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第101話 えちゴリラ

 名前でいじめられたとお母さんに泣きつけば「私が悪いっていうの!?」と怒鳴られた。

 お姉ちゃんはいじめられている現場を見つけてすぐに助けようとしてくれる。

 でも、それが私には苦痛だった。


「お姉ちゃんはいいよね! 睦月なんて綺麗な名前、越後と合わせてもおかしくないんだから!」


 言っちゃいけないことだとはわかっていた。それでも言ってしまった。

 あのときのお姉ちゃんの傷ついた顔は今でも忘れることができない。


 わかっている。全部、全部きっとウチが悪いんだ。


「お母さん、今日何の日かわかる?」

「今日? ごめんなさいね、仕事で疲れてるの。クイズがしたいなら本でも読んでなさい」


 ある日、お母さんに尋ねてみると興味なさそうにそう言われてしまった。


「今日、ウチの誕生日……」


 お姉ちゃんの誕生日はケーキもプレゼントも用意して写真まで撮っていたのに。

 そんなにウチのことが嫌いなの? お母さん、どうしてウチを見てくれないの。


「凛桜ちゃん、これ誕生日プレゼントよ」


 お母さんはウチを見てくれなかったけど、お姉ちゃんはいつだってウチのことを気にかけてくれた。


「いらない!」


 けど、ウチはその優しさを受け取ることができなかった。

 かつて自分がお母さんに向けていた憐みを向けられたと思って屈辱感を覚えてしまっていたのだ。


 何が自慢の娘だ。何が自慢のお姉ちゃんだ!

 お父さんがいたとき、ウチが助けなかったからその仕返しでもしているつもり!?

 お母さんの味方するのやめなよって言ってた癖に!

 庇ってくれるお父さんがいなくなった途端に言うこと聞くようになってるじゃん!


 本当は心のどこかでわかっていた。お姉ちゃんはいつだって優しかっただけだ。

 ただ他に怒りをぶつける相手がいなかったのだ。


 お母さんはウチにとって地震や台風と同じ。防ぎようのない自然災害同然だった。

 だから、身近に怒りをぶつけられるお姉ちゃんばかりを嫌うようになってしまったのだ。


 中学に入ってからもいじめは続いた。

 周りから見ればそれはただの〝いじり〟だったのだろう。

 ただ面白い名前を揶揄っているだけ。そんなことくらいで傷つくな。どうせみんなこんな風に思っていたのだろう。


 いっそウチだけでもお父さんの子になれないかな。


 そんな風に思ったことは一度や二度ではない。

 誰にも相談なんてできなかったし、そもそもそんな方法があるかどうかなんて知りもしなかった。

 事情を知らない人は、相談すればいい、何で行動しないのか、なんて簡単に言ってくれるのだろうが、本当に追い詰められた人間はそんなことを考えることすらできなくなるのだ。


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