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白金貨十枚の男



『もうすぐ王都ですね、母様』


馬車の旅は疲れる、、お尻が痛すぎる上に振動も半端ない

これは長距離移動を躊躇せざるを得ないよね

車両にも馬車本体にもゴムの様な、振動を緩和する様なものが無いからなぁ

お爺様やお婆様の年齢だと相当キツイはずだ

後、振動のせいで相当酔いそうになるね、これ…早急に改善したいところだ


馬車での移動中は、基本的に暇になるらしいので娯楽もいるかも

今回は移動中もずっとレクチャーを受けてたので、時間は足りない程だったけど


(しかし、貴族の交友関係や背後関係、特産やお金事情など…

 こうも覚えておく事が多いのは、相当優秀な人でないと厳しそうだ)


父にも、僕にも専属のメイドと執事がいる

当主に代わって補佐出来る人材は、相当に重要なポストだなぁ

僕は能力もあって、覚えてられるんだけど姉妹は大変だ

そんな風に考え事をしてたら…


『普通はこんな人数を一度に覚えて無くても、大丈夫なんだけどね

 今回は王国中から人が集まるし、過去最大規模とも言われてる

 王族の全員参加なんて珍しいのもあるんだが…

 規模が大きくなった理由の半分以上は、お前だよニーノ』


『え?!』


僕だけでなく、姉や妹も驚いていた


両親は苦笑いしながら、皆んなは神の子を見るために来るんだと言った

特に僕と王族や主要貴族との関係を、見極めるためらしい

うちは王族派だから、手出しはして来ないそうだが…

妬みや嫉妬は理屈じゃないからなぁ


『今回はついでに、ニーノの家庭教師を新たに増やす予定だから

 良い人がいたら一緒に連れて帰る事になるからね』


既に家庭教師は何人もいるんだけど…

最近は物足りなくなって来てるのを、既に両親は見抜いていた

武術も魔術も子供の領域を大きく逸脱してるらしく

現役の騎士や学院の教授辺りを引き抜くつもりらしい


十二歳になったら王立学院への入学が認められる

両親も通っていて、そこで出会ったらしい

まぁ一応入学試験はあるのだが…そこは、、ね

ただ特待生クラスは例外で、かなり優秀な成績でないと許可されないそうだ


(僕の家庭教師達も特待生出身だったはずなんだけどなぁ…)


魔術を教えてくれている彼女が言うには、既に今の時点で入学は余裕とのこと

武術に関しても全く問題無いので、受ければ通ると聞いている

それどころか、、授業は物足りなく…つまらないかも?と別の心配をされていた

まぁ僕の場合は、人脈作りが最大の目的でもあるので入学予定だなぁ


『ニーノが最大の目的って事は、やはり婚約者探しですか、父様?』

テレジア姉様は、僕以上に反応して驚いたのだが…

隣にいるテレジア姉様と妹のクラリスが、凄く濃い赤い色をしてたので

二人とも相当怒っているんだろうなぁ…と想像は出来た


『まぁ、そうだね…テレジア、、、クラリス』

両親は苦笑いしながら、二人を宥めようとしていたのだが…


『ニーノには、まだまだ…二十年は早過ぎると思います!』

『兄様にはクラリスがいるから、ずっと必要ありません!』


あれあれ? 僕の婚約話だよね? 両親以上に過保護過ぎるのでは?

テレジア姉様、二十年って事は二十七才まで結婚させない気なのか?!

あれ…その頃姉様は三十才、、自分も結婚せずに家に残る気なのか…


そしてクラリス、お兄ちゃんとは結婚出来ないぞ、知ってるだろ?

