『嘘』のテンプレート
僕ら、パーティ『ヤブキ』の面々は、冒険者組合の最上階の奥、宿泊施設の一室で保護(?)されている。
パーティ『イロモノ』がダンジョン内で顕造派の設備を発見した件で、僕らも彼らに関わった関係で暗殺にあう危険があるからだそうだ。
今、扉の前ではユミが聞き耳を立てている。
廊下の向こう、下り階段を挟んで向かい側の部屋は『イロモノ』と施設長のオアツラエ氏が詰めているはずだが、何やら騒がしい。
「一つ上がってきて八つ降りた。 たぶん全員出たんじゃない?」
ユミが戻ってきて小声で言う。 ――僕らは斥候だ、こういった能力には一日の長がある。
「『イロモノ』が全員呼び出されたとなると…たぶん、現場検証~実況見分あたりだと思う」
「当時の状況を時系列で整理するわけね…そうなると」と、ホッコ。
「たぶん、例の矛盾に気づかれるよな」とオーノ。
「いや、もうその部分は気づかれていると思った方がいい、僕らを連れて行かないのが不自然だし。
でも、僕らのすべきことはシンプルだ。 『マウントコマンドの奇跡が使用されている』、この一点だけ隠し通せればいい」
「そうね、みんなを守れる」とユミ。
「今のうちに話を合わせておこう、ぶっちゃけ姉貴に全部被って貰う形になるけど仕方がない…あと、最悪の場合も想定しておこう」
――――
今は夕刻、『イロモノ』の連中が戻ってきた後、今度は僕らが連れていかれた。
「日暮れに申し訳ございません、簡単な実況見分となりますのでご協力をお願いいたします。
あ、わたくし、ウキヨと申します」
認証の番人の部屋の前で、自警団の捜査官が飄々とした態度で挨拶をしてくる。
「おや、オアツラエさん。 あなたは召喚しておりませんが?」
「午前中同様、施設代表として参りました。 彼らもウチの生徒ですから」
「なるほどなるほど、職務に忠実でいらっしゃる。 で、あるならば最後まで職務をまっとういただきたく存じます」
――――
捜査官の確認事項は想定通りのものだった。
僕らはあらかじめ決めておいた回答を垂れ流していく。
「そもそも不思議なのですが、なぜ『ヤブキ』の方々はダンジョンに入らなかったのですか?」
「ぼぼ僕ら、魔法使い居なくて! 怖くて! でも雰囲気だけでもって!」
「いや、リーダー黙って。 キョドると怪しいと思われちゃうから…」
「ウキヨさん、あなた気づいてるでしょう。 あたしらが毎年、先生の手伝いでダンジョン入り口までついてきてるの」
「それで俺ら、今年ようやく資格とれたんだが、魔法使い居ないのは現実的じゃねぇだろ、だから、いつもの手伝いの合間に雰囲気だけ掴んで、来年頑張ろうって話だよ」
ホッコとオーノがフォローを入れる。
「ええ、ええ。 試験官から裏はとれております。 魔法使いさえいれば…ええ、本当に」
捜査官はハンカチを目じりにあてて涙をぬぐうような仕草。 実に白々しい。
「ところで、そもそも毎年ここであなたたちはキャンプして何をしているのですか?」
「掃除だよ、掃除。 ダンジョンの入り口とか、影のとこにゴミを捨てる奴が多いんだよ」とオーノ。
ここでもし、マウントコマンドで使用する物理座標をセットする儀式でーす、って言うとどういう顔をするんだろうか。
「私もターレン女史から、毎年そういったボランティアを随伴しているとは伺っております」
「なるほど、大変感心です。 オアツラエさんは口を挟まないように。
さて、そうなると…ああ! 皆さん各所に散って作業をされていた!
