表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハローデッドエンド  作者: 96tuki
3/28

最悪の一週間

 クエストから帰還した俺は、ギルドに電報を飛ばしたあと王国魔法図書館に来ていた。用があるのはここの最下層。紫色のライセンスを司書に提示して、俺はエレベーターのキーを受け取る。

 最下層にあるのは魔族での実験記録や人体実験の記録など、ひと目につくのも憚られるようなものばかり。そのため、入館するのには最高ランクのライセンスが必要になる上、館内のものは持ち出し禁止。そんなところで封印魔法と、それに付随するものだ。

 フィルを殺すのが不可能だとわかり、一通り絶望したあと、どうすべきかを考えていた。そこで思いついたのが封印すること。あいつを封印したあと、残りの魔族を全部殺して、魔族をあいつ一人にすれ、殺すために魔族を好きになれるはず。そんな他人事みたいな考えが浮かんできた。

 俺は封印魔法に関する魔導書を三冊ほど目星をつけ、内一冊を手に取る。ここはペン類の持ち込みも禁止のため、必要な知識は全て記憶しなければならず、ただでさえ読破に時間のかかる魔導書がより一層手強くなる。

 静かな空間に、乾いた紙の擦れる音が響く。一ページ読み解くだけでも膨大な時間と集中力が削られていく。ただ、内容はどこをとっても有用なものばかり。通じるかどうかは別として、来てよかったと心の底から喜んだ。

 そうこうしているうちに一冊読み終わり、俺は時計に視線を向ける。

「……っともうこんな時間か」

 本当なら閉館時間までいたいのだが、無念にも帰宅しなければならない。というのも、フィルに毎日6時間は一緒にいることを強要されているからだ。無理ならこの街の人間を殺すと、そう言われて。やはり、魔族に倫理観などないのだろう。まだ数時間しか話していないが、ことあるごとに俺以外の人類を人質に取ってくるあたりそれで正解だろう。

 俺は上の階にある、危険度の低い封印魔法について記載している本をありったけ借りて、帰宅した。

「……」

 俺は無言でドアを開ける。カギがかかっていない、ということはこいつが外出したことになる。別に、外で問題を起こしていないならいいのだが、起こす気配しかないのが気がかりだ。

「おかえり、ロウ」

玄関で、フィルが笑顔で俺を出迎える。知識欲が満たされたことによる充足感は、一瞬にして不快の二文字に塗り潰された。

「本一杯持ってるってことは、図書館にでも行ってきたのかな」

「そうだ。それで、俺はこれから本を読むから邪魔しないでくれ」

「それは待遇によるかな」

「……何が望みだ?」

 この街に住む以上、住人に危害を加えないよう念押しをしたとき、この言葉が返ってきた。それで、決まったのが毎日六時間は一緒に過ごすということ。となれば、今回も碌なことを要求してくる。だが、フィルの口から出たのは警戒している俺を置き去りにするような言葉だった。

「今から三十分だけ、お喋りしようよ。どう?」

 拍子抜けする内容に、俺は胸を撫で下ろす。俺には想像できないような無茶な要求じゃなくてよかった。言葉を交わすのは不快だが、相対的に楽であることに違いない。

「お前がいいならそれでいい」

「じゃあ決定。なんか私に聞きたいこととかある?」

 じゃあ、と俺は浮かんでいた疑問を投げかける。

「なんでお前は人間の生活に興味があるんだ?」

 魔族にとって人間は殺す対象でしかない。それは、友好種の魔族が肯定していたことだ。友好を結ぶのも殺されたくないからで、人間に今日見なんて一切持っていなかった。友好的な種でさえそうなのに、こいつは惜しげもなく、自分の目的は人間の生活をすること、と言ったのだ。その意図がなんなのか、ずっと疑問だった。

「それは、私が愛の愛の魔族だから」

「愛の魔族?」

 聞き慣れない単語に、俺はすぐ聞き返す。

「そう、愛の魔族。知らないと思うけど、魔族は種類によって能力が変わるんだ。力が強かったり、超速かったりね。私の一族は、その力が愛だった。勿論、愛の魔族は基本的に弱いから、どんどん人間に殺されていった。だけど、人間は嫌いにならなかった。私の見た中で、一番美しい愛を持っていたからね。そこで私は気づいたの。愛の魔族の力は、愛を感じることによって強まるってね。魔族間に愛なんてないから、人間の愛に唯一気付いた私だけが生き残ったってわけ」

