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10 泉とのお化粧レッスン

「お嬢様、起きてください」

「うーん……」


 ぽかぽかと暖かな日差しが、頬に当たる。


 シノにしつこく揺り起こされ、私は寝返りを打った。

 寝返りを打って、そのままの勢いで、がばりと起き上がった。


「……おはよう」

「おはようございます、お嬢様」


 休みなのに寝かせて、という言葉は、すんでのところで飲み込んだ。いつもの時間に起こしてくれるよう頼んだのは、私なのだ。


「もう準備は整っておりますよ」

「ありがとう、シノ」


 今日は、泉が家にやってくる日だ。


 泉とは、お化粧をして初めて登校したあの日、話しかけてきてくれた級友。化粧を教えてほしい、と言った彼女のため、身支度の際には、シノの化粧講座を受けていた。

 そして今日、シノに習った化粧法を、泉に伝えるというわけである。


「お化粧は、今日もご自身でされますか?」

「ええ。何か間違っていたら、教えて」


 シノに見守ってもらいながら、教わった通りの手順で、丁寧に身だしなみを整えていく。


 まずは、洗顔から。柔らかい泡で丁寧に肌を撫で、手のひらで組んだ水を、優しく顔に当ててゆく。労わるように。

 ふわふわのタオルで水滴を拭い、化粧水と乳液で、肌の調子を調整する。手のひらの温かさを感じながら、じっくりと、肌に押し込めるように。


 そんな風にして、ていねいに肌を扱っていると、沈みがちな気分がだんだんと明るくなってくる。


「本当なら、シノに教えてもらったほうが、いいと思うんだけど」


 泉に教えなくてはいけないというプレッシャーから、化粧の手順は覚えたものの、眉の描き方やチークの加減など、手つきは覚束ない。

 鏡を覗き込み、左右の色味が均等になるよう気をつけつつ、頬に桃色をさしながらぼやく。そんな私を、シノは「駄目ですよ」とたしなめる。


「それじゃ、お嬢様にとっては、何にもなりませんもの」

「そうかしら」

「そうです。嫁ぎ先では、お嬢様は奥様として、専属の侍女を教育しなければならないのですから」


 いい機会でした、と胸を張るシノ。彼女は、千堂家に嫁ぐ私を、立派な「奥様」に育てることに使命感があるらしい。


 嫁ぎ先なんて、なくなりそうなのに。


 今ここで海斗からの婚約破棄のことを告げたら、シノは衝撃を受けるだろう。


 シノにも、やっぱり話せない。

 彼女が目指しているところのものを、奪うことになってしまう。


 心の中で呟きながら、鏡に映る自分に目をやる。


 鏡の中の私は、寝起きよりもほのかに、しかし確かに、明るい顔をしている。

 今まで化粧などは柄ではないと思い込んでいたが、こうしてみると、悪いものではないと感じるのだった。


 今日も、きっと大丈夫。


 少しはそんな自信がもてるのは、身だしなみを整えたから。

 シノの思惑とは違うけれど、私の「自信を持ちたい」という願いは、お化粧によって、少し満たされている。


 やっぱり、成果が目に見えることが、大切なんだわ。


 私は思った。

 ステータスという値があるわけではなくても、目に見えた変化があると、それは自信につながる。


 劣等感を拭って、物語の主人公のようになる。そのためには、こうした、目に見える成果を積み重ねていく必要がある。

 お化粧して見た目が変わった。友達が増えた。きっとそれが、私の自信になる。


 泉とちゃんと話せるように、頑張らなくっちゃ。


 今日来てくれるはずの彼女を思い、私は両頬を掌で包み、気合を入れた。


「今日は、藤乃ちゃんのお友達が来るのよ」

「へえ、珍しいね」


 私たちと同じ時間の食卓に、兄がついていることは珍しい。土日もサークルや勉強会があるとのことで早く出かけることも多い兄だが、今朝は少しゆとりがあるらしい。

 食後のコーヒーを飲みながら、母が兄に伝える。兄は湯気の香りを楽しみつつ、そう応えて微笑んだ。


「嬉しいわ。藤乃ちゃんにも、桂一くんみたいに、高等部ではいろいろな経験をしてほしいと思っていたから」

「お兄様みたいにはなれないわ」


