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巫女の神楽〜妖狐ピンチ、女子中学生にぬいぐるみ扱いをされてしまう。

 不破夕莉(ふわゆうり)たちの廃校舎は、森に囲まれている。グランドから、彼らは、その森へと、足を踏み入れていく。


 木々が葉が、風に揺れている。カサカサという、ざわめきのような音。息を吸うたびに感じる、森林独特の土と緑が混じった香りは、都会育ちの生徒たちには新鮮だ。


 入ったばかりの頃は、ちょっとした探検気分。でも真剣。木々の隙間、その先のずっとずっと向こう、見えない場所にまで神経をとがらす。


「ねえ、なんか妙じゃない?」

 柊木藍香(ひいらぎあいか)が、あたたかい春というのに、真冬に外気にふれて、凍えたように、自らの身体をさすった。


 日下優歌(くさかゆうか)は、彼女の隣りでキョロキョロしている。柊木藍香が使役している刑部茶々(ぎょうぶちゃちゃ)は、用事があるらしく、ここにはいない。


 夕莉ゆうり藍香あいか優歌ゆうかの三人は、かたまるようにして、森を歩いていく。腐葉土を踏むときの独特の足音。小さな、小さな、足音が、各々は、体感を伴って感じていた。


 坂は険しく、地面には、木の根が張り出し、凹凸が激しい。そのため、生徒たちの、足元はおぼつかなかった。


 人が滅多に入らない場所。頭上は木々の葉がおおい、視界は、薄暗い。そこに広がる景色は、雑草はたぐいはなく、苔の緑と幹の焦げ茶、土のもっと濃い茶色といった具合だ。


 音も、色も少ない寂しい空間。


 藍香が、ブルッと身体を震わす。


「ねぇ、ちょっと不気味じゃない?」


 彼女は、後ろを振り返って夕莉を見た。


「昨日の妖魔たちの出どころだからな」

 彼女の後ろを歩く、夕莉の方は、鼻をヒクヒクさせ、長い耳はピクピクと動かし、匂いと音で、周囲を警戒している様子だ。


 他の生徒たちも同様に慎重になっていた。

 いつもうるさい、男子生徒たち、パンツが大好きな坂本ですら、雑談をしていない。


 誰も彼も、違和感を感じている。


 その原因に気がついた者が二人。


 その一人は、普段の森を知っている日下優歌(くさかゆうか)


 もう一人の方は、不破夕莉だった。妖狐の研ぎ澄まされた感覚が違和感の原因を、既に、彼に告げている。


 夕莉ゆうりが前を向く。藍香あいかは、相変わらず寒そうに身体を縮こませていた。彼女は、足元を気にしながら、慎重に前を向いて歩いている。


 後ろを歩く夕莉にとって、彼女の背中は無防備に見えた。


 夕莉は、ニタリと笑う。


「わっ!」


挿絵(By みてみん)


 ガォーッと藍香の背中を襲う。


「きゃーーっ!」

 最初に藍香。次に優歌。二人の女生徒が、次々に、悲鳴を上げた。他の生徒たちも、何事かと騒ぎはじめた。


 柊木藍香は、悲鳴を上げ、涙目になると、そのまま直ぐに振り返る。彼女の感情は、驚きから怒りへと変化する。こめかみに「怒り」を表す記号が浮かび上がっているのが、誰の目にも明らかな表情へと変わった。


 日下優歌も最初は同じ、驚きだった。その次が違う。


 だから、二人の、夕莉への反応も違った。


 藍香は、振り返ると夕莉をにらむ。


「こどもみたいな、悪戯は、やめなさいっっ」


 彼女は、そう言うと肩を怒らせるように上げながら、スズッと鼻をすすり、目をこすった。


 日下優歌の方は、表情がパァーッと明るい。


 そして、彼女は、勢いよく、夕莉に迫った。


「おわっ、よせよせ、は、はなれろ!」

 夕莉はもがくが、抜け出せない。それは、人より優れた身体能力を待つはずの妖狐の力を持ってしてもだ。


「うわうわ、うわぁ、やっぱ、夕莉ちゃん、可愛いですぅ」

 優歌は、ギュッと夕莉を抱きしめる。


 今度は、夕莉の方が、息苦しさで涙目になってしまう。


 柊木藍香は、そんな夕莉を嬉しそうに見る。

「そんな目で、助けを求めても無駄だからね。自業自得じゃない」


 悲鳴を聞いて坂本が駆けつけてきた。

「おい、大丈夫か!」


 これが、彼の第一声。


 そこには、もふもふの妖狐の女の子を、ぬいぐるみのように抱きしめる女子中学生、日下優歌の姿が……


「不破ぁ、おまえ、なんて、うらやましい」

 彼は、ぐぬぬぬぬとくちびるを噛み締める。その他、大勢の男子生徒たちの視線も険しい。


「さ、さかもと、助けてくれ」

 不破夕莉が伸ばした手を、坂本は、叩き落とした。


「ふん、やだね。助けて欲しいなら、俺と……、ぐへっ!」

 彼は、言葉の途中で、森の奥からイノシシのような勢いでやってきた、何者かに、吹き飛ばされてしまう。


「若さま!」

 駆けて来たのは、不破の祖父が宮司をつとめる空寺そらでらの巫女で、この村に先に来ていた矢口弥生(やぐちやよい)


 朝早くから、森を探索していた彼女は、悲鳴を聞きつけ駆けつけてきたのだ。


 遠目には、抱き合って震える少女二人が、暴漢に襲わる寸前に見えてしまう。


「若さまは、弥生やよいが、お守りします」


 スーツ姿の彼女は、仁王立ちで、そう宣言をした。


 その後、坂本を、あわや成敗という寸前で、彼の誤解は解け、ことなきを得た。


 森を抜けた、広場への道を、空寺そらでらの巫女、如月弥生(きさらぎやよい)が案内をした。意外なことに、地元で山に詳しいはずの、日下優歌も、その道を知らなかった。

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