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ゴーレムの仕様書  作者: suzuki
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ダンジョンへ

「はい、みなさん、おはようございます。昨日はよく眠れたかな?」


 どこぞの自称教育番組のような挨拶から始まる、ダンジョン潜りの日。


 私たちは西の街『ウエスタン‐ディジタス』の冒険者組合正面玄関前に集合していた。

 サワン曰く、オアツラエさんは昨日のあいさつ回りで深夜まで捕まったせいでまだ貴族街にいるらしい。


 さて、

 東の街リンカの更生施設が毎年、探索資格証持ちの生徒を対象に実施している課外授業なわけだが、

今回の参加者は四パーティ、総勢一九名となっている。


 昨日の自己紹介によれば、経験者組、初挑戦組がそれぞれ二組ずつとなっており、私たちはその初心者組の一組となる。


「サワンさん、ジョー(小声)、本日はよろしくお願いしますね」


『はい、よろしくお願いします』


 うん、自然な会話って素晴らしい。


 今回の課外授業、その目的自体はすごく単純明快だ。

 生活の稼ぎのために潜るんじゃなくて、この機会に神学の授業で学んだことを現場で追確認してみてね?というやつである。


 だがしかし、今回の私たちには、それとは別の「重要な目的」がある。

 ジョーのインターフェイス用のライブラリ、その元になる「ソース」を探すのである。


 困った事に、現状何故か、ジョーが生成した依り代を私が操作することはできるのに、私が生成した依り代をジョーでは操作できないのである。

 そして、私がこの世界に降り立った際に生成してしまった山禍の依り代は、実のところジョーの生前の「体」であった。


 ジョーを殺してしまったことについては、もうどうにも覆しようがないのだが、せめて体は返したい。

 なのに何故かジョーだと操作不能になってしまう。


 色々リハビリだの何だの試してみるも、ほとんど効果が無かったさなか、

カチクのとある「実験」により、その原因が、ジョーのインターフェイスのライブラリが『ものすごい適当』だったせいだと判明する。


 つまり、まっとうなインターフェイスのライブラリを構築して、それをジョーのコアに組み込むことができれば、

サクッと動かせて、『解決』となる可能性が出てきたのだ。


『イツツ嬢、俺、ブランクこそありますが、そこらへんの冒険者には後れを取りません』


 うん、ほとんどブランクなしで翻訳できてるな。


「ジョー(小声)頼りにしています」


『マーカシテ!』


 そう、今回からプリミティブ語、イミグラント語どっちもできちゃう、ジョーが翻訳機をかって出てくれているのだ、これは捗る!


『イツツ嬢、俺っちは??』


「もちろん!あなたが居ないと始まりませんもの」


『で、ですよね、よかったー』


 そう彼、サワンの手には第七階層位聖遺物「経典:ニツメル奇譚」がある。

そしてこの本にはインターフェイスのライブラリの作成手順がズバリ載っているのである。


実に恐ろしいことに、この世界「ディスクワールド」のマニュアル本と言っても良い代物だ。


 これって国宝級レベルでは?と思うのだが、

同じ内容が「ニツメル異聞」とかいうテキスト本で大量に出回っており、サワンの「奇譚」は

仰々しい言い回しや挿絵が多い、歴史的な価値があるだけの経典ということになっているらしい。


 なお、私がちらっと見せてもらった感じだと、仰々しい言い回しはコマンド文字列に見えるし

挿絵なんかは、何かの機器のセットアップ方法の図にしか見えない。

 目の前の宝の価値が分からないって怖い…。


「では、いまからダンジョンに移動しまーす! はい、そこのネクロフィリア女!よそ見しなーい」


 いや、死姦趣味とか無いから…。


――――


「はい、到着!」


「「「「近っッ?!」」」」


 いや、近すぎる。冒険者組合の裏手に回っただけって。


「現場近くに事務所があるのは当たり前ですよー?」


「いえ、先生。こんな近くに構えて、ダンジョンから創生前の怪物が漏れ出てくる恐れはないのですか?」


「だからこそ、プロの冒険者の詰め所がすぐそばで警戒してるんですー、馬鹿ですー?」


 生徒に馬鹿とのたまう先生ってどうなんだろう…

 

 冒険者組合裏手のダンジョン入り口は縦の大穴となっていた。闘技場くらいのサイズでズボッと地面が陥没したような感じだ。

 大穴の側面に沿うように坂道が作られており、外周を二周半くらいして底に到達する。


 坂道の途中から見えていたが、大穴の底の側面の一部にぽっかりと大きな横穴が開いており、この先が「第一層」という事らしかった。


「では、これより今年度の課外授業を開始しますね!みなさん、くれぐれもダンジョン内で起きたことはすべて『自己責任』、つまり『いのち大事に』!です。お忘れなくー」


「『いのち大事に』か、そりゃいい、死んじまってネクロマンサーに拾われるのは御免だしな!」

「ユーシャぁー、さっさと三階層に降りちゃおうよ。あんな二人だけで三階層まで来れるわけないから逆に安全だよ」

「よーし、サリーが一番乗りなのでーす!」

「あ、こらダンジョンは走るなー!」


 パーティ『ナローズ』が横穴に向かって突撃する。言葉ではふざけているが陣形などはきっちり揃っていて、経験者だなぁとわかる動き。


「私たちも行くぞ、二階層目に備えて一階層は無理をせず、温存していこう!」


 パーティ『イロモノ』が続いて横穴に入っていく。名前に反してすごく無難な構成、方針のパーティだと思う。


「あ、お先どうぞ」


「え?」


「僕ら、魔法使い無しの急造パーティなんで! 今回は入り口付近で雰囲気つかめればそれで良いんで!」


「あら、そうなのですね…。じゃ、行きましょうかサワンさん」


 『ヤブキ』とかいう初挑戦のパーティ。魔法使い居ないってのはキツいんだろうなと、あの溶岩ぶっぱの爺さん思い浮かべて納得する。

 まぁ、うちも魔法使い居ないんですけども!


『あ、前衛は俺っちが。あと、気になることが言ってください、俺、機微ってやつには疎いので』


 …

 

 ……

 

 ………

 

「もう良いですぜ、姉貴」


「はー、バカと一緒にいると疲れるぅー」


「『ボクラマホウツカイナシノキュウゾウナンデー』」


「おいやめろ、笑っちまうだろ!」


「普通、じゃあ、何しにここ来てんだよってなんない?」


「バカの考えることは分からないです」


「バカはほっとくに限りますね、さぁ、仕事仕事」


「分かってまーす、俺たちは賢いので」



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