何度もちゃんと教えたじゃないか…


貴族の適齢期は早い、十代前半に婚約、後半に結婚なんてザラにある

遅くとも二十代の中頃までには結婚しないと、不味い事になる…

子供を子孫を残せないと、家を継がせられなくなる

優秀な養子を入れる事も多いそうだが、それも貴族の子だからね…

女性は二十代に入ると、行き遅れ扱いになるそうだから、更に厳しいなぁ


結局、王都のお爺様の屋敷に着くまで、二人の抗議は続いていた



王都にあるお爺様の屋敷は相当大きい、かなりの実力者だったんだろう

周りの家も大きく立派なんだが、その倍は優にあった

馬車で屋敷の前まで行くと、数十人の従者やメイド達が待っていた


『待っておったぞ!!! ニーノ、テレジア、クラリス!』

そう言って、お爺様は父を通り越して僕たちの前まで来た…


『父上!!! 流石にこれは容認出来ません!』

母はかなり怒って長らくお爺様に抗議していたが…

周りの従者達にも宥められ、屋敷の中へと入った


通された応接室は非常に豪華な造りをしていた

飾られている絵画や調度品も、、、この壺一つで幾らするんだろう…


『ん、んん、改めてよく来てくれたエッカート辺境伯、そして皆も

 王都に滞在中は我が家と思ってくつろいでくれて構わない』

『遠いところ、大変でしたね 挨拶が済んだら一度休憩にしましょう

 ニーノ達にはお菓子も用意してあるの、後で皆で一緒に頂きましょうね』


既に母に叱られて、バツが悪そうに咳払いして父に挨拶をしている

二人は今後のスケジュールについて大まかに確認していた

お婆様は終始ニコニコしていていたが、何気に僕をずっと見つめていた

その眼差しは強い慈愛に満ちていた、もちろん濃い桃色をしている


『早速ではあるが、ニーノはこの後で別室で早めに採寸してしまおう

 お茶会やお披露目会用の衣装が、かなりの数が必要になるからな

 他の皆は少ししたらメイドに呼ばせるから、部屋で休憩すると良い』


お爺様がそう告げた後、お婆様に連れられて別室へと向かう

その間もお婆様は僕を見つめて終始ニコニコしていた


『ニーノは容姿端麗だから、色々と着せる甲斐があるわぁ

 本当に女の子みたいに整った顔立ちと肌をしてる

 サーシャ譲りの銀髪と、透き通る様な碧眼はかなり好まれるでしょう

 立ち振る舞いも品があって…既に立派な貴族として通用しますよ?

 アイシアもエリザベートも大変ね、これは婚約者争いはかなり…うふふふふふ』


何やら不穏な発言をしながらも、終始笑顔で僕を褒めてくれた

それからゆうに四時間程、取っ替え引っ替えしながら 何度も服を着せられた

途中から、お爺様、両親、姉妹も入ってきたのでかなり長く掛かった、、、

お婆様が取り敢えず三十着ね、と言っていたので驚いた!

お爺様もそれぐらいは必要だろうと笑っていたのだが…


子供だから成長するよ?! 直ぐに着れなくなるよ! しかも式典用だよ?!

母も流石に多すぎると言ってたので、減る事に期待しよう…

後で聞いたら、姉様の時は五着だったらしい、、それぐらいだよねぇ


僕の試着が長すぎて、姉や妹もついでに別室で採寸や試着をしていたらしい

てか、姉様は女の子なんだから、僕の服より自分の服を優先して下さい

後、クラリスは僕とお揃いにする様に、お爺様にねだらないように

クラリスはかなり要領が良いので、色が見えてるんじゃないかと時々思う…


その日の夜は歓迎会として、お爺様の友人方も招かれていた

父の挨拶に同行して、一緒に挨拶に回る


『君が神の子か! …うん、確かに神の子だな、うちの孫が五才なんだが…』

『やっと会えたな、ホワードが自慢するのでな、一目会ってみたかったのじゃ

 うんうん、良い眼をしている、さぞかし優秀であろうな、今後が楽しみじゃわい』

『本当に君は男の子なんだよね? イヤ失礼、、お披露目会は荒れるなぁ』

『知性ある眼差しだが、君のその手は武術もかなり…ふふふ楽しみだねぇ』


一人ずつ挨拶に回ったのだが、期待の言葉が強すぎて怖いよ!

なんか値踏みされてる感じだけど、皆んなの色は濁って無いので良かったかな

食事の最中も話題は僕とお披露目会の事に終始していた


どうやら今年は例年に比べて、男の子が非常に少ないらしい

逆に女の子は例年の倍以上の人数だそうだから、どうなってるんだろう?

色々と質問されたりする事もあったのだが、感心されてばかりだったので

受け答えは良かったと思いたい


その後のお茶会で、お爺様とお婆様に僕からのお土産として

自分で描いたそれぞれの肖像画を渡したら、なぜか大人達には大好評だった

能力が高いので本当は写真みたいに描けるけど、、流石にマズイよねぇ

なので、出来るだけ手を抜いて描いたつもりだったんだけどなぁ

うちの領地は鉱山もあるから、顔料も豊富で簡単に手に入るからね

これが特産にも活かせると良いのだけど…うん、何か出来そうだな


そんなこんなで夕食会はお開きとなったのだが

皆さん帰る時には桃色になってたので、夕食会は成功かな


夜、寝る前にお婆様に呼ばれたので部屋を訪ねると

自画像を描いて欲しいと言われた、この家に一緒に飾っておくとの事

あれ? 家族じゃないの? 父や母、姉妹もいるよ、僕?

