おっさんとの別れ
「ほな、質問タイムや、何かあるか?」
おっさんは私に裏事情を教え過ぎでは?実は転生時に記憶は消すから大丈夫、という事ですか?
「そうや、普通は転生時に記憶は全部消すねん、だから結構みんな秘密べらべら喋るんやで。」
「でも今回はおぎゃあせぇへんから残るで。まぁ、正規の惑星ちゃうし、かまへんかまへん。」
次に、このインターフェイスが壊れる事はありますか、また、壊れた場合私はどうなりますか?
「筋力程度で破壊される事は無いやろうけど、金属相手やとちょっと分からんな。」
「んで、壊れたら死ぬで。せやから予備2コ付けたる、出血大サービスやぞ。」
なんだろう、この惑星は残機制なのか?八〇年代のゲームみたいになってきたぞ。
「実は1UPも出来るで。方法は自分で見つけや、やり込み要素や。」
うん、ますますゲームだこれ。
もし予備も使い果たして死んだ場合、私の魂は何処へ行きますか、元の惑星に戻れるのですか?
「あほな、うちの目の前にスポーンするだけやで、元の惑星には戻らんで。」
え、さっき戻れるって言ってなかったっけ?
「疎開が解除される迄はそういうルールやぞ、今時分戻っても嫌がらせにしかならんからな?」
そういう事か、では疎開が解除されたタイミングで自殺すれば元の惑星に戻れるという事だな。
「気に入るて、ええとこやて。」
耳元で囁き出したぞ、このおっさん。
あと、私が知らないこの惑星独自の物で、特に気を付けなければいけない物を教えてください。
「独自や無いけど、お前はんとこではとうにに失われた魔法が在ったり、怪物とかがおるで。」
いや、魔法や怪物の類は私の惑星には最初から無かった筈だが。
「あったし、おってん。お前はんらは自分らで出来るようになったから解除されただけやぞ。」
「空も飛べんうちは魔法で飛ばすし、国の線引きもできんうちは怪物が境界線の代わりやぞ。」
もしかして、紙とペンが出来てから記憶力が落ちたり、計算機が出来て暗算能力が落ちたのも。
「お前はんらのクラスやとその辺が解除やな、そうやって手のかからん子になっていくんや。」
あれは、退化しているわけじゃなかったのか。
他にも色々確認したが、最後に私は聞くべきか悩んでいた事を結局切り出した。
おっさんは先程、私の仮説を肯定したが、お気に入りだけを住まわせているのも当たりなのか?
するとおっさんは急に真顔になった、そして静かに頷いた。
いやそんな大事な場所に私を、いうなれば異物を下ろして良いのかという意味で聞いたのだが。
「普通、下位クラスの管理者が上位クラスの魂を他所から借りれるなんて有り得へんのやで。」
おっさんは妙にしんみりとしてしまった、聞かない方が良かったかもしれない。
「じゃあ、始めるで。」
気が付けば、懐から出した青緑の惑星はおっさんの背丈の2倍近いサイズにまで膨らんでいた。
星という物は放っておくと宇宙空間の暗黒物質をスポンジのように吸収してデカくなるらしい。
おっさんは惑星に向かって投球フォームの調整を始めた。いや待て、ここから投げ入れるのか?
納得したおっさんはインターフェイスを握ると、五芒星の刻印を私に向けて腕ごと突き出した。
よく見るとそれは笑っている顔に見える。五芒星が目で、三日月が笑っている口に見えるのだ。
そう思った時、私の目の前からおっさんとインターフェイスが一瞬で消えた。
違う、私がインターフェイスの中に入ったのだ、これはインターフェイス側からの視点なのだ。
グッと視点が移動する、腕を曲げているのだろう、おっさんの巨大な顔が私の正面に出て来た。
「ええ、凄くええわ、全然違う。」
おっさんは巨大な目を細めてそう漏らすと、巨大な舌で私を、インターフェイスを舐め始めた。
って、おおぉぉおい、何をしているのだ、こいつは。
「何って、よぉ濡らしとかんと。」
ええぇぇえ、濡らす必要がどこあるのか。
「大気圏で焦げるやん?」
ああー、納得だよ、手早く頼むよ!
私は涎にまみれ、おっさんはセットポジションをとった、いよいよ出発の時だ。
「なぁ、素直に答えや。」
はい、何でしょう?
ピッチャーおっさん、振りかぶった。
「男?女?」
-今度は女が良いです。
おっさん、足を高く上げてぇ、
「叶えたるから、性癖全部言っとけ!」
-え、ぇぇえええ!
投げたぁあー!
大気圏に突入し蒸発する唾液の中で、私はあの瞬間に何を口走ったのか思い出そうとしていた。
魂の状態では理性のブレーキが効かないようで、全部赤裸々にゲロッてしまった可能性がある。
いや、自分の性癖どころか、前世で見聞きしたことのあるやつは全部言ってしまった気がする。
それは投げ出される瞬間に見たおっさんの、耳元まで跳ね上がった口角が全てを物語っていた。