だから『イロモノ』との接触が一人ずつだったのですか?」
「ええ、東西南北の四つで分担していましたから、私が東側で認証の番人の部屋に近かったので最初にプラムさんと会いました。
北がホッコ、南がオーノ、西がリーダーでしたから、騒ぎに気付いて戻ってこれた順に会っていると思います」とユミ。
「認証の番人で権限を戻してもらうのは一人ずつですからねぇ、待ち時間が発生して…なるほど辻褄はあってますね」
これについては間違いない、接触が一人ずつになったのは本当にタイミングによる偶然なのだから。
「そうなりますと、不思議なのが、なぜ皆さんは揃って先生の場所をわからないとおっしゃったのですか?」
本題が来た!
「先生にそう言えと言われていたからです」とホッコ。
「なんですと?」
「毎年、『自己責任』って言ってますけど、本当は先生、ダンジョン入り口で待機してて…」
「何かあったら救助に向かえるようになってました…」
「口止めされてたんだがな…」
「確かに、ターレン女史が参加している課外授業では死傷者は出ておりません」
「オアツラエさんは口を挟まないように」
「ではなぜ『知らない』で通さず、『仲間に聞いてきます』となったのですか?」
「どう見ても非常事態だったからです。 ただ、僕らの判断で先生が居ることを言っていいか分からなかったので」
「まずテントにいる先生に伝えて、指示を仰ごうとしました」
「その指示が、『先生は別件で此処を離れている、戻ったら伝えておくので先に冒険者組合に助けを求めた方が良い』ですか…。
ではその後、先生はどうされたのですか?」
「僕らに冒険者組合に戻るよう撤収指示を出されました」
「置きっぱなしだった掃除道具とか、ゴミとかを回収に戻って、そのまま冒険者組合に戻りました」
「『イロモノ』のイェロさんや『ナローズ』の剣士たちとは?」
「会っていません、たぶんゴミを回収中に先に行かれたのでは」
「先生はその後?」
「会っていません、冒険者組合に戻ったら、先生も先に一度戻っていて、すぐにダンジョンに引き返したと聞きました」
「なるほど、事情は分かりました。 先生とナローズの剣士たちは戻ってきていないものが居ることが分かってすぐ引き返したそうですね。
そうなるとやはり、戻った後顕造派の勢力と接触、拉致されたという事でしょう」
捜査官はそう締めくくり、実況見分は終了した。
完全に想定通りの進行であり、完全勝利と言っていい。
やっぱり、僕たちは賢かった。
――――
「カバーストーリーとしてはまぁまぁでしょうか…」
ウキヨ捜査官は紙の束をパラパラと捲りながらつぶやく。
「一応彼らの言い分は確認しましたが、証言できる者が居りませんからね。 狂言という線は残りますよオアツラエさん」
「結局、『ヤブキ』達が何をしていたかはターレン女史だけが証言可能…ということですか」
「いえ、私はターレン先生に証言能力はないと考えております、オアツラエさん。
良いですか? 『作り話』にはテンプレートがあるものです。
彼らはカバーストーリーを考えるにあたり、今回も、使い慣れた『嘘』のテンプレートを無意識に使っているはずです」
「使い慣れた?」
「ええ、彼らは常々、一緒にキャンプに居る先生を居ないものとして振る舞って来ました。
それゆえ『本当は在るものを、無いことにする』、これが彼らの使い慣れた『嘘』のテンプレートだとしましょう、そうすると…
僕らには魔法使いが居ない――ターレン先生は高位の魔法使いでしたね。
魔法使い居ないからダンジョンに入っていない――ターレン先生がメンバーならダンジョンに入れますね。
こうなると前提が大きく崩れますね」
「貴様――!!」
「お待ちなさい、お伝えしておりませんでしたが、あなたが魔装馬車に隠していた重装甲魔法騎士で突撃しようとしたのを密告したのはターレン先生ですよ」
「――何?!」
「さらに毎年、ターレン先生が参加する『一つ前の』課外授業では行方不明者が高確率で発生しております」
オアツラエは渡された調書に目を通す。
「オアツラエさん、貴方は職務に忠実でいらっしゃる。 で、あるならば最後まで職務をまっとういただきたく存じます」
「私にどうしろと…」
「彼らを嵌めようと思いますので、是非是非、ご協力をいただきたい」




