異端
私たちを罠にかけたネイティブの山禍達はサワンさんの旧知の友だった。
そこの族長バイパーの息子、スコルピオは今、シアンの遺体捜索に協力してくれている。
先頭に道案内のスコルピオ、次に私たち『イロモノ』の後衛職三名、サワンさんイツツさんを挟んで前衛職の三名という配置で進んでいる。
後衛と前衛が入れ替わっているのは、挟み撃ちを警戒してのことだ。
この先は魔法使いが潜んでいる可能性があるため、絡め手を使ってくることも考慮した布陣である。
後衛職が前に出てしまっているが、先頭のスコルピオが山禍のキャスターであるため、戦力的には前衛三名相当になるため問題ない。
しばらくして『/misc』の扉から続く、少し長めのパスが終わり、開けた空間に出た。
「見てくれ、奥に扉がひとつ。 こうなったのはつい最近、魔法使いとそのお付きがうろつきだしてからになる」
このスコルピオ、流暢にイミグラント語を操るが、罠にかけた冒険者から金をふんだくるために必死に覚えたのだとか…。
スコルピオは扉に向かいながら、後ろ手で明かりを落とすよう指示する。
グリーがランタンのレバーを操作し、明かり窓を細く絞った。
グリーとブリエは入ってきたパスの出口脇に張り付き警戒、残りのみんなは扉の両脇で待機する。
今プラムが扉の前でピッキングを行っている。 スコルピオ曰く、鍵がかかっている時とそうでないときがあるらしい。
鍵がかかっているなら、今魔法使いは留守である可能性が高い。 会わないに越したことはないので助かる。
ガチャリと小さな音がして、そっと扉が開けられる。
扉の向こうは少しだけ通路となっており、その先にはかなり広い空間があるようだ。
皆を呼び集める、イェロはフルプレートの音を立てないようゆっくり移動する必要があるため早めに指示をする。
中に入り扉の鍵を掛け直しておく。
広い空間に入る、全体の大きさを図るため、身軽なプラムとブリエが壁伝いに左右に展開する。
無事に左右の端に到着したことを確認し、残りはブリエの方に移動、壁沿いに進む。
プラムにはそのまま進ませる。彼女は夜目が効くため、壁の反対側から我々の状況を把握していてもらう。
アンブッシュがあった時のカウンターの役目だ。
空間の中ほどまで進んだと思われる頃、グリーがランタン上部の散光板を開く。
明かり窓からの光と違い、集光されていないその明かりはぼぅっと周囲を広範囲に照らす。
空間の全体像が見えてくる。
この空間は奥に長い長方形で、空間というよりは建築物の様相だ。
その壁面は漆喰で整えられており、腰の高さまでは青い瑪瑙のタイルが規則正しく敷き詰められている。
壁面の手前には天井まで届く支柱が四本ずつあり、左右で計八本がそびえ立っている。
床石は大理石で白と黒のブロックチェック模様、そして白いものが多数散乱している。
部屋の中央には一段高い場所があり、そこに大きな棺が据えられている。
サワンさんが、私のほうに来る。
「レディオお前、協会の見習いだったよな。これをどう思う」
「…協会の顕造派の建築様式にとても良く似ています…」
「マホガーニだっけ、悪いけどLitの魔法を天井に撃ってくれ。 ああ、心配すんな。 俺たち以外誰もいないから」
マホガーニの手より、ぼうっと光るものが天井付近に向かって飛ぶ、しばらくしてサァっと輝き、周囲を明るく照らす。
「うわぁ! さっちゃん、見てください。 床に白骨死体が沢山あります。 どれも何かで磨いたようにピカピカです」
「…似てるどころか、まんまだよな、白骨だらけってとこが特にさ」
「私は何も知りません! こんな場所も今まで在りませんでした!」
「さっちゃん、その顕造派っていったい何でしょう?」
「異端なんすよ、連中。 見つけたら即粛清しなきゃいけないくらいの」
「ここはお墓ですか? 斬新な埋葬方法とは思いますが」
「イツツ嬢様、そうじゃないんです。 床の骨は連中の実験の失敗作なんです」
―――
「シアンは…居ませんでした」
