表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/16

ドキッ初めての宿泊学習ー到着から大騒動?

 道すらない山奥。

 人の手が入っていない森の中。


 木々は無秩序に生い茂り、太陽を遮断し暗闇を演出していた。


 一匹の妖魔が樹木の隙間をぬうようにして駆け抜けていく。その動きは、何者から逃げるようであり、獲物を狙う勇ましさは微塵もない。


 矢が空気を切り裂く音。

 一本の矢が進む。


 それが、妖魔に命中すると、鋭く鳴き叫び、霧散して討滅された。


 そこから、ほんの小さな隙間。立ち並ぶ木々の間。豆粒より小さな隙間だ。


 その先に矢を放った彼女はいる。


 彼女は、空寺そらでらの巫女。退魔士の仕事を請け負い、寺をずっと不在にし、この地を訪れていた。


 今はスーツ姿の矢口弥生(やぐちやよい)は、桜の弓を無造作に仕舞う。


 四国の山奥、伊予村。

 都会から遠く離れた山村では、大年寄り会(おおとしよりかい)が開かれていた。

 公民館に集う姿は、山村ならではの、のどかさをかもし出す。


 そこで、百年に一度の大祭は決定された。


「しかし……この時期は……」

 村長がハンカチでひたいの汗をぬぐう。


「あの小娘のほかに問題があるのか!」


「はあ、それがあ……」


 小娘とは、空寺そらでらの巫女、矢口弥生(やぐちやよい)。そして彼女は、退魔士の仕事を国から受託して、この村に来ている。


空寺そらでらの名の由来ぐらい知っておろう。国の依頼など……」


「そう仰られても、ふもとからは、ここが元凶と……」


 妖魔の被害が頻発している。それは、他愛のない小さな事件。死傷者は、まだ皆無とは、その数が多すぎる。


「そうならんように、大祭を取り計らう。お稲荷さまも、それをお望みだ」


 大年寄り会は、幕を閉じた。


 村長は車に乗り込むと携帯で話しはじめる。


「君、そうえば、退魔士育成高等の連中の件……」


 四月も終わりに近づくと木々の若葉、道端に生い茂る雑草の緑が、まぶしくなってくる。


 九十九(つづら)折りになった、急カーブが続く山道を一台のバスが駆け上がっていく。いくつもの尾根を越え、谷を下り、行き着く先、開けた空き地でバスは停車した。


 四国の山奥、伊予村に、退魔士育成高等学校一年生、不破夕莉のクラスが乗ったバスは到着した。


 日も沈む頃、刻一刻と、空が赤く染まりはじめている。


 明日からは、この地で、育成訓練が目的の宿泊学習が、本格的にはじまるのだ。


 不破夕莉の目の前に広がる風景。

 山に囲まれた、自然豊かな農村地帯、そこに学校はある。

 木造平屋の建物、そこがバスから降りたクラスメイトたちが見上げた校舎だった。


 その玄関口に、一人の少女がいた。背丈の低い少女。


 彼女は、緊張が最高潮に達していると言わんばかりの表情で、お辞儀をする。


「は……初めまして、今日から、こちらで皆さんのお世話係りを務めさせていただきます、日下優歌(くさかゆうか)です!」


 彼女は深々と頭を下げた。


 彼女の肩には鞄がかけられており、その中には筆記用具や着替えが入っているのだろう。その鞄を持つ手がプルプル震えている。


日下優歌(くさかゆうか)さん?」


 柊木藍香が、彼女に近寄る。

 そして、「こんにちは」と声をかける。


「あのあの、こ、こんにちは」


「そんなに緊張しないで、ね」

 と、言いながら、手をつかんで握手を求めた。


 日下優歌(くさかゆうか)はおどおどと手を差し出し、彼女の手をしっかりとつかむ。


 柊木藍香は、そんな彼女に微笑んだ。

 そして、視線を不破夕莉へと……


