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帰り道、ふたりで

彼目線(信田)でのあの夜のお話。


とっても久しぶりに更新しました。


素直にとろけて幸せになれたらな〜




―あと、少しだけ





この呑気な寝顔を




掴んで離さない温もりを…








眩しいほどのヘッドライトとすれ違い、街灯がぽつりぽつりと並ぶ細い通りに辿り着けば、寝静まった街にはエンジン音がよく響いた。穏やかながらもじわりと滲む恋慕は、返される言葉もない車内にただ漂って、溢れるばかりで澄んだ空気を侵していくようだ。

助手席で安心しきって眠る女を起こさないように、俺はアクセルを優しく踏み込んでゆっくりと走らせる。



「…相変わらず、肝が据わっている奴。」

「…んー」


憎たらしいほどに気持ちよさそうな顔を覗き、溢れて持て余していた想いをのせて左肩から腕へ滑らせれば、『彼女が隣にいる』そう強く感じさせるから絡みつく温もりを離し難くて困ってしまう。もう少しでコイツのアパートに着いてしまうのに。





ずっと眺めていたい。


早く、陽だまりのような笑顔に会いたい。


もう息をするだけで苦しい。





堪らなくなってホルダーにあった冷めたコーヒーを一気に流し込み、収まり切らない衝動が駆け出さないように深く息を吐いた。



悶々としながら数分ほど車を走らせれば、見知ったアパートが目に入り、懐かしさから頻繁に会っていたあの頃の記憶が呼び起こされるのだった。


何度か彼女を送り届けて、間違う事は無い、思い入れのある場所。ここに着くまで指定席だと言って無遠慮に乗り込んできては、アレコレ質問してきて嬉しそうに笑っていた横顔が忘れられなかった。


そして今、あの頃越えられなかった距離よりもずっと近くにいる彼女は、自分を振り回し惹きつけて離さない。悔しいが敵わないと、恋慕と敗北感の両方を噛みしめながらゆっくりと車を停めて、満足そうに眠っている彼女を起こす為に呼びかけるのだったが、何度呼びかけても彼女は目覚めない。そればかりか、離れないとピッタリと絡みつくから辛抱たまらず、覗き込んで右手で優しく頬をついてやっても唸るばかりか尚更強く抱きつかれて全く起きそうもない。


「ーーーゃっ、…ここがいい〜」

「…ったく、人の気も知らないで好き勝手しやがって、ばか。」


堪らず静かな車内でぼやいてみるが、寝息と眉間の皺が少し深くなっただけ。その様子をじっと見つめてから頬にかかる前髪を撫でるようにそっとどかして見れば、いつもより赤く解れた好きな女の顔があった。


「無防備過ぎるお前が悪い…」


早く気づけばいいと呟いた俺は、覗き込んだ顔をふっくらとした白肌に近づけて、柔らかなカールヘアを頬で感じながらとじんわりと汗ばむ首元に顔と埋めていた。


誘い込まれるように、そのまま鼻を擦り寄せてスーーと深呼吸すれば香しい爽やかな花の香りが脳を溶かす様に染み込んでいった。普段はせいぜい整髪料ほどの香りしか纏わないくせに、今日はやけに女を感じるその香りは胸元から溢れてくるようで、火照り香り立つ肌を間近で感じてしまえば、もっと奥までと欲が沸いてくる。


このままでは止まらなくなると確信して顔を上げれば、驚きで硬直してどんどんと赤くなる愛しい女の顔と目が合う。

彼女に触れるために身体を強引に捩ったのが効いたのか、寝起きとは思えないほど目を剥いた顔はなんとも間抜けで愛おしいが、上気した肌は更に色気が増している。このままもう少しと思う気持ちをグッと抑え込んで不敵に微笑みかけて『着いたぞ』と彼女を急かして、足元がおぼつかない彼女に肩を貸しながら玄関前まで連れ帰ったのだった。












