『片思いのあの子の手作り弁当にカブトムシの幼虫が入ってた件』
『片思いのあの子の手作り弁当にカブトムシの幼虫が入ってた件』
季節は春。
俺は教室で片桐京香のことを盗み見る。いや堂々とその一挙一動を舐めまわしてもターゲットである片桐京香にはある理由から気づかれることはない。
だが周りの目が問題だ。俺が誰をじっと見ようが本人が不快にさえならなければ構わないはずなのだが能天気にニュースを探している暇人たちにとってはそうではなく、
俺が彼女を見ていることに気が付けばサルゥのように騒ぎ出すだろう。
そんな事態はごめんだ。
片桐が俺が見ていることに気が付かないというのは彼女は人の視線に無頓着な傾向が強いからだ。
理由は分からない。
たぶん人からの視線が集まりすぎて視線に鈍感になったのかもな。
見てくれはこの学園で一番の才女と呼ばれるに相応しいほどどの角度から見ても減点すべきところはない。
黒髪ロングで清楚。
スタイルもトップアイドル級だ。
スタイルが良くて顔もいいのにめっちゃ猫背なやつだとすげー残念な気分になるけど片桐は姿勢も一本通ったスラッとしたものだ。
うーん。凛々しい。
今日も100点満点だぞ。片桐。
ニチャァとした笑みを机に伏せた腕で隠し、俺は愉悦した。
新一年生である俺たちは一週間ほど前に自己紹介をしたばかり。
早くも昼休みにこうして机に突っ伏して寝たふりをしている俺とは違い彼女はもうグループのようなものを形成し、談笑している。
たおやかな白百合のように笑う片桐……。
片桐たちがお弁当を取り出す。
片桐さんは水筒だ。無暗に校内の自販機でペットボトルの飲み物を買わないところは高評価だな。
だが片桐のグループの女の子は飲み物は自販機で買ってきたもののようだった。
これから片桐は同調圧力によって飲み物は自販機で買うようになるかもしれない。
そうなったら嫌だな……。
ん……? なにか変だな。
片桐が自分の弁当を空けた後雰囲気が変わった。
片桐の弁当と片桐の顔を交互に見ている者。
片桐の弁当を見たまま一切の動きを無くした者。
急にグループの片桐以外が硬直した。
「きょ……京香ちゃんそれ……」
京香の可愛らしい弁当箱の中にはカブトムシの幼虫と思われるものがまるでハンバーグかなにかのようにレタスの上に収まっていた。
「! うん! 私の大好物なの!」
友達が好物に気が付いてくれたことを喜ぶように嬉しさを顔に浮かばせる片桐。
「「「キャアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」」」
教室に悲鳴が響き渡った。
まじか……片桐……お前……。
その後いろいろあって俺と片桐は食虫部を造り高校三年間の青春を共にしていくのだった。
~to be continued~