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ゴーレムの仕様書  作者: suzuki
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おっさんのぶっちゃけ話

「-とまぁ、お互い大変っちゅう事や。」

まさかのお互い変態宣言。


「うがぁああ!」

このおっさんは吠えると八重歯が可愛い、そこはポイントが高い。

纏めると、おっさんは色々と裏事情を話してくれたのだった。


まず、知的生命というのはその存在意義において、上位の存在に昇格する事が求められている。

いち盛衰サイクル中に昇格できるのは各星体系ごとにひとつの生命体だけという決まりがある。

また、惑星とは畑のようなもので、昇格対象外の惑星は寝かされているか輪作が行われている。

我々の惑星はこの輪作をやっていた、つまり今期は昇格の対象ではなかったのだ。


ところが、今期昇格予定の他の惑星が不慮の事故に会い、昇格が望めなくなってしまったのだ。

昇格なしという記録は大変不名誉な事らしく、急遽我々の惑星にスポットライトが当てられた。

つまり「予備」として選ばれてしまったのだ。


昇格の方法はただひとつ、魂の精錬、即ち不純物の除去である。


本来は長い歴史の中で研鑽を積み、不純物を取り除いていくのが正攻法である。

しかし、残り少ない期間でそれを行うには無理があった為、せこい小細工をする事にしたのだ。


実は確率は大変低いものの、交配によって生まれつき魂の純度が高い個体が生まれる事がある。

知的生命の支配層に干渉して人口爆発を引き起こせば、その個体を一定数確保できる事になる。

必要数集まった時点で、不要な個体を残らず処分すれば晴れて優等生だらけの星の誕生である。


なかなかに酷い話だ。ちなみにその必要数が丁度百万で、人口の上限とされた数字と一致する。

という事は、現在は絶賛処分中の段階という事か。


「いや、まだ望まれた子供は百万いってないで。」

「せやから、絶賛アホみたいに生んで、絶賛アホみたいに殺してる最中や。」


私はふと、これ程の死に物狂いをしてまでも昇格が必要なのかと思った。


「恩恵が凄いからな、特にお前はんらのクラスから上は別次元やし。」

「あの河は収容先-というか魂の疎開先に向かっとる、民族大移動やな。」


疎開先という事はいつか帰ってくるのだろうか。


「戻ったらまぁペットやな、犬猫みたいな立ち位置になるで。」

「上位の生命は下位の生命を導く義務があるからな、あぁ子羊のパターンもあるな。」


私も一応、皆とは場所が違うが収容先には向かっている筈、戻れるという事で合っているよな?


「居着いてくれてもええんやで?」


おっさんは小首をかしげつつ、ぽつりと何か言った。

まぁ収容先を見てみない事には何とも言えない、だが随分歩いたのにいっこうに見えてこない。

すると、おっさんはもぞもぞと懐から青緑色の球を取り出した。

ちょっと待て、実はずっとそこにありましたとか言うなよ?この移動に何の意味があったのか。


「温めといたで。」

うわぁ、ひっぱたきたい。


「人目があると不味いねん。」

「隠れるとこないし、距離を稼がなあかんかってん。」

コブを摩りながらおっさんは弁解した、どうも魂の状態では理性のブレーキが効かないようだ。


まさかそれが私の収容先なのか、懐サイズとかそれでも星なのか、本当に生き物が住めるのか?

「概念や概念、ホントはもうちょい大きいねん。」


私はその時、おっさんが隠れて惑星を持ち歩いている理由について、荒唐無稽な仮説を立てた。


仮説はこうだ、

おっさんの持っている青緑の惑星は実は予備で、宇宙の戸籍上存在していない事になっている。

本来は異次元の倉庫にでも眠っている筈の予備惑星のひとつを、このおっさんはくすねたのだ。

そして自分のお気に入りばかりを住まわせ、それを眺めては虫の観察宜しくニヨニヨしている。

-と、こんな感じだ。


ふと視線を下すとおっさんが私を見上げていた、そして目が合うとおっさんはこくりと頷いた。

当たりかよ!


「みんなやってんねん!」

このおっさん、してはいけない言い訳の典型を言いやがった。


「最後の一個やったし!」

モラルハザードどころじゃない、大丈夫かこの世の中!


「ゴホン、ほな、気を取り直して転生の説明をするで。」

ああ私は何故あの時この収容先を当たりだと思ってしまったのか、どう見ても地雷ではないか。


「えっとまず、すまんけどこの惑星のクラスはお前はんとこより格下なんよ。」

どういう事だ、クラス?そういえば収容先のリストにクラス3と書いてあったな、あれの事か?


「そや、この惑星は現在クラス3でお前はんらでいう中世くらいの精神レベルや。」

あー中世か、有りがちなパターンだ。

飢餓、疫病とかありそうだが、監視社会にはなってないだろうし山奥に隠れて住めばいけるか。


「で残念な話、この惑星の肉体ーシステムはお前はんらの魂ーソフトとは互換性が無いんよ。」

あぁ上位互換はともかく、普通下位互換なんて取らないしな―え、じゃあ転生できないのでは?


「せや、そこでーこいつやで。」


挿絵(By みてみん)


おっさんは懐から金属球を取り出した。握り拳より一回り小さくて表面に五芒星の刻印がある。

その五芒星を囲むように三日月状のインジケータが配置されている、何かの装置のようだった。


「これは、金属生命体系列の無精卵を魔改造して作ったインターフェイス、まぁ変換端子や。」

闇市で買ったとかどうせそんなとこー頷くと思ったよ。


「とにかくお前はんの魂はこいつを経由すれば、この惑星の人間の体を操縦できるって事や。」

ちょっとまて、さらっと操縦って言ったぞこのおっさん。


「すまんな、おぎゃあとはいかんねん。」

つまり、既にその惑星に生を受けている何処ぞの誰かの体を殺して乗っ取ると、そういう事か?


「ひとりぐらいどうっちゅうことないで?」

うん、我々の惑星の管理者に比べれば霞むが、こいつも大概ひどい。


だが、私は正規の収容先からは全て断られた引き受け先の無い身、贅沢を言えた立場ではない。

不本意だが、行くあてのない私の為に1名犠牲になってもらうしかなかった。


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