「足元気をつけろよ。」


「うん………ごめん、大丈夫だって〜」


「ほら。黙って寄りかかってろ。」


「ありがとう…玄関まで送ってもらっちゃって悪いね……」


「鍵は出せるか?」


「出せるよーバカにすんなー」


「はいはい。」


「どこかな〜あれ?てっぁわわっ」



案の定、自力で歩けもしないくせに強気な態度をとる彼女は、勢いよく鞄を開こうとするが、バサッという音を立てぶち撒けて廊下に鞄の中身をばら撒いてしまったのだった。



「ふふっごめん!手まで笑ってるわ〜はは」


「…たく。酔っ払いが。」


「ごめんって〜」



自分の酔加減が恥ずかしいのか、その場にへたり込んだ彼女はヘラヘラと謝りながら俺を見上げてくる。


こっちの気も知らないで気の抜けた顔を向ける彼女に、先程から煽られ続けてギリギリだった俺は焦れた熱を隠さずに見つめるが、安心しきった顔で笑い続けられれば降参だと頬を緩めていた。


ふと、足元に散らかった中からキラリと輝く古びたキーホルダーのついた鍵が目に入った。


「コレか?」


「っああ!くたびれちゃってて恥ずかしいな〜〜拾ってくれてサンキュ!」


確かめた途端に目を見張り、ははは〜、と乾いたように笑いつつ早口で答えた彼女は明らかに目が泳いでいる。それに引っかかりを覚えながらも足元がおぼつかない彼女に立ち上がらせると鞄の中身を綺麗に戻してから鍵を差し込んだ。


花がモチーフの彼女が持つには少し幼稚なシルバーのキーホルダーは忘れるはずのない見覚えのある品で。あの時、研修先で買った適当な土産をまだ持ってたんだな。



「… 開けたぞ。立てるか?」


「う、うん。何から何までスミマセン…」


「今更どうって事ないから、気にすんな。邪魔するぞ。」


「はい……重ね重ねごめんなさい〜コーヒーくらい出させてよ!」


「ふらふらの奴が無理するな。俺がやる。」


「ちょっと」


「ここまで介抱してやったんだから今更強がっても遅いぞ。」


「もう…少しくらいお礼させてもらいたいのに。」


「元より礼は貰うつもりだか?」


「え?」



驚いて固まる彼女の手を少し強引に引きながら部屋へ入り、音を立てて鍵をかければ、安心しきっていた彼女の顔に戸惑いの色が浮かんだ。俺は構わず距離をひと息で詰めて扉に両手をつき腕の中に閉じ込めれば、彼女の小ぶりな耳がどんどんと美味しそうに色づいていった。


それを見つめながら、緊張しているのか、と耳元で囁けば、びくりと身体が跳ねて今度は顔全体が真っ赤に染まっていった。



「お前言ったよな。『何でもする』って。」



焦らしておきながら可愛い反応を見せるのは狡い。


半ば脅すような形になってしまったが、先程の車内での会話を忘れてはいないよなと問えば、声も出せないようでゆっくりと頷いて返す目の前の彼女が愛しくて堪らない。


熱くなる身体を理性で抑えつけて、優しくしたい、その思いを込めて柔らかな癖毛に触れるとびくりと震えて彼女が不安げに見つめてくる。俺を煽った落とし前はつけてもらう、ニヤリと微笑んで彼女に問いかけた。


「俺は覚悟しろって言っただろ?もちろん覚えてるよな。」


「覚えて…ます。」


「そんでお前は、告白してきたくせに答えは要らないって言ってくれたよな?」


「はい…。覚えてるし、本心だよ。」


「俺はお前の想いに答えたいし、聞いてくれないのか?」


「っ…私、この関係が壊れてしまうのが怖くて……」


「あんなに熱烈に告っておいてか?」


「……ごめん。やっぱ迷惑だったよねっ、私、何も信田には敵わないけどさ、それでも同期で仲間で居てくれるアンタが大切でーーー」



ぽつりぽつりと話す彼女に何を今更と呆れながら瞳を覗き込めば、じわりと涙を滲ませている。眉を落として自信のない瞳を向けてくるが直ぐに顔を背けられた。


普段とは想像も付かないほどの弱気な態度に、いつもの威勢のいい女はここにはもう居ない、やっとコイツの本心を引き出せたと、拗れた熱がドロリと迫り上がってくるようだった。


けれど、まだ足りない。


散々煽っておいて、答えると言えば青くなり渋る彼女に分からせてやる。もう待ては聞いてやらないからー




(俺はお前を手離すつもりはないぞ?)



