第28話 バカはてめぇだ、えちゴリラ
白君のことだ。越後さんがあたしに嫌がらせしようとしていたら絶対に止めるに決まっている。もう彼をあたしの勝手な都合に巻き込みたくはない。
杞憂であってほしい。そう願っても現実は往々にして思うようにいかない。
案の定、廊下から教室を覗き込むと白君とえちゴリラがいた。
「だから知らないって言ってるじゃん」
「じゃあ、どうして誰もいない教室で英さんの鞄を開けてるんだよ」
状況は最悪だ。どうやらあたしに財布を盗んだ罪を着せようとしているえちゴリラを白君が見つけてしまったようだ。白君のことは巻き込みたくなかったのに……。
「鞄が開いてたから締めてあげようと思ったの」
「自分の財布を持ちながら?」
「体育の授業までにスポドリ買おうと思って財布持ってただけ」
白君の追及に対してえちゴリラはあくまでもシラを切る。
無駄だよ、白君。あたしはえちゴリラが行動を起こしやすいようにわざと鞄を開けていた。あの子が暴走しやすいように、逃げ道はそれなりに作っていたんだ。
「てか、何? さっきから勘違いで人を犯人扱いとか気分悪いんだけど」
そして、遂に我慢の限界に達したのか、えちゴリラが敵意剥き出しで白君を睨みつける。
「あー、わかった。あんたハナブサのこと好きなんでしょ。だから、そんなに突っかかってくるんだ。バッカじゃないの。あんたじゃハナブサとなんて釣り合うわけないじゃん。彼氏気取りかよ、きっしょ」
白君が何も言わずに黙っているのを見て、えちゴリラは勝ち誇ったような笑みを浮かべて捲し立てる。
やめて。それ以上、白君に酷いこと言わないで。
白君があたしのことをどう思ってくれているのかはわからない。だけど、あたしにとって彼は大切な友達だ。その友達が傷つけられている姿なんて見たくない。
これ以上、この場にいるとあたしまでおかしくなりそうだ。
あたしは白君を助けようと一歩踏み出す。
だけど、あたしが動くよりも先に白君は口を開いた。
「ちょ、やめ――バカはてめぇだ〝えちゴリラ〟」
初めて聞く、ドスの聞いた低い声。穏やかで物腰の柔らかい白君らしからぬ荒々しい口調。
まるで別人のような雰囲気を纏った白君は鋭い眼光でえちゴリラを射抜く。
「……あんた今、何て?」
「えち、ゴリラ。ハッ、十人いたら十人思いつくあだ名だと思うぜ」
白君の豹変に思わず足が止まった。本当にあれは白君なの?
固まったえちゴリラに今度は白君が捲し立てる。
「しょうもねぇ言い訳の次は、何でも恋愛に繋げて話題逸らしか? さすがえちゴリラ、発情期真っ盛りだこりゃ。名前に偽りなしってか」
絶対に白君が言わないであろう下品な発言に耳を疑う。いや、えちゴリラに関しては、あたしも心の中で勝手に呼んでるから人のことは言えないけども。
「くだらねぇことウホウホ言ってねぇで、とっとと自分のやろうとしたこと認めたらどうだ。ネタはもう上がってんだよ」
「っ!」
白君はそう言うと、携帯の画面をえちゴリラへと突きつけた。




