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ダンジョンの出現



その知らせが届いたのは、一回目のお茶会が開かれる日の早朝だった


『なんだと!!! 直ぐにエッカート辺境伯に伝えろ

 儂は王城へ向かう、子供達は屋敷から出ぬように伝えてくれ!!』


部屋で起きたばかりの僕は、姉様に着替え手伝って貰っていたところだ

広間の方から、先程のお爺様の声が聞こえていた


『何かあったのかな?』


姉様と顔を見合わせたが、少し姉様は不安そうな顔をしていた

早目に支度を済ませて、広間へ向かおうとすると

メイドが別の部屋に案内してくれた


部屋には父と母とお婆様がいた、遅れて妹のクラリスもメイドと一緒に来た

父も母もかなり深刻な顔をしている


『お前達、先ずは座りなさい…

 どうやら、王国内で大量の魔獣が出始めたらしい』


王国内は比較的平和だったのだが、隣の帝国や、共和国などの周辺諸国辺では

魔獣が頻繁に出没し、各国はその対応に追われていた

そのせいで、国同士が戦争をしている場合では無くなったのだが…


ー 魔獣 ー


元々、魔素の濃い場所では魔素の影響を受けて、獣が魔獣化する事はあったが

それ程多くの魔獣が出没する事は、これまでは無かった

魔素の濃い場所など、そんなに多い訳では無かったからだ

ただ、この数十年は世界のあちこちで、出没する様になり

ここ数年はその数もかなり増えてきていた


ダンジョン が出現するからだ


ダンジョンはなんの予兆も無く、ある日突然出現する

出現した後、気付くのが余りに遅いと

ダンジョン内にいた魔獣が、外まで溢れて出て来るそうだ

その数は数千から多い時には数万となって街を襲う

出現した後に気付くのが遅れたせいで

壊滅的な打撃を受けた街や国は多い、と本でも読んだ

特にうちの領地に隣接している帝国は、数あるダンジョンに今も悩まされている

何故ダンジョンが出現するのか、その法則も含めてまだ分かってはいない


『どうやら、王国内でも複数のダンジョンが出現したと思われる

 東や南の方では既に、街にまで被害が広がっているとの連絡が入った

 うちの領地にも…多数、魔獣の出没が確認されている

 私は急ぎ戻って、対応を行わねばならない

 帝国から漏れ出て来たのか、最悪…領内にダンジョンが発生している可能性もある

 捜索隊や討伐隊を編成し、対応に当たる事になる』


父は非常に難しそうな顔をしていた

ここ数十年は帝国との戦争も無く、領内の兵士の数は数千といったところだ

魔獣討伐の経験も数多くは無い筈だから更に厳しい

魔獣は強い個体になると、一体につき数十人で対応する必要が有る

ダンジョンが出来ていたとしたら、単純に人の数が足りない…


『王都からは、比較的離れた場所での目撃例しか無いので…ここは安全だ

 だからお前達はここに残っていて欲しい』


『私は強い攻撃魔法が使えますから、貴方に同行します!』


母は父が言い終えるよりも早く、そう告げていた

その表情は絶対に引かない時の表情だった


『サーシャ、お前は子供達と一緒にいて欲しいんだ…

 王都でも討伐隊が編成され、各地へ救援に向かう事になるだろう

 それまでは持ち堪え無ければならないが、なんとかなるだろう』


『いえ、領内にも出没したのであれば、私がここにいる訳にはいきません』


母も一歩も引く気は無さそうだ

そもそも魔術師の人数自体は少なくないのだが

強い魔法や広域魔法が使える魔術師が少ない

特に広域魔法は一人で兵士の何十倍もの働きをする事も多い

母は広域魔法を得意としているので、譲るつもりは無いだろう

僕も強い魔法も広域魔法も使える、多分、母より数段上の魔法が…

特に魔術師の中でも使い手が希少な、回復魔法が使えるのだが

父や母は、、その事を知らない 理由があってまだ誰にも告げていないからだ

さて、どうするべきかなぁ…


父や母がやり取りをしている間にも、次々と伝令が入って来ていた

その内の一つを見て、父は一層厳しい表情をした


『やはり、各地で急にダンジョンの出現が確認されている

 そして…我が領内でも二つ確認された、内一つはかなり活性化してきている

 これはもう猶予が無い、大至急早馬の用意を頼む、私は領内へ戻る!』


父が立ち上がると母も一緒に立ち上がった

そんな母を見て、父は…酷く思い詰めた顔で頷いた


『父様、母様、少しお待ち下さい! 僕の話を聞いて頂けませんか?

