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ゴーレムの仕様書  作者: suzuki
27/51

大一番

 『悪魔の知恵』ともう一人の山禍(さんか)が釘を土人形の胸に打ち込んでいく。最後の打ち込みが完了すると、『悪魔の知恵』は土人形の胸に耳をあてた。


 まるで心臓の鼓動を確認するような印象的な仕草であった。実際にはタイマーの作動音を確認していただけなのだが。


 「よし、退避だ」


 カチクがウワンに合図すると二人は土人形から飛び降り、急いで閉じかけている来賓席の真下の壁の隙間へとダッシュした。


 二人が退避し終わると、演習場に先程のウグイス嬢の声が響き渡った。


 「では、これより『ゴーレム』の誕生をご覧いただきますの。誕生には爆発を伴い、大きな音がします。ご注意ください」


 「全軍、耐衝撃防御姿勢!」


 「重装甲兵、密集防御陣形!」


 「重装甲魔法騎士、多重魔法ドーム最大展開!」


 「――大きな音がします、ご注意ください――」


 一瞬、世界が真っ白になり、会場内の全てが宙に浮いた。音を通り越した空気の壁が、観客席の住民達を張り倒した。


 観客達の頭の上を何かが飛んでいく、密集陣形を崩された重装甲兵が吹き飛ばされているのだ。


 観客達は慌てて起き上がると、演習場の爆心地を見た。そこには先程の土人形が二本の足で立っている。大きさは三メートルほどだが、立っているそれは異様に大きく見えた。


 等間隔に立っていた魔法騎士の最前列は爆風で引き倒されていた。そして六列目まではその象徴たる多重魔法ドームが消滅させられており、七列目の騎士は何とか維持するものの風に煽られた蝋燭の炎のように点いたり消えたりしていた。


 「本当だ、魔法が無効化された! 魔法騎士どころか、この観客席の魔法防御まで消えてるぞ」


 先程のローブを着た集団から声が上がった。


 実は、魔法騎士が『ゴーレム』に敗れたという噂はかなり早い段階で住人に知れ渡っていた。しかし、信じられない者、信じたくない者、兵士が自分達の敗北を正当化する為にでっちあげた話とする者、等受け取り方は様々であった。


