11 狩り
現在、チームアランは、家族みんなで初めての長旅、知り合い巡りのんびり幌馬車旅行中。
天才魔導具技師アリシエラさんにお願いしていた、家族みんなでゆったり旅ができる幌馬車。
届けられたそれは、みんなの想像以上に素晴らしいものだった。
正式名称『推進力非搭載式魔導客車』、通称スマキ。
ロイさんの家にあるのが1号機なので、我が家のはスマキ2号、かな。
見た目は標準型の幌馬車そのままだけれど、
ナビゲーションシステムと広域探索魔導具完備で安心・安全な長距離ドライブが可能。
幌の中は『収納』魔法の空間拡張技術を応用した広々空間、っていうかほぼ平屋の一軒家。
二頭立てのお馬さんは、気性が穏やかでメンテナンスフリーの魔導馬。
もちろん馬車の御者なんて初めての俺だったが、馬車での旅のノウハウや整備のアレコレを分かりやすく解説してくれるタブレット型の携帯情報端末的な板状魔導具まで完備、まさに至れり尽くせり。
我慢できずに、家族みんなで幌馬車の旅に出た、というわけなのですよ。
国境をふたつ超えて、目指すはロイさんの村。
途中の王国はもちろんユイの故国なのだが、このあいだ飛び出してきたばかりだから帰るのはまだ恥ずかしいってうつむいたユイの表情は、
とてもとても、愛らしかったです。
うららかな午後の日差し。
街道脇に良い感じの平原があったので、
ちょっと早いけど、みんなで野営の準備です。
「狩りには行かないのかな、ユイ」
「このあいだみたいに気絶したら恥ずかしいです、リリシア」
金髪碧眼のリリシアと、銀髪翠眼のユイ。
美しい景色に佇む美しい乙女ふたり。
まるで名画のようだと見惚れていると、
「本当に綺麗ですよねっ」
何をおっしゃるマユリさん。
あなたもあそこで佇んでくださいな。
それで名画は完成。
「調子、戻ってきたみたいですねっ」
何をおっしゃるマユリさん。
俺は昔から俺のまま、ですよ。
びびりも挙動不審もお調子者も、全部ひっくるめて俺、なのです。
「そうやって自分を卑下してばかりいると、またリリシアにおしおきされちゃいますよっ」
妻たちからのおしおきが三度の飯より大好物、それもまた、俺。
「じゃあ、メリルさんとニエルが腕を振るうお夕飯はいらないってことですねっ」
ごめんなさい許してください何でもしますから。
「本当に仲良しさんなんですね、アランとマユリは」
頬を染めるマユリ、お若いのになかなかの使い手ですな、ユイ先生。
「リリシアは狩りに?」
こくこくうなずくユイ、その仕草がまた、愛らしい。
「リリシア、最近はあの弓に夢中ですものねっ」
照れ隠し、上手くなったな、マユリ。
ロイさんのお仲間のセシエリアさんから贈られてきた短弓。
ロイさんの娘アイネさんが持つ長弓と対となる秘宝だというそれを、
リリシアは、必ずや使いこなしてみせようと、日々修練中。
『いずれはユイに、と』
妻たちの絆、夫冥利に尽きる。
お茶の用意をしているメリルさんの元へ向かうユイ。
ふたりは今ではとても良い関係。
我が家の、ちょっと特殊なあれこれをメリルさんから教わる興味津々なユイ。
ユイのアルセリア王家の習わしやお作法に、興味津々のメリルさん。
そういえば、メリルさんのご趣味は各国王家や貴族たちのマナーやお作法などの歴史研究。
その知識と経験は、知り合いのお作法マイスターことセシエラさんのお墨付き。
メリルさんみたいなすごい人物に、我が家の家事をお願いしちゃっていいのかな。
いつもは我が家を守護してくれていて、滅多にお出かけしないメリルさん、
今回の旅行はちょっと無理させちゃったかなと心配したけど、
楽しんでくれているみたいで、嬉しいです。
「ご主人さま、お夕飯のリクエスト、今のうちですよぅ」
ニエルも楽しそうですね。
てくてくとニエルのそばへ行くと、何やら思案中。
「リリシアの狩りの獲物に合わせた献立、じゃ遅いのか」
彼女の狩りの腕前の程は疑いようがないが、何が獲れるのかは神のみぞ知る。
「ご主人さまも、ここは男っぷりを上げるチャンスですよぅ」
つまりは俺も家長の威厳を見せるべく狩猟民族になれ、と。
「『収納』にストックされている食材じゃ駄目なのか?」
狩りが嫌なのでは無いのです、この気持ちは料理上手なメイドたちへの厚い信頼の証し。
「嫌ですよぅ、冒険者さんたちがお外で頑張らなくてどうするんですかっ、ですよぅ」
おっしゃる通りです、期待せずに待っていてください。
「お野菜は間に合ってますからね、ご主人さまっ」
お肉又はお魚、承りました。