 僕は攻撃魔法も使えますが、実は…回復魔法も使えます

 普段の訓練では使わない…いえ、使えない程の強い魔法も幾つかあります

 僕も一緒に戦わせては頂けませんか? 回復魔法はきっと役に立ちます』


そう言って両親を見つめると、非常に驚いた顔をしていた

回復魔法は領内でもたった数名程しか使え無いが、全くのゼロでは無い

ただ、回復に関する魔法以外…攻撃魔法は全く使え無いと言われている

歴史書や魔術に関する本を幾つも読んだが、両方が使えた記述は見当たらなかった


『え?! そ、そんな事、ありえないわ 聞いた事が無い』


母は自分も魔術師だからだろう、僕の言った規格外の事を理解出来ないでいる

父も聞いた事が信じられない顔をしていた


『僕も幾つか調べましたが、攻撃と回復が使える魔術師は過去にもいませんでした

 僕だけが特別なのかそうで無いのかが分かるまで、黙っているつもりでした

 特別だった場合、身に危険が及ぶ可能性が高いと判断したためです

 これまで、黙っていて…申し訳ありません』


僕は立ち上がって皆に頭を下げた


『ヒール』


そう言って母に回復魔法を掛けた、回復効果は無いが魔法の発動は見えている

母が淡い光に包まれているその姿を、部屋の全員が黙って見つめていた


父や母、姉妹、屋敷の者達には

武術が得意で、少し強めの魔法が使える程度だと、僕は思われている

特に武術の訓練を多くこなしてるので、武術が得意だと感じていた筈だ

僕がそう思うように仕向けていたから、ね


魔法の発動が確認出来た日から、毎日眠る前に枯渇するまで使用している

魔法錬成がスムーズになってからは、日常的に使って、更に加速させていた

ただ、自分一人でいる時だけでしか使っていなかっただけ

本を読んだり、領内を視察したり、家畜の世話などの時も使っていた

そのお陰で、能力値はかなり上昇している


武術が使えても七歳の子供の身体だ、能力はあっても肉体の限界が先に来る

本気で全力を出すと、多分…身体に深刻なダメージが出る

だが魔力は精神に関係する様で、今はまだ限界が見えていない

使う程に上昇し続けているので、今では相当な能力になっていると思う


『本当に…使え、る のね…』


母は自分に掛けられた魔力を感じて、嘘では無い事を理解したみたいだ

激しく様々な色で明滅してるので、かなり動揺しているみたいだけど


『はい、リカバリーも使えるので

 対応が早ければ、ある程度までの部位欠損なら、回復出来ると思います』


『そこまで使えるの?!』


それを聞いて、驚くよりも呆れた顔をしていた


『リカバリーって、王国内でも数名しか使えない貴重な魔法なのよ…

 使える魔術師は全員が王国の特級魔術師団に所属しているわ』


父と母以外は魔法について余り詳しく無いので

リカバリーの説明を母が皆にしてくれていた

聞いた事も無い魔法だったせいで、余り理解は出来ていない様だが

ただ、特級魔術師団は、場合によっては数年に一人ぐらいの…

特に魔術師として優れた者しか、入れない事ぐらいは皆が理解していた


『何で今までそんな大事な事を…、、あぁ、言える訳無いな、すまない』


父は特級魔術師の資格があるので、僕は国に保護されるべき立場だと理解していた

だが、先程の理由のせいで、今まで黙っていた事も理解してくれていた


『サーシャ、どう思う?私には答えが出せない…

 ニーノがいれば確実に被害は減らせる、でもまだ七歳の子供だ!

 自分の息子で無かったとしても、戦場に連れて行くのは躊躇うだろう』


『いえ、連れて行きましょう

 リカバリーが使えるのだとしたら、、恐らくは…

 本当はかなり強い攻撃魔法、、

 もしかしたら上級の攻撃魔法も使えるのでしょう、ニーノ?』


母はそう尋ねてじっと僕を見た


『はい、上級魔法と…幾つかの特級魔法も使えると思います』


『はぁ、、…もう特級魔術師団長を超えてるじゃ無いの……

 あなた、ニーノはこのまま成長すれば、この国で歴代最強の魔術師になります

 七歳の現時点でも、既にこの国の上位になるでしょう

 身辺警護は必要ですが、ニーノは絶対に必要になります

 私達には領民や領地を守る義務が有ります、だからニーノは申し出たのですね』


『はい、父様、母様 今まで黙っていて申し訳ありません

 僕はニーノ=エッカートです

 皆を守れる力、救える力があるのに、もう黙っている訳にはいきません』


『ニーノには私の配下の、優秀な護衛を数名付けましょう

 もう…立派な、エッカート辺境伯の息子に相応しい、良い顔をしていますよ』


お婆様がそう申し出てくれたお陰で、僕も一緒に領内へ戻る事となった



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