 だが今、実際に目の当たりにした観客達は一様に納得した。成程、こうなってしまっては魔法騎士といえども一介の騎士と何も変わらない、敗北もあり得るだろう、と。


 「オアツラエ殿の報告以上の範囲ですな。おそらく木々等障害物の有無に左右されるのではと」


 カンジョー大隊長がセイシンに耳打ちした。セイシンは軽く頷いて言葉を返した。


 「ご協力感謝します、カンジョー殿。これで亡くなった魔法騎士達の汚名を返上できたと思います」


 「なによりです。では早めに騎士達をお引き上げください。ここから先は泥沼ですので」


 セイシンが来賓席から立ちあがり、右手を上げると魔法騎士達は観客席に一礼した後、外周の壁の向こうへ姿を消した。


 「セイシン君、もう騎士達を引き上げるのかね? 少し早くないか?」


 まだ、呼吸が荒いファンガル副局長がセイシンの肩を掴んで問いかけた。


 「騎士達の魔法防御がどれくらいで回復できるのかを調べるんです。距離によって回復に差がありそうなので」


 「それまでは、我がカンジョーの軍が時間を稼ぎますのでご安心を」


 「ははは……カンジョー殿は冗談がキツイですな、謙遜も過ぎればなんとやらですぞ」


 ファンガルはいまいち状況が読めなかった。時間稼ぎ? あの軍勢で? 土人形など一捻りだろうに。


 観客達は爆心地に近い塹壕を指さしてざわついていた。兵士たちが動かない、土を被ったまま動かないのだ。


 カンジョー大隊長が来賓席から立ちあがり、笛を鳴らした。その直後、全ての塹壕からサーベルを持った腕が突き上げられ、真ん中の塹壕の現地指揮官が号令をかけた。


 「最後列魔法隊! 攻撃魔法詠唱開始」


 一番遠い塹壕は魔法無効化の影響を受けなかったようで、塹壕の中から飛び出した火炎系魔法弾の雨が爆心地の『ゴーレム』に降り注いだ。


 しかし、相手は土であり、炎でダメージを受けた様子はなかった。


 「観測! 魔法弾、効果認められず。弓兵の支援求む」


 「中列弓隊! 集中投射開始」


 今度は矢の雨が『ゴーレム』に降り注いだ。ゴーレムはあっという間にハリネズミのようになった。


 しかし、相手は土であり、軽く身を震わせるだけで矢は地に落ちて行った。


 「観測! 矢の効果なし、矢の効果なし」


 『ゴーレム』は矢を落としきると、兵士達に向かって肩をすくめて見せた。『で?』という感じのポーズだ。


 「おのれ、前列槍兵、突撃!」


 わあという掛け声と共に百人近い兵士が槍を持って塹壕から飛び出し『ゴーレム』に突進した。


 そして先頭の十人程が『ゴーレム』の腹や腕に槍を突き立てた。


 「「やった!」」


 観客席からも声が上がる。さすがにこれは効いただろうと皆が思った。


 しかし、結局は土であり、手応えなど全くなくただ単に地面に槍を指したような感触しかなった。


 『ゴーレム』が腕を振り上げると、腕に刺さった槍を握っていた兵達は宙に舞いあげられた。次に腕を振り下ろすと、腹に刺さった槍が折れ、槍を握っていた兵たちは地面に叩きつけられた。


 「周り込め、動きを止めろ」


 槍兵たちは全ての方向から『ゴーレム』を突き刺し、押し込む事で何とか『ゴーレム』の自由を奪う事に成功した。


 「大型弩砲(バリスタ)だ、打ち込め! 構わず撃て」


 現地指揮官の叫びに呼応して、壁際に設置された大型弩砲(バリスタ)から鉄の銛が射出された。


 ドッという鈍い音と共に、銛は『ゴーレム』の顔面から首の後ろに向けて突き刺さった。


 観客席、来賓席から歓声と拍手が起きた。勝負あった、誰もがそう思ったのだった。


 「いやいや、驚かさんでくれたまえカンジョー殿。肝を冷やしましたぞ」


 ファンガル副局長がカンジョー大隊長の肩をポンと叩いた。


 「我々が善戦した事を評価して頂き有難うございます、ファンガル副局長殿」


 善戦――? ファンガルはまたしても状況が分かっていなかった。


 観客席からの歓声は悲鳴に変わった。『ゴーレム』は何事もなかったかのように首の後ろから銛を引き抜いた。そして、そのまま銛を横に払って一回転すると、取り囲んでいた槍兵達は遙か後方に弾き飛ばされた。


 周囲があっけにとられている間に『ゴーレム』は銛を持ち替えると足を高く上げ、美しいフォームの大遠投を見せた。


 ドカンと音が響き渡り、大型弩砲(バリスタ)の機構部が銛に射貫かれて破壊されていた。


 その直後もう一つの大型弩砲(バリスタ)が『ゴーレム』を射抜いたが、むしろワザと腕を貫通させてキャッチされてしまい、そのまま同じように打ち返されてあっさり破壊された。


 「お、おい。どうすんだこれ、誰が勝てるんだ?」


 観客席からは動揺が漏れだした。これだけの兵力でかかっても、倒すどころか逆に返り討ちにあっている。多くの者がオアツラエが言った『地獄の窯』の意味を理解し始めていた。


