うれしはずかし能力測定ー宣戦布告? 可愛いだけには負けません
大騒ぎから数日後……
鎮守の森の満開だった桜もずいぶんと散ってしまっている。空寺の不破家は、早朝から、神事に忙しそう。
今日は、不破夕莉の妹、姫乃が境内の掃除を担当している様子。彼女はふと空を見上げる。
早朝の空は、清々しい青色をしていた。
境内からスズメが羽ばたく。
町中の電柱、その電線に止まる仲間に加わった。
仲良く肩を寄せあうスズメたち。ピーチク、パーチク、噂話に余念がない。
それを、よそ目にカラスたちは、道路脇、ゴミ出しの生ごみを鋭い眼光で狙う。収集車の作業員が睨みをきかすと、苛立ったカラスたちは、カァー、カァーとうるさく威嚇をする。
いつもと変わらない風景が、町に広がっていく。
道路を行き交う車が、混み合う。
信号が変わると、待ってましたとばかりに、人々が道路を横断。
週末の金曜日、忙しない一日がはじまだ。
不破夕莉の通う、退魔士育成専門高等学校も生徒たちでにぎわいはじめている。
その、高校の職員室では……
校長が職員会議の締めくくりを述べようとしていた。
「さて、不破夕莉については、女子として扱う。それと、彼の魔道資格は、停止され再審査の対象となったと通達があったことも留意しといて下さい」
「それでは……」
「待つザマス」
ふちの尖った眼鏡をかけた教頭が意を唱える。
「教頭先生、異論があるなら先に……」
「なんども言ってるザマス。不破夕莉を女生徒として扱うのは、いーや、ザマス」
「なんですって! 不破くんの身体は、女性なのですよ!」
「駄目ザマス! 全然、駄目ザマス! ついこないだまで男だった者を女性として扱う? はっ、笑止千万! きっと、破廉恥なことをするザマス!」
「あなたねぇ~!」
「校長先生こそ、いい加減にするザマース! 心技体、そろってこそ女性というもの。馬鹿な男には、そうそう、つとまらないザマス!」
「じゃあ、どうしろと?」
「今日は、新入生の能力測定が、あーる、ザマース。そこで、不破を測るザマス」
「また、そんなことぉー。いいですか、ここは……」
「任せるでザマース、ザマース」
「話? 聞いてる?」
戸惑う校長先生をよそに、こうして、職員会議は幕を閉じた。
不破夕莉がいる教室では……
木陰ひな太が、ため息をつく。
クラス内では、おかっぱ頭の男の娘として、密かに注目を集めつつある人材だが……本人は、男らしく無いことを気にしていた。
木陰流忍術、次期継承者、木陰ひな太は、男を目指している。
それは「漢」と書いて「おとこ」と読ませる、ガチの「漢」だ。
彼は、入学初日、不破夕莉こそ「漢」と思い、憧れていた。それは、一目惚れに近い感情。
それが……だ。
教室に入ってきた、もふもふ系の女の子、可愛いらしい不破夕莉を見て、机に肘を立て、そこに、ほほを乗せると、彼は、深いため息。
「セーラ服なんか、着る必要ある……」
などと、ボソボソと文句を言うしまつ。
そこへ、やってきたのは、パンツ坂本。あの一件以来、彼の二つ名は「パンツ」となって、女子からは、距離を置かれていた。
そのパンツ、もとい、パンツ坂本は、木陰流忍術、次期継承者、木陰ひな太の深いため息を見て言う。
「まあ、不破の可愛さは、反則だからな、負けてても、気にするな」
「なんだって! あんな、可愛いだけの男には、僕は、負けてません!」
木陰ひな太は、立ち上がると、腕を不破夕莉の方へ、おもいっきり突き出して、派手に指をさした。
彼は思う。
「あんな奴に、漢として、負けているはずがない」
教室の注目は、彼に、そして、彼が指をさした不破夕莉に集中する。
そして、ヒソヒソ話。
「ねぇねぇ、ひなちゃん(木陰ひな太のこと)が、夕莉ちゃんに宣戦布告よ」
「きゃー、男の娘と男の娘が勝負するのね」
女子は、キャーキャー。
男子は……
「不破の方が可愛いけど、あいつ、ガサツだからなぁ」
「いやぁ、あの不破の可愛さは、反則だろ」
「耳に触りてぇー」
柊木藍香が、不破夕莉の所にやってきた。
彼女の隣に、もう一人、女の子。
その女の子は、もふもふ系妖狐の不破夕莉より背が低く、ぽっちゃりが可愛らしいタヌキ顔をしている。彼女の髪は、柊木藍香と同じ栗毛なので、まるで柊木藍香の幼い妹にも見えてしまう。
「どうするの?」
「ちっ、柊木かよ。そんなこと、知るかよ。でも、俺が、あんなのに負ける訳がねぇ」
不破夕莉の返答は、喧嘩では負けないという意味。彼には、可愛さ」で競い合うなどという発想が、そもそもないのだ。
「そんな中途半端な姿で勝てる訳がないたぬ。人に化けるなら、尻尾を隠すのが常識たぬー」
などと、マウントをとりにきたのは、騒動の際、お地蔵に化けていた、あのタヌキだ。弱いくせに、マウントをとりたがる、お間抜けなタヌキッ娘。
ちなみに、自分の本当の名前、真名を、騒動の際、話してしまったので、柊木藍香に使役されちゃっている、という、本当に、お間抜けなタヌキッ娘だ。
「柊木ぃー、おまえ、なんで、こんなの使役してるんだよ」
「化けタヌキは、使えるのよ。それに、逃がして、また悪さされるより、いいでしょっ」
タヌキッ娘、ここで、ドヤ顔。
「ムカつく、奴だぜ!」
不破夕莉が、睨むと、タヌキッ娘は、柊木藍香の背中に隠れた。
「ちょっと、わたしの、タヌをいじめ無いでよ」
「くそー、柊木、そいつの真名を教えろ」
「いやよ。それに、あの時、あなただって、聞いたはずよ」
「ほんとっ、ムカつくぜ!」
二度目の「ムカつく」、この声が大きい。
だから、木陰ひな太が勘違いしてしまう。
木陰ひな太は、「漢」として喧嘩を買ってしまう。
「僕だって、君みたいのに、負けないんだからぁ」
木陰ひな太の懸命な叫び。両腕をエイッとして、腰を突きだすような格好だから「かわいいぃぃ」と男女問わず思わせてしまう。
バァーン!
