 泣き崩れる恵莉花さんと険しい表情のままの雄一さんの前でそんな台詞を吐いてみるが、白々しいにもほどがあった。


 俺はいつかこういう日が来るんじゃないかと心のどこかでわかっていたのだ。

 紅百合の精神が不安定なことは理解していた。それこそ両親である二人よりも俺は紅百合の心に寄り添える距離にいた。


 でも、俺はついぞ紅百合の心の奥まで踏み込んで支えることから逃げた。

 自分に自信がないから、今の関係を壊したくないから。そんな身勝手な理由でだ。


 その結果がこれだ。

 俺に悲しむ資格なんてない。これ以上、この場にいちゃいけない。


 病室を飛び出すと、いつの間にか外は土砂降りの雨模様へと変わっていた。

 天気予報なんて見る癖もなかったから傘なんて持ってきていない。濡れようが風邪を引こうが、もうどうでもいい。

 俺はふらふらとした足取りで当てもなく歩き出した。


「……何で俺はこうなんだろうな」


 もし紅百合に自分の気持ちを伝えていたら何かが変わっていただろうか。

 いや、きっと何も変わらない。こんなクズで社会的に価値の低い俺じゃ、紅百合を幸せになんてできっこない。

 何で俺達はセフレになってしまったのだろう。普通に恋をして、結婚をして、そんなありきたりな日常を手に入れたかった。

 だが、そんなものはもう手に入らない。全部、俺が捻くれた臆病者だったのが悪いのだ。


「……危ない!」


 雨音に混じって叫び声やクラクションの音が聞こえてくる。

 そして直後に全身へ走った衝撃で俺は意識も体も吹き飛んでいた。

 薄れゆく意識の中、俺は最後に願った。


 ああ、叶うならば――




 もう一度、紅百合との出会いをやり直せたのならば、何か変わっていたのだろうか。

 いや、自分は変わらない。変われない。

 自分のことは自分がよくわかっている。

 どんなに時間を巻き戻したところで、俺のままではきっと一歩も踏み出せない。


 何てたって俺は俺なんだから。


 これは臆病者が招いた悲劇の未来。

 奇跡的にやり直しの機会を得た臆病者は、自分に成り果てる前の自分に未来を託すことにしたのだった。

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