衰退セシ孤独ナル舞-もう一つの円舞曲-
いずれやりたかったと思っていた道化師視点の物語。
とりあえずは連載の【衰退セシ孤独ナル舞】の1話目だけでも先に見ることをオススメします。
駄文で気持ちがどん底になるかもだけど、よろです。
あるところに不思議なお店がありました。それは様々な話を提供するというお店でした。
話すのは道化師と名乗る者です。見た目は好青年という感じですが、顔の右半分を覆い隠した仮面は何とも言えぬ妖しげな雰囲気を纏っています。
彼は人間ではなく、化物だと言います。
彼はある時、お店を休業して外へ出掛けました。新たな話を探すために出掛けました。彼には話のタネが生まれるのがわかるのです。
最初に彼が訪れたのは中学校でした。そこにはたくさんの生徒が登校する様子が伺えます。
道化師はその中から一人の女の子を見つけました。彼女は暗い顔でうつむいていました。
道化師は誰にも聞こえぬように「見つけた」と呟きました。生まれた話のタネの主役は彼女のようです。
彼は彼女を監視することにしました。堂々と彼女の動きを見ています。しかし、人外の存在だからでしょうか。
道化師は一つの話のために数日間見ていましたが、あたかも彼がそこにいないかのように、誰一人として気にする者はいません。
そんな中、少女を見ていてわかったことがありました。彼女は嫌がらせを受けているようです。
道化師は迷いました。話としては何かもう少し欲しいと。その何かが無いと『商品』として不十分だと。彼女の苦しみを皆に深く伝えるためには――……。
しかし、彼の迷いもすぐに晴れることとなりました。少女の精神が壊れたからです。壊れてしまった彼女は誰にも気付かれることなく学校に火を点けました。
助けに来た先生を拒み、狂ったように笑っていました。そして、優しげにどこか違和感を感じる笑みで後ろに向かって言いました。
「あなたは逃げないの?」
それは道化師に向けられた言葉のようでした。普通の人間には全く気付かれることなどなかったはずの彼に。
道化師は少し戸惑いながらも、その動揺が外に出ないように気を付けて言いました。
「ワタクシはこれしきでは死なない化物ですから」
「冗談と思いたいけど、そういえば、あなたはずっと私を見てたのにみんな全く気付いた様子が無かったし。その言葉、どうせ最期だもの。……信じるわ」
少女は感情のない人形のように無表情で返します。眼は光を灯していません。
「あなたは何を望むの?何か理由でもあるんでしょ?」
「ワタクシは話を望むもの。話を店の商品とするもの。人間の感情が入り交じった話を探してここにたどり着きました」
「……そう。ならせいぜい語り継いでちょうだい。私の苦しみが、怒りが、みんなに伝わるほどに」
「ならば、最期に聞かせてはもらえませんか?何故、学校を火を点けたのかを。普通に燃やすだけなら自宅でも良かったでしょう?」
「……その方が存在を示せるからよ。学校が火災でしかも被害者が一人だけならマスコミは黙ってはいないでしょ?唯一の被害者をよってたかって調べるわ。それで遺書が見つかったらどう思うかしら?いじめやそれに対する学校の態度について書かれていたらどうなるかしら?これはね、私の最初で最期の彼らへの報復なのよ」
なんと美しい笑みでしょうか。幸せと言わんばかりに微笑みかけます。
しかし、彼女が微笑みかけた時、目の前にいたはずの道化師は居なくなっていました。
「――最期の最期に幻でも見てしまったのかしら。けど、もう……やり終えていい気分よ……。その後のあの人たちを見られなくて残念だけど」
少女は一人ごちました。何故か悲しくもないはずなのに頬に涙が伝います。
「――本当にやり残したこと……無いのかな……」
そんな思いが体中に駆け巡りましたが、いつの間にか服に燃え移っていた炎が彼女の身体を蝕んでいきました。
――後日、新聞には大きく『哀れな少女の人生!見て見ぬフリの学校問題!!』と、いかにも即興で作られたような見出しが載っていました。
道化師はあの女の子のことをふと脳裏に浮かべました。ですがすぐに別のことを考え、少女の存在を忘れようとしました。何故ならこの世界にはありとあらゆる話がたくさんあるのですから。
「……ッ?!」
最期の少女のように、道化師の頬に温かいものが流れたようです。
――自分は化物のはずなのに。
「ワタクシも、甘くなったものですね……」
今日も彷徨った人々が不思議なお店に辿り着きます。カランというドアの鐘の音が鳴り響き、道化師はいつものように言葉を紡ぎます。
「いらっしゃいませ。ようこそ我が店へ」
前書きにもあったけど、通称【衰孤】なこの話の短編\(´∀`*)/
道化師視点を思いついたのは作者の只の我侭であるので…
べ、別に、新しい話三本が思いつかないわけじゃないですから!
【衰孤】はホントに続くかどうか分からないなぁ……
それでもあたたかい目で見てくれると有り難いです……
最後に、作者の水夜としては【衰孤】の本編の内容を深く考えてくれることを期待して――