でしゃばりのパンツ坂本が、黒板を叩く!
「よし、この勝負、勝った方に、俺がキスをしてやる!」
「またかよ!!」
「パンツは、引っ込め!」
「そうよ! そうよ!」
大ブーイングの嵐!
化かされてないクラスメイトは、常識人だった。
「俺は、どっちでも、いけるんだよぉ!」
二刀流を主張するが、彼方此方から文具を投げつけられる。終いには、椅子や机が、飛んでくる始末だ。
ここにきて、坂本は口走ってしまう。
それは、不破夕莉と柊木藍香が、同時に目に入ったからかも知れない。
彼は、口走る。
「分かった、分かった、勝った方は、柊木さんからキスをもらえる」
「引っ込めよ!」
「そうよ! そうよ!」
「柊木さんが、かわいそうよ!」
坂本は、めげない。彼は、どうしても、お祭り騒ぎをしたいらしい……
「いいのか! 不破ぁ! 木陰ぇ!」
「いいのかって、なあ?」
「なあ? って何よ!」
柊木は、何故かムキ。
「木陰ぇ、お前は、どうなんだ」
「ぼ、僕は、柊木さんがいいって言うなら……」
木陰ひな太は、漢になれるチャンスと密かに思う。
「そういえば、柊木さん、この前、夕莉ちゃんとキスしてなかったけ?」
「そうそう」
「きっと、柊木さん、夕莉ちゃんのこと好きなのよ」
女子が盛り上り、それは、クラスメイトの恋の応援を、本人の気持ちも聞かずに、走り出す雰囲気を作りはじめた。
「いやいやいや、待て待て待て、キスしても、男に戻らねえから……」
不破夕莉のかたくなな態度に、柊木藍香は「なっ!」という悲鳴。
「不破ぁ、俺は、思うんだ……キスって、唇を重ねるものだろう」
「キャーーーー!」
女子と男子が、同時に悲鳴を上げる。「いいぞ、パンツ」という声も混じっていた。
「ちょっ、ちょっ、ちょっ、待ちなさいよ! なんで、こんな奴と!」
今度は、柊木藍香がかたくなな態度。
「こんな奴って、何だよ!」
「そうだ不破! 男に戻れるチャンスだ!」
坂本は、熱弁をふるう。
「柊木さんも、嫌なら、勝てばいいんだ。そこの、タヌキも、なんなら、使っていい」
「えっ、えっ、えっ、でもでもでも」
「そうよ、柊木さん、勇気をだしてぇ!」
女子が軍団になって、柊木藍香の背中を押した。
「いいわ、でも、どうせ、勝つのは、わたしだからねっ!」
こうして、柊木藍香は、軍門に降ってしまう。
「でっ? 勝負ってどうするのよ?」
ピシャーン!
教室の扉が開いた。
「その勝負、私が預かるザマス」
教頭先生が教室に入って来たのだ。
「今日の能力測定で勝負をするザマース。体操服に着替えて、みんな、体育館に集合ザマス!」
教頭は、尖った眼鏡の位置を指でなおし、キラーンとさせる。
「くそっ、めんどくせぇ……が、勝つのは、俺だぜ」
甘い香りを振り撒きながら、ふわふわの黄金の髪が大きく揺れた。
可愛らしい女の子は、制服の上着の裾を両手で掴む。
ゴクリ……
男子生徒の生唾の音。
木陰ひな太も、顔を真っ赤に染めてしまった。
夕莉はセーラを脱ごうと……
「こらっ! あんたっ、何をしてるのよっっ!」
柊木藍香が慌てて、夕莉を止める。
教頭の採点は、もう始まっていた。
「不破夕莉、破廉恥、マイナス十点。木陰ひな太、純情、プラス十点と……」
こうして、西園寺が風邪で不在の中、
不破夕莉、木陰ひな太、柊木藍香、タヌキッ娘。
四人の内、女子力一番は、誰なのか?
波乱の、嬉し恥ずかし能力測定、いざ、開幕!!