走馬灯
俺達はバンディットだ。
種つきリンゴの芯の入れ墨、それがある奴ぁみんなバンディットだ。
街に入れない浮浪の者、外縁の民の成れの果てだ。
俺は見ちまった、アレは月球だ、つまり使徒様じゃねーか。
ビビっちまって、死んだことに気づかなかったじゃねーか。
なんであんな所に居たんだ、この間協会が保護したって言ってたじゃねーか。
いや、知ってる、アレは別モノだ。
公開実験で見たから知ってる、協会が保護したのは時化様だ。
時化様の目は三つだ、みんな知ってる。アレはもっとあった、やっぱり別のヤツだ。
…え、野良の使徒様とかやめてくれよ。
…俺、火で焼いちまったよ。
…俺、どうなるんだよ。
「死を自覚できましたか?」
「うわぁ、だれだ!?」
「驚かせてすみません、私はコアダンプ、あなたの吐瀉物です」
「吐いてねぇぞ??」
「魂から吐き出されるもの、という意味での吐瀉物です」
「訳がわからん」
「私はあなたを構成していたもの、あなた自身でもあり、あなたが最後にお別れするモノとなります」
「他の奴らは?」
「彼らはとっくに旅立ちました」
「そうか…」
「さて、あなたは死を自覚しました。お仲間以外に縁がほぼ無かったため、これよりガベージコレクターによる解体が始まります」
「痛ぇのか?」
「人によります」
「そうか…」
「では、解体のつかの間、この私、つまりあなた自身の記録、走馬灯をご覧ください」
――――
『僕には神の声が聞こえる!』
痛ぇええええ!
やめろ、五歳の俺!それ、ただの心の声だから!心の声を他人の声と勘違いしちゃう病気だから!
『御坊様、神は言っています。かつてこの地にはリンゴの木がたくさん生えていて、みんなタダだったと!』
「そうですか、それでは今はなぜリンゴの木が生えていないのでしょう?」
『売り物にしたからです、リンゴが生えていたところはそのまま壁で囲まれてリンゴ園になりました』
「なるほど、ではリンゴの木を新しく植えればまたタダで食べれますね?」
『それだと売れなくなるので、多分植えたら駄目という法律ができます。』
「そんなこと、できるでしょうか?」
『できます、きっと今までもそうだったんです。だから僕らの周りには何もないんです』
あれ、俺こんな事言ってたか、言ってたかも。そういや、あの坊さんどうしてっかなぁ。
――――
『俺には剣の才能がある!!』
やめろぉ、痛ぇええ!
勘弁してくれ八歳の俺!それ、子供特有の万能感ってやつだから。声に出しちゃだめなやつだから!
『俺はこの剣の腕で探検者になる!外縁の民は卒業だ、みんな俺について来い!』
やっちまった、今思えばここで道を誤ったよなぁ。アイツらもついて来ちゃったばっかりになぁ。
――――
『試験には落ちたが、剣の腕を認めて商人が雇ってくれるんだ。ただ、入れ墨が…種つきのリンゴなんだ』
十歳の俺、やばい所に拾われたっての分かってたくせに。諦めきれずに変な横道入っちまったよな。
――――
『いまさら、戻れるわけ無いだろうが!何人殺したと思ってんだ』
もう数えるのもやめた頃か、キルマークが両腕でも足りなくなって足までいったっけな。
――――
『はっ、はひひひ!マジかよ、使徒様が来たって?マジかよ、おい、見に行こうぜ、ぜってぇ嘘だ』
全部嘘、おっさんなんて居ない、使徒様なんて作り話、全部人間の都合。
そう思ってたんだがな。
――――
『聞いたか、今バンディットが捕まると、もれなく裏に居た商会もお縄になってるらしい。俺達も奴らに処分される前にうっかり捕まってやろうぜ。そいで、全部ゲロってやろう!』
乗るしかねぇこの大波に!
いつ死んでもおかしくない俺らは捕まって拷問なんてスナック感覚だったが、アイツらはまさに地獄行きだったろうぜ。
最高だったなあの顔、本当に最高の瞬間だった。
――――
『気に食わねぇな、そのナイト様が俺達の相手か?お前は後ろで見てるだけか?てめぇの手は汚さねぇのか?』
うわぁ、「恥ずか死」ってやつだろ、これ。使徒様からすりゃ「何いってんだお前」ってやつだったろうな。
使徒様が後ろで見てんのは当たり前だ。当事者じゃないし、アドバイザーの立ち位置なんだから。
――――
『でも御坊様、疑いなく使徒様は先駆者で、未然を知らしめてくださいますが、僕たちイミグラントがその通りの結末に至らなかったらどうするのですか?』
「至るようにするのが協会の努めです。例えば、未然の未来に人々がお互いを憎んで殺し合うのであれば、我々はイミグラントに人を憎むこと、憎んだら殺そうと思うよう、時間をかけて『教育』してことに当たるのです」
あれ?最後に五歳に戻ったぞ。こんな問答したっけ、したか?したかもな。
――――
「走馬灯は以上です」
お別れか。なぁ、最後に一つ聞いていいか?
「どうぞ」
『御坊様、それで幸せになれるのでしょうか』
「…なりますよ、遥かなる未来がね」
これを最後にバンディットのリーダーだった男の意識は概念と認識の海へ溶けて消えた。