 今でこそ兄は、普通の顔をしてコーヒーを飲んでいるが、学園では敏腕生徒会長としてその能力を発揮していたのだ。


「やめてよ、藤乃。僕だって、普通の学園生活を送っていただけさ」


 父に似た癖毛を弄る何気ない仕草まで、憎らしいほど、様になる。


「普通じゃないわ」


 同じ血が流れているとは思えない。ため息混じりに言うと、母はゆるりと首を振る。長い髪が、さらりと肩から落ちる。


「いいのよ、藤乃ちゃん。生徒会長をしてほしいとか、そんな話じゃないの。交友関係を今までよりも広げて、したことのない経験をする、ってこと」

「僕も、高等部時代にできた友人とは、腹を割って話せたからなあ。お母様が言っているのは、そういうことでしょう?」


 兄が確認して、母が頷く。


「そうよ。桂一くんが言っているのは、あの子のことよね? ほら、あの特待生の……」

「そうそう。あいつは、本当に、僕にとっては初めてできた親友だよ」


 挙げられた名前に、私は「ああ」と声を上げる。兄が高等部にいたころ、よく聞いていた名前だ。


「その方、特待生だったのね」


 名前は聞いたことがあるものの、詳しい話は、記憶から抜け落ちていた。「覚えていないの?」と母が笑い、「そんなものだよ」と兄がフォローする。


「高等部に特待生として入ってきて、それで知り合ったんだ。考え方や感じ方が似ていて、妙に馬があってさ」


 やっぱり、共通点があると親しくなるのだ。私は相槌を打つ。


「今も連絡を取っているそうよ、奨学金をもらって、国立大学に通っているんですって」

「ふうん……」


 母は、溺愛する兄が特待生と仲良くしていることを、喜ばしいことのように話した。


「お母様も、そういうのは気にしないのね」

「そういうの?」

「特待生だから、庶民とか……そういうの」


 頭に浮かんだのは、慧の卑屈な態度。私が口に出すと、母のこめかみが、ぴくりと強張った。


「藤乃ちゃんは、特待生の人を、そういう風に思っているの?」

「思わないわ。ただ、仲良くなった特待生の人が、色眼鏡で見られることがある、みたいな言い方をしていたの」


 これは、慧のことだ。

 私が言うと、強張っていた母の表情は、柔らかな笑顔に戻る。


「そうなのね。私は、家柄よりも本人の品性だと、思っているのよ。桂一くんが仲良くしている特待生の子に、会ったことがあるけれど。本当に良い子だったの」


 爽やかで、物腰柔らかで、と続ける。

 隣で頷きながら聞く兄の様子からも、母の言葉が本当なのだとわかる。きっと、その特待生の人も、慧のように素敵な人だったのだ。


「……そう、藤乃ちゃんも、ちゃんと友達を増やしているのね」


 これはたぶん、「仲の良い特待生」に対する反応。


「だから、心配しなくてもいいって言ったでしょう」

「桂一くんの言う通りだわ」


 友人を作るのが下手な私を心配する母と、陰でフォローを入れてくれていた兄。今の会話からそんな様子が垣間見え、改めて、兄の優しさを感じる。


「私が庶民の出身だから、藤乃ちゃんも桂一くんも、特待生の子と気が合うのかしらね」


 母は冗談めかして言う。兄が「かもね」と、その冗談を軽く流した。


「今日いらっしゃるのも、その特待生の子なの?」

「違うわ。今日来るのは、泉さん。初めて同じ組になったのだけれど、中等部から一緒の方よ」

「そう。お友達は、多い方がいいわね」


 母が嬉しそうに笑う。私に友人ができるだけで、喜んでくれるなんて。

 私まで嬉しくなって、私はついでに、「特待生の方とは、今度水族館に行くわ」と付け足した。


「素敵ね。楽しむのよ、高等部の生活を」

「そうしたいわ」


 私は、少し温くなったコーヒーを飲み干した。


 朝食を終えると、準備に向かう。


 事前に片付けを頼んでおいた部屋に入ると、中央に、大きめの円形テーブルが据えられている。

 お客様をもてなす用のテーブルだが、今日はこれが、お化粧用の机になる。

 シノが鏡や、化粧用品を運び入れてくれて、準備は整った。


 約束の時間が近づいてくると、なんだかそわそわと、落ち着かない気持ちになる。個人的に人を家に招くなんて、初めてかもしれない。妙に緊張して、玄関ホールを端から端まで、何度か往復してしまった。


