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駄妄想たれ流し  作者: アルリア
4/7

青年と老人

死にたい青年と実際に体が死にかけている老人の体が入れ替わるお話です。

「愚痴ばっかりになってしもうたの。疲れたくはないつもりなんじゃが、疲れたの。


だんだん喋る言葉も繰り返しが多くなってきたのぅ…………わしゃもう駄目じゃ」




「何言ってんだじいさん」




「いいのう。お主は若くて才能もあって、私が欲しかったもの全部持っておる。代われるもんならわしと立場を変わって欲しいわい」




「どうでもいいけどじいさんさ。…………まぁこれはいいか。そうだなぁ。まぁ無理なものは無理、と言いたいところだがいいよ。交代しようか」




「まじか。お前さんそんなことできるわけないだろう。からかうな」




「それができるんだよ。この空間ならね。ま、なんでもアリだからな」




そうして交代して元じいさんは喜び駆けずり回った。顔面を俺の顔で見たこともないくらい綻ばせている。


別人みたいだ。まぁ別人なんだが。小躍りしてはね回っている。


そのまま走って俺の体を使ってどこかへ行った。近年あんなに勢いよく走ったことは元の体の持ち主である俺もなかった。


ああ……………いいことした。死にかけていた無力な人1人を救ったのである。


天国に行けばきっと神様が褒めて下さるだろう。いや、もしかして自殺したようなものだろうと言われて地獄に行かなくてはならないかもしれないな。


体が重い。老人の体はかつて俺が熱を出した時のように動きが効かなかった。咳がやたらと出る。この体は死にかけているということが簡単に分かった。


壁を背に老人がさっきまでしていたように座った。動けば腹が減るから動かないと言っていたベトナムのホームレスみたいだ。


やがて日が暮れた。涼しくなったので助かった。だんだん意識が遠のいてきた。混濁状態というやつか。ぼんやりとした空にぼんやりとした月が浮かんでいる。


それをどろんとした目でだらしなく見続けるばかりである。


意外にもだんだん心地よくなってきたのである。このまま終わってもいいのである。なんたって一人人間を絶望から救ったのだから。


あの笑顔を見たか? 俺以外にこんなことができたか? いや、できまい。


褒められたり、認められないことが続くとこうもひねくれるのであるなんて悲しいことを言います。


ここまで見てくれてるかわからんけどなんらかの益になっていることを願う。


はっぴばーすでーとうぅゆーはっぴばーすでーとぅーゆー、はっぴばーすでいディアおーれー。はっぴばーすでーとぅーゆー。


…………………。




「おい。おい。若いの………おい! 死ぬな!


おい。死ぬなって」




「じいさん………。俺を看取ってくれるんだな」




「バカ言っちゃいけねえ。看取るのはお前だ」




「…………?」




じいさんが俺の体を握ると体が入れ替わった。


俺はじいさんの体を見ていた。




「そんな…………」




じいさん。何考えてんだ。せっかく若返ったってぇのに。




「じいさん。アンタ馬鹿か?」




「気がついたんだ。いくら若返ってもこれは俺の体じゃないって。俺の人生でもない。誰かの人生を奪っちまうのはやっぱりあまりにも図々しすぎるってな。これはアンタの人生だ。俺はもう生きた。はぁ。無駄に年月を重ねただけだったが。まあ時間を使っちまった。終わりだ」




そんな。




「アンタにはまだ時間があるべきだ。アンタはまだ若い。いくらでもやり直せる」




「月並みな事言ってんじゃねぇよ。そんな言葉聞き飽きてんだよ………!」




「大丈夫……君なら大丈夫………」




「無責任なこと言うなよ! そんなこと言われたって俺にゃ無理だ!」




「俺は人生最後に、思いっきり若い目でもう1度世界を見れた。なんてことは無い景色が無性に綺麗だった。あの桜を見ることは老いた目では叶わなかった。なんと並木道の綺麗なことか。思いっきり走ることもできた。自由自在に体も動かせた。食べたいものも食えた。はは。お金を使ってしまってすまない。もう俺の体だからと罪悪感を抑えて使ってしまった」




「そのまま戻って来なくて良かったんだよ……!」




「ふ………そうすりゃよかったな」




じいさん。




「………君なら大丈夫さ。俺は君の優しさが嬉しかった。君のおかげでどんなに救われたか。小さなことでいいんだ。人のためになることを重ねていればうまくいく。俺にはできなかったが君にはできる」






「できない……俺にはできないよ」




じいさんは信じられない力で俺の手首を握りしめた。




「泣くな。男だろ」


じいさんの眼力はすごくて、俺の涙は止まった。


そしてじいさんは動かなくなった。死んだのだ。

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