「なら、お前は俺の気持ちは要らないのか?」


「それはっーーー」





答えは要らないと言いながら、



抗議と恋慕を滲ませて全力で俺を求めているくせに。




額がつきそうなほど覗き込んでも、



腕の中の酔っ払いじゃじゃ馬女は頷かない。






(今までの関係性がなんだ。俺の心に土足で入り込んでこじ開けたのはお前だろ。)



早く、とギラつく瞳で急かしても顔を背けて縮こまるばかりで、返されない言葉の代わりに煩いほど刻まれる心音だけが頑なな2人を溶かして、柔らかなポニーテールが鼻先をふらりと弄んで素直になれと励ましているようだった。


それでも、どうしても頷かない彼女は濡れたアンバーの瞳から輝く雫を溢れさせまいと、大きく見開いて唇を固く噛み締めている。出会った時から何度も何度も見てきた彼女の癖だと思い返して、気が強い奴だと思ってきた自分の鈍感さに行き場のない気持ちが暴れている。





会えば互いにガキのように憎まれ口ばかりだったのに。




今日まで彼女の涙を見た事は無いと思っていたのに。





今日はなんだ。


あれだけの啖呵を切った彼女が今は腕の中で震えている。それだけでジワリと支配欲が溢れてどうしようもなかった。



「そんな頑なに答えないつもりなら、手っ取り早く身体にわからせてやるよ。」



そう耳元で告げて身動ぎも出来ないほど腰と腰を密着させれば、肩がびくりと震わせるから男慣れしてない様子に更に煽られて、膨らみ脈打つ熱に理性が追い抜かれる。


「近いよ、離してっ…」


「いい加減、こっちも限界なんだよ。」


「まって」


彼女の言葉を遮るように彼女の顎を掬いあげると、否しか言わない口を塞いでやった。何度も何度も繰り返して、待てと言われても止めてやらない。息つく間にもう十分待っただろ、と伝えれば不服そうな顔を向けられるが構わず奪ってやった。


同期だの、今までの関係性だの、ごちゃごちゃ悩んで遠ざけて。いつも側にあったのに気付こうともせず目を逸らし捨てきれなかった想いがどんどんと剥き出しにされていく。


膨れる熱に浮かされるままに熱く濡れる舌を舐め取り吸い上げて溢れる露も気にならないほど強く求めれば、頑なだった身体が徐々に解けていく。柔らかな温もりを抱きしめて堪能すれば、かくんと腰が抜かした彼女を支えながらドアに背を預けてしゃがみこんだ。上気した頬に手を添えれば幸せそうに微笑んで、とろんと蕩けた瞳から温かい雫が遂に溢れ落ちそうだ。