「お嬢様、いらっしゃいましたよ」


 来客を知らされ、漸く足を止めることができた。ゆっくり深呼吸をして、心を落ち着ける。

 扉の開く音。


「いらっしゃい、泉さん」

「藤乃さん! お招きありがと!」

「こちらこそ、来てくださって、嬉しいわ」


 制服ではない泉は、普段と印象が違う。淡い水色のワンピースは、彼女の幼い印象に、よく似合っていて、可愛らしかった。


「素敵なお家ね……!」


 両手を胸の前で組み、輝く瞳で玄関を見回す。

 そう感動されると、照れてしまう。


「そうかしら」

「そうよ! いいなあ、私の家は昔建てたものだから、こんなにお洒落じゃないもの」

「歴史的な建物なのね。それも素敵じゃない」


 父の知り合いにも、文化遺産に指定されているような、格調高い家に住んでいる人がいた。泉もきっと、そうした家に住んでいるのだろう。

 彼女は「うーん、どうかなあ」と肩をすくめて苦笑する。


「さあ、こちらへどうぞ」


 人の家に口を出すつもりはない。私は世間話を切り上げ、客間に招いた。

 丸テーブルの上には、先程用意した通り、化粧道具一式が置かれている。


「すごい! 準備万端!」


 また感動する泉。

 そう素直に喜ばれて、悪い気はしない。


「こちらへどうぞ」


 泉を席に案内する。

 シノが、さっと紅茶を淹れてくれた。


「この紅茶、美味しい!」

「気に入っているの。美味しいわよね」


 素直に感動する泉に、つい頬が緩む。


「わたし、紅茶なら、あの茶葉も好きよ」

「わかるわ。美味しいわよね」


 おもてなしの紅茶から、話に花が咲く。

 泉が持参してくれたクッキーや、こちらで用意したチョコレートを摘みつつ、美味しい銘柄や産地の話をした。


 何気ない会話を、同級生と、自宅でできるなんて。

 初めての経験に、そわそわした心は、なかなか収まらなかった。


「そろそろ、お化粧したいかも」


 泉が呟き、私たちは、鏡の前に移動した。


「本当は、洗顔からなんだけど……」

「そうなの? なら、そこからやりたい!」


 泉が言うので、洗面台へと案内する。柔らかくたっぷりと泡立てた泡で、全顔を撫でるように洗う。

 手のひらに水を溜め、擦らないよう、何度も肌に触れさせて泡を洗い流す。


「面倒ね、これ……」

「そうなの。でも、侍女によると、こうしないと肌が傷つくんですって」


 シノの受け売り。

 泉は刺激の少ない、ふわふわのタオルを頬に当てながら、「すごいね」と目を細めた。


「藤乃さんの侍女さんって、きっと素敵な人なのね」

「さっき紅茶を注いだ人よ」

「ああ……言われてみれば、出来る女性、って感じだったわね」


 今、シノは私たちの会話を邪魔しないよう、視界に入らないところに控えているはずだ。

 シノに聞かせるつもりで、私は付け足した。


「そうなの。彼女、優秀なのよ。本当に助かってるわ」

「羨ましいわ」


 洗顔を終えると、また先ほどの部屋に戻る。

 化粧水から乳液まで、丁寧に肌に押し込める。泉の肌は、それだけでワントーン明るくなった。


「わあ……いつもの顔と違うわ」

「そうなの。ちょっとしたことなのに、不思議よね」


 自分の頬を触りながら、泉が感嘆の声を上げる。その様子に、思わず口角が上がる。やはり、シノ直伝の方法は、価値のあるものなのだ。


「ここから少しずつ、色をのせていくのだけど……」


 私は泉の肌色を確認しながら、下地の色を調整する。

 その日のコンディションによって、色は少しずつ変えるのだ。泉の肌は私より少し黄味がかっているので、それに合わせて、肌色を整えた。


