祠
私が父の里に行く事になったのは小学校に上がる前だった。
山々は綺麗な緑にそまり、柔らかな葉が風に揺られてさわさわと音を立てた。
春ですよ。
春って新しい始まりで楽しいよね。
そんな事を言われても、全くもって気乗りしなかった私は、その場でグルーっと一周見渡してみた。見える景色が、山、山、田んぼ。ふうと大きな息をついた。遠くに川の流れる音がする。
好奇心旺盛な一つ下の妹はすたすたと、あっち行ってみようと歩き出す。そんな、勝手に出かけると怒られるのに、、、止めるのも聞かず歩き出す。
1人で行かせるわけにもいかず、仕方なく後をついていった。
道に並行して赤いとたん屋根の家が並び、祖父の家から三軒ほど行くと小さな建物があった。
その建物には神棚のようなものが置いてある、少し床が高く柱と屋根があるだけの今まで見たことがないものだった。
その建物を一周すると、裏は石垣になっており岩と岩の間に小さなスペースがあり小さなお地蔵さんがいた。目ざとく見つけた妹は、見てと呼ぶ。
華、絶対何も触らないで。
何よ楓は、私はまだ何もしてないでしょ。
ぷうと膨れる。
「お前さんたちどこの子だい。」
不意に背後から声をかけられ妹と小さく悲鳴をあげて後ろを振り向くと、おばあさんかおじいさんか分からない人がいた。
頭にほおかむりをして、きなりのシャツを着て黒の腕抜きをしている。手にはバケツをさげて、きゅうりやトマトが納められている。少し曲がった腰で上からギラリとした視線を送ってきた。浅黒く焼けたしわくちゃの顔が目の前に立ちはだかる。
ミンミンと蝉の声が鳴り響き
ざわざわと一際強い風が吹いた。
そりゃあ触ったらいかん。
触ってません。
暑い。ジリジリと当たる日差しが凄まじい熱を放射している。地面からゆらゆらと透明な影がたちのぼりあたりの空気が変わった。
光の中で黒い影がゆれる。
その人は語った
ある日そこの崖が崩れて土砂の中から箱が出てきたのさ。
私たちは、1人の男が崩れた土砂の中から1メートルばかりある細長い黒い箱を引きずり出すのを見た。
その男はニヤリと笑うとそれをかかえ、建物よりさらに坂道を上り一段と高い場所にある一軒の家へと入っていった。黒い瓦屋根の大きな日本家屋はなんだか薄寒い感じがした。
あたりはどんどん暗くなり、私と華は互いの手をぎゅっと握りしめた。
明るい藍色で月明かりに辺りは照らされて雲が流れゆく様が見えた。暗闇の中に大きな家と山の姿が顕になる。
見上げた空は今まで見たことのないほどの眩い星の数々で散りばめられていた。
え?!まだ日が高かったのに。
しばし、恐怖を忘れ満点の夜空に吸い込まれた。
屋根の上にコロコロと転がる光の玉を見て、ハッと息を呑んだ。マントを翻すような動きが屋根の上を蠢く。青い炎が赤みをまし、炎が転がるのと同時に悲鳴が上がった。
ぎゃあ、
ばたばたと走る足音が聞こえてくる。
助けて、助けてくれえ
一体何が起こっているのか分からぬままに、場面が展開する。
私たちは和室の一間にいた。
先ほどの箱を持っていった男は、必死で箱を開けて中を見ようと躍起になっていた。
旦那様、あのような場所に埋められていたものを無闇に開けぬ方が良いのではと思うのですが。
うるさい。これは金目のものが入ってるに違いない。わしの土地から出たものはわしのものじゃ。
その男の凄まじいまでの執念。
一体どうしてこうなるのだろうか。
ちょっと、楓。
肩を大きく揺さぶられて、ハッと我に帰った。
おばあさんは?
そこに立っていたのは母だった。
2人で何をしてるの、帰りなさい。
黒い服に身を包まれた母の姿があった。
華の顔見ると、ぼっとしている。
「ねえ、華見たよね??」
「何を??」
「あの上の家の中で起こってるの見に行ったよね?」
「知らない」
なんで?私今みたのは、、、