 その瞳は「少しは気を使いなさいよ」と語っているかのよう。


「ん?」

 夕莉は首をかしげた。


「あのあの、こ、この可愛いすぎるのは、な、なんですか」

 日下優歌は、表情をパァーと明るくさせ、今にも、夕莉をモフリはじめる勢い。


「あれよ、あれ、得意の抜刀とかいう曲芸を見せて上げなさい」


 抜刀……

 木陰ひな太を黒霧の野狐の群れから救った際、見せた技。


 それは、ただ剣を現出させるだけでなく、夕莉の姿を変化へんげさせ、侍の姿をした男に戻した技でもあった。


 今までと違う抜刀。


 当然、夕莉は、あれから何度も抜刀を試したのだが……

 その結果をクラスメイトたちも知っている。


「夕莉ちゃんが抜刀するわよ!」

 キャッキャッと女子たちが集まってきた。


「な、何だよ! 見せ物じゃねぇぞ!」

 夕莉がガルルルと吠える。


「あのあの、え! え! 抜刀って何ですか!」

 日下優歌も興奮の絶頂に巻き込まれた!


 皆の期待の眼差しが、不破夕莉、その小さくて可愛らしいモフモフの女の子に集まってしまう……


「これが、最後だからなあ!」

 夕莉は目をつむる。


 そして、可愛らしい声で叫ぶ!

「ばっとう!」


 ぴょんと跳ねて、エイッと刀が現出する。

 それは、刀というよりは、小太刀? よりも小さいナイフ? それとも玩具の刀というべきか……


 ここに、おもちゃの刀をエイッと振るう、モッフモフの可愛らしい女の子が誕生した。


 しかも、刀を振るうたび、桜の花びらが、ヒラヒラと数枚、舞う。

 そんな役に立つのか、立たないのかという術式のおまけ付き。


「おお〜」

 パチパチと拍手が起こる。


「く、くそう、バッカにしやがって!」

 不破夕莉が刀を大きく振った。


 桜の花びらが天を覆う。


 空は夕焼け。

 夜も藍色を濃くしながら迫っている時間帯。


 そこに桜が色を添える。


「綺麗……わたしは、好きよ……」

 柊木藍香は、そう言うと、顔を夕焼け色に染めて「違う! 違う!」と全力を出し切ろうとしていた。


「あ……あの……」

 日下優歌(くさかゆうか)の言葉は、途中で消えてしまう。


 不破夕莉は、刀を鞘に収めた。


 矢口弥生(やぐちやよい)は、少し前から、その光景を見ていた。空寺そらでらの巫女であり、退魔士の仕事で、この村に訪れている彼女……


 その視線の先、妖狐の姿をした美少女がいる。


 腰まで伸びた黄金こがね色の美しい髪、そこから飛び出す耳には気品があった。立派な尻尾は、豊かさを象徴しているかのよう。


 不破夕莉の祖父、一心(いっしん)から事情を聞いていた矢口弥生は、確信した。


 そして、もう一つの事情を彼女は試す。


「若さまぁー」

 スーツ姿の美女が、不破夕莉たちの方へ飛び出してきた。


 凄まじい勢いで、その距離を、一気につめる。


 そして……


 妖狐の姿をした不破夕莉を抱えてしまう。


 美女が美少女を抱えキスをする。

 矢口弥生は「若さま」と慕う不破夕莉とキスをした。


「な!」


 クラスメイトの驚き、そして、女子は、その中の一人をのぞいて嬉しいそうでもあった。男子たちは、憎しみを込め、その中に混じる二人は、少し違う感情も散りばめらている。


 とにかく、


「な!!」

 という悲鳴をクラスメイトはあげ。


 日下優歌は

「と、都会の人ってだいだんだな」

 となまってしまう。


「矢口姉ぇ、なにを、すんだよ!」

 不破夕莉の声は勇ましいが、後ずさりをして、たじろいだ。

次回こそ、温泉!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