プロローグ
『今日も人数が多いねぇ…まぁ、これが仕事なんだけどさー
今日もガンガンこなさないと、残業とかホント勘弁だよなぁ』
ザイオンはそう言って、モニターを見ながら今日の予定を確認していく
転生を司るザイオンは、高速でモニターを操作しながら
頭の中でスケジュールを組んでいたが、ふいにその手が止まった
『ん? あれ? コイツは男か!!
男神の所に男が回って来るのは、一万年ぶりぐらいだよな!?』
ザイオンはモニターで一人の男の顔を見ながら驚いていた
転生神は大きく2つに分けられている 男神と女神
通常の転生の手続きでは、男性は女神に 女性は男神が担当することに決まっていた
同性では嫉妬や同情や嫌悪など…神が余りに関与して公平性が失われてしまい
過去に大ごとになってしまった事件が何度もあったためだ
今回は非常にレアケースで男神に男性が割り振られていた
『んー…何何、今回 俺んトコに割り振られたのは、何でだ…っと』
相変わらず高速でモニターを操作しながら
男神に男性が割り振られた原因や理由、経緯を検索していく…
『あった!! ココだな…ふん、ふんふん…』
ザイオンは記述されている内容を、モニターを食い入るように全て確認していった
10回分の人生と11回目の転生に至った内容を、ひとしきり読み終えた後、声が溢れた
『そうか…そう言う理由で、か…』
ザイオンは暫く俯いて何かを考えていたが
顔を上げると何時もの陽気なザイオンだった
『全ては会ってからだな、出来れば今回は人生を楽しんで貰うとしよう!』
ザイオンには気になる点が幾つもあったのだが…
爽やかな笑顔で楽しそうに、そう言った
神界は基本的には平和だ、争い事もあるにはあるが小競り合い程度…
娯楽と言うと語弊があるが、神が転生時に人に関与しがちなのもそのせいだ
今までは女性ばかりを担当して来たが、初となる男性に非常に興味が湧いていた
神界から、覗き見…経過観察する事にしようと半ば決めていた
ざっと、彼の過去を確認したが、優しいだけが取り柄の平凡な人生だったように思う
ただどんな状況においても、ひた向きに生きていた事にはかなり好感が持てた
転生時に性格までは変えられない、記憶も併せて基本ニュートラルにリセットされる
だったら…それ以外の部分で力を貸せば良い、彼の人生や性格に出る影響も見てみたい
能力なんて与えられても、その後の努力で大きく変わる
研鑽を積まない勇者や英雄は、素質が高くてもやはり弱いのは実証済みだ
ザイオンの権限の範囲の中で、彼は最大限に手を入れてみるかなぁ
そんな風に思いながら、自身も楽しめそうな事について 色々と考えていた
『まぁ、転生前の魂を確認して最後は決めようっと』
ザイオン自身はかなり優秀だったが、余り自覚していなかった
彼の権限は相当な範囲に及ぶ事に…
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僕は天地も分からない、ただ真っ白な空間にいた
『ここは? 何処なんだろう』
全てが白で埋め尽くされ、空間?の大きさや距離感も分からない
どうやら僕は思念体?の様で、僕自身の実体は見えなかった
それから何れぐらい経ったのだろう…
『やぁ! お待たせ! 君とは話しがしたかったからさ
先に他の子達を見送ってたら 思いのほか時間が経ってしまったね
自分で言うのも何だけど…男神では一番人気なんだよ、俺』
そう言って悪びれた感じもなく、空間に声が響いた
その直後、辺り一面が光って声の主?が現れた
『俺はザイオン、転生神だよ 普段は女性しか担当しないんだけど
今回は俺が担当する事になったんだ、宜しくね』
見た目が神々しい出立ちをしたザイオンは爽やかに言った
『神様…ですか?』
僕は…多分だけど神を信じた事は無いと思う、イヤあるのかな…
