12 全力
平原の脇に見える林に向かって、とぼとぼと歩く。
リリシアは平原の先へと向かったようなので、未必の故意などによる誤射は、たぶんあるまい。
愛用の片手剣を手に取る。
業物では無いが、邪悪わんこ程度なら一撃で葬れる我が愛刀。
今日も頼むぜ、我が……
そういえば、ずっと連れ添ってきたコイツに名前を付けていなかった。
モノカさんの愛槍『ゼファー』みたいな、カッコ良い銘を授けてあげねば、
などと気を取られていたら、
何か出たよ。
くま、ですね。
しかもやたらとデカくて、とびきり凶暴そうなブーストが掛かっちゃってるくまさん。
何でこんなPCの壁紙みたいな癒し風景の場所でゲームの中ボスみたいなのが出るかな。
逃亡は、無し、だな。
今の俺の後ろには、何より大切な家族。
家長の誇りがどうとかは知らんが、やるべきことはただひとつ。
全力で、闘え。
凶暴くまさん、
近くにくると、ケダモノ臭、すごいですね。
大きなお口からのよだれも、半端ないです。
俺って、そんなに美味そうかよ。
後で妻たちに聞いてみようって、
のしのし来ますね。
何となく、舐められてる気がする。
コイツ弱いんじゃね? みたいな侮りを感じますね。
悪いねくまさん、
確かに俺は弱々なおっさんだけどね、
世渡り悪知恵だけは、そこそこあるのさ。
どしゃんっ
どうかな、
あー、アリシエラさん、ごめん。
マリネも、本当ごめんね。