表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
104/145

第103話 本音と親友

 今思えば、クユリやジュンとの出会いは運命だったんだと思う。

 財布を盗んだ濡れ衣を着せてきたウチをジュンが止めて、クユリが許してくれた。

 あのときのことは今でも思い出せる。

 急に乱暴になったジュンは軽くトラウマだし、クユリに謝りに行くときだって内心ビクビクしていた。


「ハナブサ、今までごめん!」


 頭を下げるウチに、クユリは笑顔を浮かべるだけだった。


「別にいいよ。越後さんが反省してるなら何も言わない」

「いや、その、なんていうか……」


 それは本音じゃないことはウチにだってわかった。

 お姉ちゃんと同じだ。

 不満を飲み込んで、笑顔を張り付けて柔軟にやり過ごす。

 きっとこのまま今回の件は丸く収めてくれる。


『しっかりと今までのこと謝って本音でぶつかってみなよ。友達ってそういうもんでしょ』


 でも、それは違う気がした。


「違うんだよ。ウチ、本当は自分の財布をハナブサの鞄に入れて盗まれたって騒ぐつもりだったんだ」

「え?」


 クユリは目を丸くして驚いていた。


「本当に人としてやっちゃいけないことをしたと思ってる。だから、ごめんなさい」


 その言葉は本当ならお姉ちゃんに言いたい言葉だった。

 本当にクユリはお姉ちゃんによく似ていた。

 何もかも我慢して溜め込んで、理不尽な目にあってもニコニコと笑っている。


 だから、これ以上ウチのコンプレックスのせいで傷つけてはいけないと思った。


「わざわざ言わなければ良かったのに、どうして白状したの?」

「本音でぶつからなきゃ何も変わらないと思ったんだ。そうしなきゃいけない、そう思ったから」

「そっか」


 さっきまでの作ったような笑顔じゃない。

 肩の力を抜いた自然な笑みを浮かべたクユリはウチの頭に手を伸ばした。


「そこまで正直に言われれば反省したとことはわかるよ……大丈夫」


 叩かれるのかと思って思わず目を瞑ったけど、その手つきは優しくて、クユリの両手がウチを包み込んだ。

 まるで小さい頃にお姉ちゃんがウチを抱きしめてくれたときみたいに。


「本音、か……それじゃ、あたしからも秘密を一個教えてあげる」


 クユリはウチから離れて悪戯っぽく笑うと、頬を赤らめて告げた。


「あたし、白君のことが好きなの。これ秘密ね?」


 周囲に愛される完璧美少女よりも恋する女の子の方が数倍可愛い。素直にそう思った。

 そのときの顔をウチは今も忘れられない。

 忘れてはいけないんだ。


 だって、ウチは親友の気持ちを知っていながら裏切ったのだから。




 大学生活も終わりに近づいた頃。


「リラ、久しぶりね」

「よっす。会うのは半年ぶりくらいになるかな」

「えっ、もうそんなに経ってた?」



 ウチは配信者になって忙しい毎日を送っているクユリを呼び出した。

 クユリに会うのも随分と久しぶりのことだった。


「雰囲気だいぶ変わったじゃん」


 久しぶりに会うクユリの見た目は様変わりしていた。

 長かった茶髪は短く切り揃えてピンク色に染めていた。


「髪色もピンク色にした方が活動名に合うと思ってね」

「美桜モモだもんなぁ。でも、長い方が似合ってたと思うけど」

「大人になるとロングヘアは手入れが大変なのよ。今日みたいな土砂降りの雨だと湿気でエグイことになるの」

「高校のときはモップみたいになってたこともあったからね」

「だれがモップよ」


 クユリは不満そうに唇を尖らせる。

 その仕草があまりにも高校のときと変わっていなくて思わず笑ってしまった。

 クユリもウチが笑ったのを見て、嬉しそうに笑った。


「それに知名度は出てきたけど、まだ全然稼げてるわけじゃないし」

「配信者も大変だなぁ」


 努力をしてそれが報われつつある親友に嬉しい気持ちと複雑な気持ちが入り乱れる。

 それでも向き合わなければならないのだ。たとえクユリを傷つけたとしても。

 これを言わないままだと、筋が通らないと思ったから。


「あのさ、クユリ」

「どうしたの?」


 きょとんとした表情で問いかけてくるクユリにこれを告げるのは心が軋む。

 それでも言わなくてはいけない。だって、本音でぶつかり合うって決めたから。


「ウチ、ジュンのことが好きになっちゃったんだ」


 たぶん声は震えていた。


「クユリ、本当にごめん!」


 そして、頭を下げるウチに、クユリは笑顔を浮かべた。


「別にいいよ。だって、あたしは白君と付き合ってるわけじゃないもの」


 それは本音じゃないことはウチにだってわかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