でも目の前のザイオンは品があってまさに神々しく…
男でも綺麗だと思う事はあるんだなぁ、とマジマジと見つめていた
イヤ、男性が好きって訳では無いよ 女性が好きだ
でも、目の前の存在は有無を言わせぬ、何か、こう、、、
うん、神様なんだなぁ…って感じた
『あはは、ありがとう 早速なんだけど 転生に当たって何か希望とかあるかな?』
ザイオンはモニターを操作しながら僕に質問した
『転生ですか? 希望?! 聞いて貰えるんですか?!』
『あんまり難しいのは厳しいけどね…
ほら王様になりたいとか 大金持ちになりたい、とか
英雄や勇者になりたい、とかさ
異性にモテてキャーキャー言われたいとかね
その程度なら俺の権限の範囲だから 全然大丈夫だよ
あー、不老不死とかは厳しいかなぁ…不老ぐらいならイケそうか
んー、後は魔術や肉体の強化ぐらいなら何も問題無いね
うん、コレはサービスしとくから、別の希望で』
ザイオンは極上の笑みでそう言った
『イヤ、勇者とか英雄とか…特に希望は無いですよ? 大金持ちとかも…
普通に生きて、普通に寿命を迎える、そんな人生で構いません
ただ、可能でしたら…努力したら報われる、そんな人生を歩めたらいいなぁ
うーん、でも転生をさせて貰えるだけで、やっぱり既に有難いです』
『分かった、でも欲が無いねぇ… じゃあお任せって事でもいいかな?』
『はい、ザイオン様にお任せ致します』
『普段は男性は女神の転生神に会うんだよねー
でも、君は男神の俺に会ってるでしょ? それには理由があるんだよ
君の転生は今回で11回目だね
色々な世界に生まれ変わって、その都度人生を過ごしてるんだけど
過去に一度も子孫を残さずに人生を終えているんだよねー
ぶっちゃけると、女性経験も無く毎回人生を終えている
男性が好きって訳でも無いし、性格や容姿も悪くない…なのにだ!』
ザイオンは少し寂しそうな顔で、僕を見つめていた
『本来は11回目の転生って無いんだよね
それまでに子孫を残せなかったら…終わりなんだ
でも、君は10回の人生で一度も大罪と呼べる程の罪を犯さなかった
だから、ラストチャンスって事だね』
『え?! 人生10回もやってるのに僕って、経験無しなんですか!』
流石にこの話は僕も驚いてしまった…
一回の人生がどのくらいの年数かは分からないけど
人生10回もチャンスを貰ってて、活かせて無いだなんて…
僕は何処まで無能?不能?…なんだ…全く…自分に呆れるよ
『まぁまぁ、悲観しなくて良いよ! そこで俺の出番って訳だ
男神で一番人気の俺が担当したからには安心していい
俺と同じって訳にはいかないけど、ある程度は俺に似せて転生させる
容姿や能力も強化しとくからね、少なくとも女性は大丈夫かな
普通は才能は生まれる時に一つだけ、なんだけど…
これもサービスしとくからね、上手く使うと良い』
ザイオンはそう言ってモニターに直接 棒で色々と何かを書きこんでいた
『本当にありがとうございます
でも、どうしてそんなに良くして下さるんですか?』
『本当はね、転生させるかどうか 皆の意見は分かれてたんだ
転生させるなら…次は女性になるはずだったし
今日会ってみて、10回も転生したのに君の魂には濁りが無かったからさ
どデカいラストチャンスをあげてもいいかなって、ね』
超イケメンなザイオンは、ウインクしながらそう言った
『転生した後は俺がしてあげられる事は少ないからね…
そうだ! ステータスって念じて頭の中に画面出して
そう、それそれ 今の君の状態が分かるからね
転生した後で色々と画面や能力を見てみると良いよ
あー、その画面の右上の管理者のボタンを押すと俺に繋がるから
流石に頻繁に連絡は困るけど、何かあったら相談してね〜〜』
その言葉に返事をする間も無く、僕の意識は高速で移動し始めて
光に包まれて そこで途絶えた…