 泉の手の甲に下地を移し、自分で塗ってもらう。私は隣で同じように下地を塗り、それを見ながら、泉が真似する形を取った。


「こんなに少しで、こんなに伸びるのね。質のいい化粧品って、そうなの?」

「さあ……」


 泉が驚いている。

 私が使っているのはシノが揃えた化粧品だ。他のものを使ったことがないので、比較できない。


 額、鼻先、顎、頬にのせ、そこから広げるように。少量でもよく伸び、肌の色をふんわりと明るくする。

 習った通りの手順で粉を、色を、影と光を重ねていく。鏡に映る私たちの顔は、それぞれ、先ほどよりほのかに、確かに明るい。


「……わあ、素敵。あんまり変わらないのに、全然違う」


 泉の感想は、私も感じたもの。

 私ではなくシノの手柄だ。彼女の優秀さを、誇らしく、頼もしく思う。


「ハイライトって、こんなに大事なのね」

「ハイライト?」

「藤乃さん、知らないの? この白いの」


 泉は、爪先を丸く整えた指で、化粧品を指す。


「用具の名前は、あんまり……」

「そうなのね。こんなに上手なのに、意外」

「上手なのは、侍女だから」

「そっか」


 彼女は私の顔を見て、ぱちぱち、と瞬きする。その指先が、別の化粧品に移動する。


「これが、シェーディングでしょ」

「そうなのね」


 今度は泉が、それぞれの用品の名前を教えてくれる。

 どの化粧品がどんな名前か、それは他にどんな使い方があるか。聞き入る私と彼女の顔の距離は、自然と縮まる。


「コーヒーはいかがです?」

「あ、ありがとう」


 シノの声かけに、はっとする。ずいぶん話し込んでしまったみたいだ。


「向こうに行きましょう」


 化粧品の前は、お茶には適さない。ふたりで場所を移動し、改めて、向き合った。


「……藤乃さんと話すの、楽しいわ」

「私もよ。泉さん、今日は来てくれてありがとう」


 泉は、花が咲くように笑う。彼女の笑顔は明るくて、向日葵みたいだ。


「怖い人だと思っていたの」

「そうなの?」

「ええ。早苗さんたちといるときは、いつも怖い顔で見られるから……なんだか、堅い考えの方なのかしら、って」


 私は、頬に手を当てる。怖い顔なんて、しているつもりはなかった。


「……怖い顔」

「前は、ね! 最近は、お化粧もしているからか、わたしはあまりそう思わないわ。早苗さんは、まだ怖がっているけれど」


 海斗と早苗のやりとりに、つい、険しい顔をしていたのかもしれない。客観的な泉の意見は、参考になる。


「早苗さんのこと、嫌いなのかなって思ってたわ」

「いえ、彼女のことを嫌いというか……」


 私は逡巡する。泉は、中等部から私のことを知っている。私と海斗の婚約のことも、風の噂で知っているだろう。

 嘘をついたら、これからの会話が、ぎこちなくなりそうだ。そう感じて、私は正直に説明する。


「海斗さんは、私の婚約者だから」


 シノも聞いている。婚約破棄のことは、言うつもりもない。

 私の説明に、泉は目を丸くした。


「えっ?」


 驚く彼女。


「あ……知らなかったのね」

「知らなかった。そうだったの」


 知らないのなら、言う必要もなかった。

 泉は口元を抑え、沈黙する。その驚きように、私は反省した。敢えて言いふらしていなかったから、中等部の人も、知らない人は知らないのだ。


 てっきり、噂になっていると思っていた。

 何しろその婚約者である海斗は、早苗に骨抜きになっているのだから。


「だって、海斗様は、あんなに……」