 戦意が喪失し立ち尽くす兵を後目に『ゴーレム』はゆっくりと前進を始めた。塹壕最後列の壁際で不敵に笑う男、ジジイに向かって。


 「さぁー! 来さらせバケモン。随伴兵が居なけりゃあんな小細工も出来まい、今度こそきっちり溶かしきってくれるわ!」


 ローブを着た集団から声があがる、爺さん逃げろ、無茶すんな、俺らが悪かった、死ぬなと。


 「うるせー! 魔法は度胸じゃ、黙って見とれ!」


 「「「え?」」」


 「喰らいさらせワシの花火、ブロッサム‐ラヴァー!」


 巨大な溶岩の(つぼみ)が発生し、『ゴーレム』目がけて飛んでいく。


 ボスンと乾いた音がして、(つぼみ)がジジイの頭の上を越えて演習場のはるか外へと飛んでいく。


 「は?」


 なんと『ゴーレム』は腕をフルスイングして蕾を打ち返してきたのだ。そしてそのまま『ゴーレム』は一気に距離を詰めてくる。


 「くそっ、次を撃たせん気か!」


 ジジイの顔に嫌な汗が出る、どう考えても次弾詠唱が間に合わない。


 すると、横から何かが飛来して『ゴーレム』を直撃した。『ゴーレム』は態勢を崩して尻もちをついた。


 飛んできたのは砂袋だった。『ゴーレム』は砂袋を掴んで投げ返すが、袋はひらひらと宙を舞うだけだった。砂袋は結び目を切ってあり、ゴーレムに当たった際に中身が飛び散って再利用できないよう細工済みだったのだ。


 「ジジイさん、我々が足止めしている間に次弾をお願いします」


 いつの間にか外壁の一部が開いており、そこから投石機(カタパルト)が数台顔を出していた。


 「小隊長殿か! かたじけない」


 非常に速いペース、かつ正確な射撃で砂袋が投射され続け、『ゴーレム』中々体を起こせないでいた。


 「凄いな、何処の隊だ。というかあんな装備あったんだ……」


 「『ゴーレム』相手なら大型弩砲(バリスタ)より強いんじゃないか?」


 観客席から歓声と応援の声が上がる。


 「カンジョー殿、欠陥兵器まで出すとは恥を知りなさい。少なくとも私は聞かされてませんぞ!」


 「申し訳ありませんファンガル副局長、現場の独断のようです。後で報告書を提出いたします」


 「御二人ともお静かに、いよいよ決着がつきますよ」


 セイシンが指さす先では、砂袋を打ち尽くした小隊と、次弾の準備が整ったジジイ、そしてそれを打ち返す気まんまんの『ゴーレム』が居た。


 再びローブを着た集団から声があがる、砂袋でこけてる間に何故撃たなかった、また打ち返されて終了、学習能力なし、ぶっぱジジイと。


 「うるせー! ワシゃ大一番で敬遠はしない主義じゃ!」


 「「「え?」」」


 「喰らいさらせワシの花火、フォーリン‐ラヴァー!」


 巨大な溶岩の(つぼみ)が発生し、『ゴーレム』目がけて飛んでいく。


 『ゴーレム』は余裕のフルスイング、易々と打ちかえ――せない。


 何と(つぼみ)は『ゴーレム』の目の前でカクンと沈み込み、その腕の下をすり抜けたのだった。


 ボスっと音がして蕾は『ゴーレム』の下っ腹に埋まり込んだ。そして、そこから閃光と共に溶岩の花が開いた。


 そして『ゴーレム』は上下半身に別れて崩れ落ち、身動き一つできなくなった。

 観客席は歓声に包まれた。演習場に観客がなだれ込み、皆でジジイを胴上げし始めた。


 ジ・ジ・イ! ジ・ジ・イ!


 「ハーイ、ヒーローインタビューでーす! 今回のMVPはジジイさんです。いやー、凄いですねー、真っ向勝負とか言っといて変化球ですかー、大人って汚いですねー」


 「ええ年した女が何ゆうとんのじゃ、バル――かはっ!」


 「うわぁ、顎に入ったぞ……爺さんまた尻触ったのか?」

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