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悪友?と私

現実世界に魔法なんてものは存在しない。


呪文で傷は癒えないし、独りでに壊れたものが直ることもない。


でもね、魔法みたいなものはあると思うんだよ。


そんなことを知る高校2年、春。

大学生くらいの女の子が着ていたカーディガンを彼氏に預け、暑いねなんて言いながら近場のカフェに消えていく。そんな平穏な日曜日、私は窮地に立たされていた。


『ピコンッ』


初夏の日差しにだるさを覚えつつ見たくもない端末からの呼び出しに目を向ける。


『ごめん…体調崩しちゃった』


突然のご報告ありがとうございます。ちなみにお聞かせ願いたいのですが、それは本当ですか?こんな待ち合わせ時間10分前に一筆啓上(いっぴつけいじょう)というかなんというか。文句は正直ゴロゴロ出てくる。伝えないだけで。伝える必要ないだけで。


『待ち合わせの直前にほんとごめんね』


この言葉には一撃必殺ぐらいの効果があると私は思う。しょうがない。しょうがないよ。体調不良だものね。こちらから返す言葉はもうこれしかない。


『大丈夫だよ!!早く治してね。お大事に!』


将棋で(かく)飛車(ひしゃ)が相手に渡ったときのような感覚だ。手も足も出ない。かつて背水(はいすい)(じん)を喰らった武人たちも同じ気持ちだったろうか。


こうして今日も私は人の多い街中(まちなか)で暇を持て余す。そう、今日()だ。




次の日、今年初の夏服に袖を通して気分一新、席に着く。昨日のことは半分昨日に置いてきて、もう半分はちょっとした会話の(たね)として使う。これが私流、嫌なことへの向き合い方だ。


「え?またドタキャンされたの桜良(さくら)


「そうなの~体調不良だって~な~んで頻繁(ひんぱん)にこうなるかな~?私疫病神(やくびょうがみ)だったりする~?レナもう私に近づかないほうがいいかも~泣」


「はいはい、そうかもねー」


大抵こういう話は前の席に座る親友レナに聞いてもらえる。私の残念な話をぞんざいに扱ってくれるので、文字通りごみ箱に捨てていくような感じだ。大して理由はないけれど、レナとは特別外で遊ぶような関係ではない。それでも唯一無二の親友と呼びたい。


「そういえば前に言ってた漫画の原画展一緒に来てくんない?意外と読んでる人見つからなくてさ~話題作なのに~!」


「【君との恋は不正解】だっけ?未履修でいいならいいよ」


「やった~!レナちゃんだいしゅき~♡」


「きもい」


自分が見てもない漫画のタイトルを覚えていてくれて、私の愛の告白をキモイで返してくれて、興味なさそうなイベントについてきてくれるあたり、猫のような萌えとマブダチ感を感じる。こういう友人はきっと一生モノなのだろう。




レナからの扱いに浸って目を細めていると、さらなる試練が突然歩いてきた。


「ねぇ」


私より頭一つ抜けた背丈を、髪が頬に触れそうなほどに屈めて、優しさいっぱいの声で問いかけてくる。


「【君恋(きみこい)】、すきなの?」


あまりの距離感に(まばた)きも忘れて彼の瞳に吸い込まれていると、机の下でレナが私を蹴る。


「わっ、あ、う、うん!ファンなの!!」


「そうなんだ!俺も好き!」


キュートアグレッションの危機に(ひん)するほど愛らしい微笑みと好きの言葉に、私の時間だけがゆっくり進む。


(よう)くん、わたし桜良に原画展誘われてんだけど、作品全然知らないから代わりにど?」


うっっっっっすらと二人の会話が聞こえる気がする。


「え!いいの?俺もそれ行こうと思ってたんだよね。桜良、いい?」


あ、名前呼ばれた。返事しないと。


「はい」


「よっしゃきまり!じゃあ土曜日の14時!駅前ね!」




現実に戻ってきた頃には、もう葉はいなくなっていた。


「あー全然話せなかったな~」


「よかったじゃん」


「全然よくないよ~!はぁ…あれ、二人何の話してた?原画展がどうとかって…」


「今週末に桜良と葉くんが原画展デートする話」


「・・・え?」

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