「だから、怖い顔になってしまったのかもしれないわ」


 泉が全てを言う前に、彼女の言葉にかぶせる。シノに、あったことをはっきりと知らせてはいけない。


「嫉妬、っていう感じね」


 敢えて冗談めかした口調で、ふふっ、と笑ってみせる。大したことない、と伝わるように。


「そんな……そんなの……」


 泉の声が、震えている。目が泳いでいる。動揺しているのだ。

 早苗にあんなに入れ込んでいる海斗に婚約者がいると、今初めて知ったのなら、驚くのもしかたがない。


「ごめんなさい、驚かせて。コーヒーをどうぞ」


 湯気の立つコーヒーを勧める。彼女は両手でカップを包んだ。

 私は、先にひとくち含む。豆の香ばしい香り。


「そんな風になんでもない風に振る舞うの、よくないわ、藤乃さん」

「え?」


 泉の言葉は予想外で、今度は私が、驚いた声を上げてしまう。

 彼女は、真っ直ぐな目で私を射抜いている。その透き通った視線に、表情を動かせなくなる。


「知らないとしても、早苗さんのしていることは間違っているわ。だめなことはだめって、教えないと」


 彼女の正義感が、伝わってくる。

 だめなことは、だめ。

 それは、そうだ。


「でも、悪いのは、ふがいない私だから」


 彼女の勢いに圧され、つい早苗をかばってしまう。早苗は、私と海斗の婚約のことを、知らないかもしれないのだ。それに海斗からは、婚約破棄を言い渡されている。


「違うわ。早苗さんはたしかに素敵な人だけれど、だめなことは、だめだもの」


 泉の言葉はあまりにも力強くて、私は少し納得してしまった。


「ありがとう、泉さん」

「ええ。藤乃さんが怒るのは当然よ」


 礼を言うと、また力強く肯く泉。


 真っ直ぐな人なのだな、と思った。

 友達がたくさんいるのは、いいこと。正しいことを実現しようとする彼女は、早苗と海斗の関係に、ずいぶん否定的らしい。


「私も、痛い目見せてやりたいと、思ったことがあるわ」

「当たり前だわ」


 創作に吸い込ませた、後ろ暗い欲望。それすらも、泉は、肯定してくれる。

 私は、胸のすくような感じを覚えた。


 早苗と海斗に、私は敵わない。それは、本を読みながら考える中で、はっきりしてきたことだ。だから、実際に痛い目を見せられるとは、思っていない。


「ありがとう」


 それでも、後ろ暗い感情を肯定してもらえるのは、嬉しい。


「わたしも、力になれることは、協力するから。相談してね」


 泉の向日葵のような笑顔は、ほんとうに、眩しく見えた。


「今日はありがとう」

「こちらこそ」

「お気をつけて」


 泉と別れの挨拶を交わす。車に乗り込んだ彼女。その車体が曲がって見えなくなるのを、私は見送る。


 楽しかったわ。


 ほんわりと温かな感情が、胸に生まれる。

 高等部に入って初めて、女友達と呼べるものができた。共通点があって、共通する思いもあって、距離が縮まった。

 本に書いてあった通り、共通点があると、仲良くなれるのだ。


「シノ、ありがとう」

「お嬢様のお役に立てたのなら、何よりです」


 こんなに楽しい時間を過ごせたのは、お化粧を教えてくれたシノのおかげだ。礼を伝えると、彼女はふわっと微笑んで謙遜した。


 学園に行けば、慧に会える。泉にも会える。

 海斗と早苗の蜜月を、苦しい気持ちで眺めるだけではない。月曜に向け、私の気持ちは前向きなものに変わっていった。

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