「どうだ?答えはわかったか。」


「…バカ。」


「散々待たせて煽ったお前が悪い。」



仕上げに、とそれを優しく吸い上げれば、不意打ちに驚いたのか、彼女は大きく瞬きをして恥じらってむくれ顔で睨みつけてきたのだった。


「…バカ信田っ」


「はは、お前くらいだよ。俺をバカ呼ばわりしてくる奴なんて。いい加減、素直になれって。」


「っなによ!!バカバカっ…そんなの今更…」


「好きだ、吉田。」


「っ……うそだよ。私は、同じだけ気持ちを返してほしいなんて図々しい事は言わない。」


「ここまでしても、信じてくれないのか?」


「信田にはもっと相応しい人が居るって思う。だから…」


「清花、お前の事が好きだ。」


「!、………今…名前呼ぶなんて………ズルい…」


「答えなんて要らないなんて言うなよ。寂しいだろ。」


「だって」


「それに、今更逃げるなんて許さねぇから。散々煽ったのはお前だろうが。」



逃がさないと、焦れた俺は衝動に任せて強く彼女を抱き締めていた。花の香りが2人の間を優しく包んで、それでもまだ足りなくて、肌蹴た首元に軽く歯を立てて一度きつく吸い上げて花弁を刻み付けてやった。俺のモノだというその証は、彼女の白肌に赤く浮かび上がりよく映えていて。酔いに浮かされたままに翻弄してやろうと、ひとつ、またひとつと攻めたてれば、甘い痛みが走ったのか、身体を必死に離そうとしながら片手でそれを押さえて、信じられないと僅かに目を見張って自身の肌の変化に気付いたようだ。


止められた事に強い視線を向ける俺から逃げるように彼女は顔を背けて首まで赤く染めながら抜け出そうともがくので、ここぞとばかりに密着させて更に追い込んでいくが、こちらが攻めるほど頑なになる彼女は拒むばかりだ。



「やめて…もう十分だからっ」


「嫌だ。先に告白してきたのはお前だろうが。いい加減、お前にわからせてやる為にここまで来たんだからな?」


「っ…今更だよ、もう期待させないで、って何度も言ってるでしょ?!」


「どうして?……いくらでも期待すれば良いだろ。」


「なんでーーー」


「意地を張るのはもうやめろよ…怖かったのは俺も同じだ。上手く隠せてたなら俺の演技もなかなかのもんだろ?」


「ーーーっ嘘つき…!そんなわけない!」




彼女が言い放ったその瞬間、俺は『ドンッ』と強い力で後ろに突き飛ばされていた。危ない!、と彼女を庇いながら床に倒れ込めば、腕の中にいたはずの彼女に押し倒されていたのだった。




