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#1

「……あれ……」


 身体がほかほかしていて温かい。

 おそらく自分の体温だろう。

 確か、わたくしはたくさんの民衆の前で公開処刑を行われ、生きてすらいない。

 体温すら感じないはずなのに……


 ふと目覚めると部屋の天井と太陽の暖かな光が視界に入ってくる。

 一度目は暗くて薄ら寒い地下牢に監禁されていたのに、今はふかふかで温かいベッドの中にいた。

 少し腕を出して手を見ると最期に見た時と比べ、かなり小さくなっているような気がする。


 今の自分の容姿がどうなっているのか見てみたいという欲求が芽生えた。


 その時、わたくしは生きていると実感したが、どのようにして生き返ったのかは分からない。

 とりあえずは鏡を探さなくては!


 あ、その前に……紹介遅くなりました。

 わたくしはセレス。セレス・バーネットと申します。

 今は鏡を探しております!

 ……ではなくて、改めまして先ほども書かせていただきましたが、元は婚約者(フィアンセ)がいた公爵令嬢です。

 ギロチンによる公開処刑が行われ、強制的に命を絶たれたご令嬢だと思っていただけると――。


「あ、かがみ……とどかない……」


 わたくしはようやく鏡らしきもの見つけた。

 しかし、身長が低くなっているせいか、なかなか届かない。


「セレス!」

「何しているの? って……」

「目が覚めている!」

「立って歩いているわ! あなた、先生を呼んできます!」


 わたくしが鏡を必死になって取ろうとしていた時に声がかかった。

 お父様、レイス・バーネットとお母様、カレン・バーネット。

 二人共、わたくしがギロチン処刑されてしまう前は夫婦揃って冷笑を浮かべて見下していたのに、何故(なぜ)優しそうな微笑を浮かべて喜んでいるのかしら?

 全く理解できませんわ。


「セレスは今、何をやりたかったのかなぁ?」


 お父様がわたくしを溺愛しているような口調で話しかけてくる。

 その口調は気持ち悪くて好きではありません。


「パパ。かがみ、とって」

「セレスはご機嫌ななめなのかなぁ? そういうところも可愛いぞ」


 わたくしがご機嫌ななめそうに言うと、お父様はそれが分かっているかのように快く鏡を取ってくれた。

 あの方は本当に(・・・)わたくしのお父様?

 嘘です! あり得ないですわ!


 受け取った鏡を覗いてみると、わたくしは本当に小さい子供になっていた。

 胸の高さまで長く伸びた銀髪、くりくりした大きな紫色の瞳、可愛らしい鼻と口、小さな手。

 この姿はわたくしが五歳か六歳くらいの容姿だったはず――。


「あら、セレスちゃん。ようやくお目覚め? もう無茶はしちゃ駄目よ」

「はい。ごめんなさい」

「螺旋階段から滑り落ちて気絶だなんてお転婆令嬢だな」

「セレス。これからは気をつけなさいよ?」

「はい」


 お医者様やお父様、お母様から注意されてしまった。

 そのあとはお医者様から鎮痛剤として甘く飲みやすくしたシロップを受け取り、ひらひらと手を振って退室する。


「もう、いつも言っているわよね? 螺旋階段は滑り台ではないからねって……」

「バーネット家の恥をかかないように気をつけるように。いいかい?」

「……ごめんなさい……」

「何かあったらこの呼び鈴(ベル)で呼びなさい」

「はい」


 そのような会話をして両親はわたくしの部屋から退室した。


 幼い頃のわたくしの癖は螺旋階段を滑って降りること。

 そのことは両親はもちろんのこと、使用人からも言われていたから分かっていた。

 どうやら、わたくしは螺旋階段から滑り落ちて気絶したことから二度目の人生を始めることになったようだ。


「もう、おとうさまやおかあさまのいうことはきかない。わたくしのじんせいはわたくしがきめる!」


 今回は両親の言うことをきちんと聞いておいたけど、もう二度とあなた達の言うことは聞きませんわ!

 わたくしはわたくしらしく二度目の人生を送らさせていただきますわ!


「……これからはいらない……やさしさやまわりのあいじょうも。みんな、みんな、いらない!」


 まずは自分の心を壊すことに致しましょう。

 わたくしは優しさと両親や周囲からの愛情を捨てることにした。

2022/08/31 本投稿

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