母は貴方の娘ですよね? 本当の娘ですよね??


部屋に戻ってから、寝る前にざっと自画像を描いた

手持ちの画材だと色は少ないけど、持ち運び重視だからこれで良い

手慣れてるので、描くのも時間は掛からないし

後、こういう時は記憶力が良いのは助かるなぁ


今夜参加された当主の方の分と、もちろん…うちの家族全員の分も描いたよ


貴族同士の話題作りも必要だし、絵だと直接見れるからね



翌朝、朝食会の後で寝る前に描いた絵を渡したら

お爺様や両親がかなり喜んでいた、何かの役には立ちそうだね

もちろんお婆様は非常に喜んでくれて、高額なお小遣いを渡された

母は呆れていたが、何かを思い付いたらしくニヤニヤしていた


『ニーノ、王都滞在中は毎日、自画像を描きなさい!

 画材は足りなかったら、王都でも手に入るから言うのよ

 これで貴族に招かれても、貴方の事を説明しなくて済むわ』


母はそう言って、かなり嬉しそうにしていた

僕や姉妹はお披露目会まで殆ど外出しないが

父と母は連日、お茶会や夕食会に招かれていた

両親の話題作りと、僕の説明の手間が多少でも省けるなら問題ない

この程度で良いなら一枚、十分ぐらいで描けるから

あー、貴族用だともう少し精密に描くべきかな? 

自画像だし、サインも入れておこう 偽造や悪用されても困る


早速、数枚描いて両親に渡しておいた

今夜の夕食会に持って行くそうだ、良かったよかった



その夜、遅めに帰宅した両親に起こされて応接間に向かうと

お爺様やお婆様もいた、ん?! 何事?


夕食会は大成功だったらしく、僕の渡した自画像も大賞賛されたそうだが…


『貴方の自画像に、白金貨十枚出すって言うのよ…』


母は呆れた声でそう言って頭を抱えていた

え?! 白金貨一枚で大体一億円ぐらいだから、十億?!

父は苦笑いしてたが、お婆様は何故か当たり前の様に頷いていた


『ニーノはやはり非常に聡明な子ですね、貴方が描いた自画像は

 貴方が自分でサインを入れたから、この値段になったのですよ

 貴方は多分、偽造や悪用を防止するために、サインしたのでしょうけど…

 貴方の自信の価値も含めて、この値段になったのです

 サーシャは少し安易に考えていた様ですけれど、ね…

 今朝、渡している絵を見た時にサインが入っていて、私は安心しました

 そして、貴方はやはり神の子ですよ』


お婆様は、娘のサーシャを一瞥した後、僕に満足気に微笑みかけてくれた

あー、やっぱりね、偽造品の自画像で僕の評判を落としたり

僕が描いたと言って、贋作を売る可能性はあると思ったんだよなぁ


『ありがとうございます、お婆様

 僕に対する悪評は、僕自身だけの問題では済みません

 関わっていなかったと言っても、証拠も何も悪評ですから…

 付け入る隙は与えない、これで良いですよね?』


『その通りです、ニーノ! 貴方は本当に聡明で将来が楽しみです

 今夜夕食会に参加した貴族は、そんな貴方の将来に価値を見たのです

 ですので、白金貨の枚数の問題では有りませんよ、サーシャ

 エッカート辺境伯も、ニーノの価値を今一度良く考えて下さいね』


今夜の夕食会で、もちろん僕の話題になったそうなのだが

母は用意していた自画像を、皆に見せて紹介したそうだ

出来が余りにも良かったので、どの画家に描かせたのかという話になって

僕自信が描いた自画像だと告げたところ、皆に更に驚かれたそうだ

自分にも描いて欲しいだの、将来は画家でもいけそう等の話しになったのだが

ただその内の一人、ある貴族はこう尋ねたそうだ


『いつも描いた絵には、サインするのですかな?』


母は普段たまに描く風景画や、渡す肖像画には今までサインして無かったが

今夜の夕食会に持参すると言ったら、初めてサインを入れた事を話したらしい


『その自画像、是非とも白金貨十枚で譲って頂きたい』


そう告げた人物こそ、アイシアの父 アーサー=ダニエル公爵であった



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