痛ぇな、怪我はないかと上体を起こそうとすると、顔の両側に手を突かれて真っ赤な顔で凄む彼女に今度は俺が追い詰められていた。


「同じなはずがない…っ」


彼女は小さく痛そうに呟くと、ぐっと顔を歪ませて溢すまいと堪えていた涙をその瞳から止めどなく流していた。


「こっちは端から玉砕覚悟で言ってんの!茶化さないで、振ってほしいだけなのに…っ」


ぽたり、ぽたりと、俺の頬へ落ちてくる雫は冷たくて胸が締め付けられるようだ。涙を拭おうと手を伸ばすが、頑なな彼女に避けられてしまった。


「………そんなに泣くなよ。本心を伝えてるだけだけだろ?」


「バカ!泣いて、ない…っ。」


「どこがだよ。そんな辛そうに泣くな…」


「似合わないことぐらい、私が一番自覚してるから!!釣り合わない事も!アンタに出会ってから自分がどれだけ小さい人間か痛感させられて惨めで、そんなの、わかってるよ」


「やめろって、俺にはどうしてお前が惨めになるのか分からん。」


「才能が有るアンタには分かんないよ!」


「そうか?俺だってそれなりに凹む時もあったぞ。でもその度に甲斐甲斐しく、缶コーヒーとビターチョコ。差し入れしてきたのは誰だろうな?」


「なっ、」


「出会った時から変わらない、不器用だか器用なんだか分からないお前に救われたのは俺の方だ。」


「…っな、そんなだから…」


「?」


「アンタがそうやって私を甘やかすからっ!酔った勢いで告白までしちゃって……今も昔も迷惑かけてばっかりっ……」


「俺は、迷惑だなんてひとつも思ったことは無いぞ?」


「ーーーっほら!またそうやってっ…いつも私だけテンパって、情けなくて……」



濡れる瞳がはらりはらりと雫を溢して俺の言葉に揺れている。



「俺は、お前の気持ちが嬉しかったよ。会えば口喧嘩ばかりでも、それが心地良くてお前に甘えてたんだよな。」


「そんな事ない!私の方がいつも…申し訳ないくらい信田に助けてもらってばかりだった…」


「そうだとしても俺も、お前に出会えてラッキーだったと思ってるけど?」





彼女が思い悩んできたように、俺もそうだだったんだと。






あの研修で出逢ってからの日々が大切で。





もっと側にいたかったのに、


あと一歩が踏み込めなかった。





少しずつ変わってしまった、


今の自分達が遠くて、寂しかった。






「お前もそうじゃないのか…?」


「…私は…」



全ての思いをのせて優しく熱を孕んだ瞳で見上げれば、彼女の濡れた瞳がゆっくりと穏やかになっていくのが分かった。


今日こそは我慢はしてやらないと決めて送り届けたはずだったのに、結局は彼女に翻弄される自分に笑えてくるがそれさえも愛おしい。


一変して辛そうにぽつりと呟くように返す彼女の言葉をひとつも取り溢さないように、そっと右手を伸ばして彼女の瞳を覗き込んで。信じてほしいと想いを込めて溢れる雫を優しく親指で拭い滑らせた時、ぴくりと強張ったその身体から未だに本心から信じられていないのだと感じたが、それでも強く欲しいと願ってしまう。もう手遅れで引き返せない程の想いを抱えていた。


2人で過ごす未来しか要らない。


そう思うのに、コイツの言う普段の有能な俺の言葉とは思えない、情けない許しを乞うような言葉しか出ないのだった。



「なぁ、そうだって言えよ。」


「それは…私………ずっと」


「嘘なんて一つもない。この気持ちも全部、俺は本気だから。ほらーーー清花?」


「私だって、本気で…苦しくてもずっと…幸せだったと思ってるよ。」


「あぁ、俺も。」


「……本当はずっと、側にいてほしいって言ってみたかった。」


「あぁ。」


「一度でもいいからとか。重いかなとか。可愛げがないバカな私を、頭の片隅で良いから忘れないでいて欲しいってそんなことばっかり………考えててさ…」


「そんな事か?なら、離してやらないから覚悟しとけよ。」


「っ、…それなら、信じさせてよ。」


「分かった。どんな清花でも好きだから。」


「!私だって…」


「けどなーーーもう酔ってたの言い訳も聞いてやらんぞ?待ってもやらんし、明日正気に戻っても忘れたふりして逃げられないくらい分からせてやるから。」


「そんなの…傷つく覚悟ならとっくに出来てるよ!」


「バーカ。素直になれって意味だよ。だから、いい加減にお前も腹括れ。」


「ーーーーー私、まだ好きでいて、いい…?」


「はぁ、そうじゃないと困る。いいからお前は俺の側にいてくれよ。」



瞳を覗き込みながら、俺が安堵からほっと吐いた言葉に彼女が声も出せず嬉しそうに大きく頷くものだから、愛しすぎて無意識に強く引き寄せていた。


ぎゅっと、それでいて優しく腕の中へ閉じ込めて、もうすれ違いたくないと噛み締めれば、彼女の慣れない花の香りが鼻を擽ってくる。彼女のくしゃっと崩れる笑みに合う優しい香りに、またくらりとやられそうだった。


「…私、どうしようもなく信田が好きだよ。」


「あぁ俺も。清花が好きだ。」


「……ふふ。物好きだね、信田も。それに名前はまだ恥ずかしいよ。」


「……やっと笑ったな?お前はそうやって俺の横でずっと笑ってればいい。」


「なによ〜アンタこそヘラヘラしてっ!いいの?真に受けるからね?」


「そうしてもらわないと困る。」


「もうっ、私の愛は重いって言ったからね?!離してやらないんだからね?」


「バーカ。望むところだ。」



(やっとだ…)



ガキみたいな掛け合いが心地良くて、堪らずに2人でクスクスと笑いだしていた。もう素直になって良いのだと開き直れば怖いものなど何も無く。ただ目の前の女が愛しいという思いが溢れてどうにかなりそうだった。



どちらからもとなく、ゆっくりと近づいて優しいキスをした。


そして、2人が本当の意味で見つめ合った時、どこか遠くで、あのバラードが流れているような気がした。


背中を押すように、そっとーーー。

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