床の白骨死体からドックレットを多数回収し、確認したものの回収対象の遺体は見つからなかった。
「そうなると、まだ失敗前ってことだよな…」
サワンがそういうと、レディオさんが中央にある棺の方を見る。
「開けるか!」
「いや、いやいやいや、間違いなく顕造の魔法使いが飛んできますよ?!」
「でもほぼ確定だろ、タイミング的に。 今まさにこの棺の中で下ごしらえ中だろうがよ」
「それは、そうだと思いますが…」
「段取り決めるぞ、棺を開ける、遺体回収、出口に向かってダッシュ、以上」
「スコルピオ、悪いが親父さんに探し物はキープって伝えといてくれ。 どうせ異端粛清で大勢でここに戻ってくることになるだろうし、その時にでも」
「分かった」
―――
「行くぞ、せぇの!」
グリー、ブリエ、サワン、スコルピオで棺の蓋を退かす。 蓋は石でできていて重いため、ずらして落とすような形になる。
ズン!と蓋が落下し棺の中が露になる。
「シアン…!」
「そういうのは後、急げ!」
何かの液体に浸されてて青く変色している死体をレディオが担ぐ。
突如BEEP音が空間内に鳴り響く。
「はい、バレました! みんな走れー!」
「扉が勝手に閉まろうとする! 不味いぞ急げ」
予め出口の扉を確保していたプラムとイェロから報告が入る。
イェロが自分のフルプレートを扉に挟んでくれているおかげでぎりぎり通れる状態だ。
「思いのほか来るのが早ぇかも、スコルピオ、先に行って先頭の奴らを支援してやってくれ」
「承知!」
プラム、マホガーニ、グリー、ブリエ、スコルピオ、シアン(死体)、レディオが扉の隙間をくぐり抜けていく。
そしてサワンが隙間に詰まる。
「えっ、嘘…嘘!?」
「いや待て、俺の足が邪魔になってる。 オレが先に抜ける」
イェロは足元のサワンを跨ぎ足先を扉の外に出すと、扉に挟んでいる胸部のフルプレートを残してエビの脱皮のようにするりと抜け出した。
確かにこれでかなり隙間に余裕ができた。
「オレがサワンさんの腕を引くから、後ろのお嬢さん、押してやってくれ!」
もう少しで抜け出せそうだという頃、出口の『/misc』の扉から続く少し長めのパスの方から大人数が駆けてくる音が聞こえた。
イェロは振り向き、ハルバード構える。
「おい、お前ら何やってる! このうるさい警報は何だ?」
パスの奥から出てきたのは『ナローズ』の面々、ユーシャとその他七名だ。
「ギャー、いでででで!」
ユーシャとイェロで引っ張った結果、サワンは無事隙間を抜けた。
なお、私はすぐ抜け出せた。
「で、何がどうなってる?」
「ユーシャさんでしたか? 事情は後で、とりあえず今はダンジョンの外に出た方が良いでしょう」
イェロはフルプレートの回収をあきらめ先行、続いてその他七名、サワン、私、ユーシャの順で出口に向かう。
『/misc』の扉をイェロとその他数名が抜けたとき、突如として扉が消えた。
正確に言うと突然通路が行き止まりになった。
「は?」
「…あのな、不特定多数が出入りするダンジョンの低階層に、こんな目立つ設備があったらすぐ通報されるだろ?」
後ろのユーシャから剣から抜き放つ音がする。
「それが無かったってことは、見つからない対策ぐらいしてるって事だよ、バーカ」
「…てめぇ、顕造派かよ!」
サワンがナイフをユーシャに向かって突き出すが、届かない。
見ると、取り残されたように見えたユーシャの取り巻き数名がサワンの背中と足を突き刺していた。
「サワンさん! あなた達、何を…」
「ユーシャぁー、さっさと三階層に降りちゃおうよ。あんな二人だけで三階層まで来れるわけないから逆に安全だよ」
「よーし、サリーが一番乗りなのでーす!」
「あ、こらダンジョンは走るなー!」
「はぁー、お前ら、そのセリフは違うだろ…」
「はっはっはー、まんまとかかったなクソデカ女」
「よーし、サリーがお仕置きしてやるのです!」
「あ、こらレーティングは守れ―!」
「そう、それ!」