 その話は、とても興味深い内容だった。魔族に存在する種類ごとの能力。この存在がわかったということは、今までより簡単に対策を打てるようになるということ。つまり、現在判明している種類の魔族が、今以上に殺しやすくなる。やはり、魔族については魔族に聞くのが一番なのだろう。俺の疑問なんてどうでも良くなるほどの収穫が手に入った。

「なるほど……。それじゃあ、人間の生活がしたいのは憧れたからか」

「ほぼ正解。私は、人間の愛が羨ましかったんだ。私は愛を感じることしか出来ないのに、人間は受けることが出来る。包まれることができる。だから私は、私のことを好きな人じゃないと、本当に殺せない呪いを自分にかけたの。そうすれば、私のことを殺しにくる人が私を愛してくれると思ったから」

「で、どうだった?」

 フィルは意地悪と言わんばかりの表情で口をとがらせる。

「わかってるくせに。みんな弱くてすぐ死んじゃったよ」

 彼女は一瞬哀しそうな顔を浮かべたあと、天を仰ぐ。なるほど、こいつは本当の意味で愛に飢えているのか。

「だから、俺になったのか」

「そう! 最初は失礼なやつだったから殺そうと思ったけど、頑丈だったから考えが変わったの。あと、顔が好みだし」

 あの話を聞いたあとだと、妙に納得する。それにしても、愛が力になる、か。人間の与える愛すべてがこいつの力になっているとしたら、あのデタラメな力にも納得がいく。人間と愛は切っても切り離せない関係にあるし、愛を持つのは人間だけじゃない。力に変わったらそりゃあ膨大なものになる。先人たちはお手柄だ。こんな化け物一族を一人まで減らすなんて、感謝してもしきれない。

「ちなみに、この力は私の愛にも反応するの」

「それがどうした」

「つまり、私が君を好きになればなるほど、愛せば愛すほど強くなるってこと。君が私を好きになるときには、君じゃ殺せないほど強くなってるかもね」

 フィルは鼻が触れない程度のギリギリの距離まで近づき、含みを持った笑顔を見せる。ふわりと、さわやかな香りがあたりに舞う。取り敢えず、もう30分だ。

 俺はその後少し待って、30分ジャストで部屋へと向かい、六時間かけて借りてきた魔導書すべてを読破した。

 二日目。風呂に入った後、朝六時に家を出る。朝ご飯を求められたので、買い置きの完全食を投げたら嫌な顔をされる。昼は好きなものを食べると勝手に俺の財布を自分のもののように独占していた。帰宅すると俺のことそっちのけで、台所で暴れていた。夕飯も勝手に食べるそうだ。

 三日目。朝ご飯と称して、およそ人間の食べ物とは思えないものが差し出された。残さず食べ、感想も嘘偽りなく伝えた。鬼のようにまずかった。ただ、使われている材料を見るに栄養は十分に見える。魔族の作ったものも手料理というのだろうか。もしそうなら、久々に食べた。

 帰ると、料理には懲りたのか、夕食として出来合いのものを出してきた。そして、またしても一緒に食事を、とせがまれる。もったいないので出されたものはすべて食べ、栄養保管として完全食をプラス。食べると空しくなりそう、と言われたが、お前の手料理よりはましだと吐き捨ててやった。その後、食後の運動と言って容赦なくボコボコにされる。

 四日目。家を出るときには起きてこなかった。そのため、静かに出発。帰宅後、不機嫌な彼女から理不尽な暴力を受けた。不快。

 五日目。フィルがずっと部屋にいたので一睡もできなかった。部屋から出ようとした瞬間、今まで寝ていたのにドアの音に反応して飛び起きる。朝ご飯を作れとせがんできたので、完全食を投げたらものすごい力で投げ返される。音で、中身が砂になっているとわかった。お気に召さなかったようなので、仕方なく軽食を作る。無難に卵サンド。普通にまずかった。フィルに散々馬鹿にされた。不快。

 六日目。今日もまた、フィルが部屋にいた。当然完徹する。今日は図書館にはいかず、封印魔法を実践的に作ることにした。仮想敵として本体が実験体になってくれることに。結果は失敗。付け焼刃の知識でどうにかなるものではなく、そこに光明はなかった。独力では不可能と判断し、国魔連にいる封印魔法に長けた知人に連絡。魔族の新情報と引き換えに教えてもらうことになった。隠れていた光が差し始めた。

 七日目。同様の理由で三度目の完徹。そろそろきつくなってきた。その上、目覚めた時からなぜか不機嫌なフィルに、この三日で襲わなかったことに関して今までで一番切れられる。その上、謂れのない罵詈雑言を浴びせれたため、寝不足で情緒が少しおかしくなっていた俺は、殺意のままに柄を握った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