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第47話 だから、今のままでいいのだ


 今日は体調不良でスタッフが出勤できないと連絡があったため、仕方なく午後も俺はシフトに入ることになってしまった。

 適当に紅百合の店でのんびり過ごそうと思っていた矢先の残業は正直かなり怠かった。


「んじゃ、俺は上がるからあと頼むわ」

「シロさん。今日も彼女と会うんですか? アツアツですねぇ」

「そんなんじゃねぇよ」


 揶揄ってくるスタッフをあしらいつつ、帰り支度を済ませる。


「彼女、か……」


 職場の人間も、紅百合の両親も、俺達の友人もみんな俺と紅百合がセフレだということを知らない。わざわざ説明するのも面倒なので、人前では恋人ということで通すようになったのはいつからだろうか。

 もう何年も続いている関係だが、未だに俺達の関係性は曖昧だ。体を重ねるだけの関係なのか、それともただの友達なのか。

 最近はそればっかり考えている。


 俺は紅百合のことをどう思っているのか。紅百合は俺にとって何なのか。


 答えなんて既に出ているはずなのに、悩んでる振りをして自分を誤魔化し続けている。そんな情けない自分が嫌いでしょうがない。

 思えば紅百合との関係も、もう五年になる。

 出会いは正治さんの店で飲んでいたときに、隣のテーブルで飲んでいた紅百合に絡まれたことがきっかけだった。

 趣味や価値観が合っていたこともあって俺達はすぐに意気投合し、目が覚めたら俺の部屋のベッドの中でお互い裸で寝ていた。酒の勢いというやつである。

 そこからずるずると関係が続き、気がつけばこんなところまで来てしまった。


 いろんな順序をすっ飛ばし体を重ねるだけの関係。

 人によっては羨ましいと感じる人もいるだろうが、楽で心地良いだけにそれ以上の発展もない。

 俺も紅百合もお互いに都合の良い存在でしかない。辛い現実から目を背けるための共依存相手。それが俺と紅百合の関係だ。


 何度この関係を変えたいと思っただろう。

 今の関係がちょうどいいから、恋愛に発展するなら結婚を考えなきゃいけないから、借金背負ってるクズの俺なんかじゃ紅百合を幸せにできないから。

 そんな言い訳を何度心の中で唱えただろうか。


 本当はただ紅百合との関係が壊れるのが怖くて〝好き〟の一言が言えないだけなのだ。


 何で俺はこんなクズになってしまったのだろうか。

 昔から両親が忙しくて、寂しさから悪さばかりしていた。何度親が学校に呼び出されたかわかったもんじゃない。

 俺を楽にさせるためにひたすら仕事をしていた両親には感謝しなきゃいけないのだろう。


 だが、家族として過ごした時間が短すぎて、俺はあの二人に家族の情を抱けなかった。

 お金なんていらない、一緒に過ごしてほしかった。そう思った矢先に親父は交通事故に遭って介護が必要になった。

 急に一緒に過ごせる時間は増えたのに、酒とギャンブルに沈んでいく親父と仕事と家事に追われて俺にあたるようになったお袋に対し、俺は一緒にいたくないと思うようになった。

 逃げるように実家を出て転がり込んだ彼女の元では、騙されて借金を背負わされるハメになった。


 全てがどうでもよくなり、バーで引っ掛けた適当な女の家を渡り歩きながら職を転々とした。都内にヘアサロンは増えているご時世だったことと、美容師免許も理容師資格も持っていたことが幸いし、仕事には困らなかった。


 そして、紅百合に出会った。

 紅百合との日々は、クソみたいな俺の人生の中で一番楽しい時間だ。失うことなんて考えられない。

 だから、今のままでいいのだ。


[白純:今から店いくけど、いつもの席空いてるよな?]


 自分を無理矢理納得させてRINEでメッセージを送る。紅百合の店は新宿にあり、そこそこ繁盛しているため確認は必要だ。


「ん?」


 いつもなら即レスしてくるというのに、しばらく待っても返事がない。どうやら返信する暇もないくらい今日は店が繁盛しているらしい。


「どうしたもんか」


 急に予定がなくなったため、当てもなく喫煙所でタバコに火を着ける。

 紫煙をくゆらせながらボーッとしていると、唐突に俺のスマートフォンに着信があった。


「どうしたんですか恵莉花さん?」


 俺に電話をかけてきた相手は英恵莉花さん。紅百合の母親だった。


『もしもし、純君!? 大変なの、紅百合が、紅百合がぁ……!』


 嗚咽混じりの声を聞いた瞬間、俺の手からタバコが零れ落ちる。手の甲に火種が当たったというのに、不思議と熱さは感じなかった。



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