たのしい実験
カチクとウワンは目のやり場に困っていた。
それは、LABO中央の土の絨毯の上で、ナカバが大の字になって寝ていたからであった。
「ナカバ、何のまねですかそれは」
「あたしは今日、ヨワネ様にこの身を献上致しますの。そして、飛び級様と一生添い遂げるのですわ!」
「落ち着けナカバ、飛び級様の中の御方は男だぞ」
「それの何が問題なのかしら!」
「おまえは体が女だったら何でもいいのかよ!」
三人が漫才をしている間、壁際の机でエクス嬢――飛び級様が紙に何かを書き綴っていた。書き終わると彼はカチクにそのメモを差し出し、カチクは隣の簡易机に移動すると辞書をひっくり返してそれを翻訳した。
「何、何? 飛び級様はなんて仰ったのかしら?」
「ええと、『邪魔だからどけ』」
「がーん!」
嘘である、正しくは『そこはベッドではありません』だったが、状況により意訳は必要なのだ。
ナカバが退いたのを確認すると、飛び級様は植木鉢を抱えて土の絨毯の上に移動し、そこでおもむろにその植木鉢を逆さまにした。
「「「なんだこれ?」」」
ひっくり返した植木鉢から出てきたのは、土でできた謎生物だった。
「見たことあるぞ、海の生き物で――確か『ヒトデ』だ。毒がある奴と食えるやつがいるんだ」
「ゲテモノは遠慮したいですわ」
土ヒトデは子ウサギくらいの大きさで、飛び級様の月球の刻印のようなトゲトゲの形状、五つの突起を持っていた。土ヒトデは落下の衝撃でしばらく痙攣していたが、やがてむっくりと起き上がった。
「これは、ヨワネ様?」
土ヒトデの、今まで下になっていた面の中央にヨワネ様の月球がはまっているのが見えた。
「これは驚きました、土の塊が依代になり得るとは……」
「ああヨワネ様! このようなお姿、さぞご不便であったに違いありません、やはりあたしの体を!」
「「もういいからそれ」」
「ががーん!」
三人を軽く無視して飛び級様は土の上にお座りになり、ヨワネ様はその膝の上によじ登った。
御二人はしばし見つめ合ったかと思うと、急にせかせかと周りの土を盛り始めた。盛り土はしだいに人の形に整えられ、やがて幼児大の『土人形』が完成した。
「息がぴったりだな」
「以心伝心ですわね、羨ましいですわ」
カチクはピンと来ていた。これは意思疎通に言葉を使っていないだけで、実際には何かしらの会話をしているに違いない。なぜなら御二人が向かい合った時には、必ず三日月部分の明滅が見て取れるからだ。
我々も夜間、山同士の合図には松明の明かりを使っている。どの小屋に明かりがついたかで意味を持たせているのだが、これはその延長線上の技術で、明かりの明滅の組み合わせに意味を持たせ、より複雑な情報を交換しているのだろう。
カチクがこの発見をメモして顔を上げると、飛び級様はそれを待ってくれていたようだった。
それから飛び級様は、三人が見ている前でヨワネ様の月球をわしっと掴み、土ヒトデからずぼりと引っこ抜いて見せた。
「「「え?」」」
普通に考えると心臓が抜かれたようなもので、割とショッキングな絵面なのだが、ヨワネ様の体が土ヒトデだったせいで、何か拍子抜けた印象を受けてしまった。
飛び級様はその後、何度かヨワネ様の月球を土ヒトデから抜いたり戻したりを繰り返した。戻される度にヨワネ様は土ヒトデの体で元気に動き回って見せた。
「これは、どういう事ですの?」
「鉄球を抜いても死なない、戻せば元通りって事じゃないか?」
「おそらく、我々とは命の仕組みが違うと教えてくださっているのでは」
やはり飛び級様はカチクがメモを取ったのを確認してから、次の行動に移った。
三人を壁際まで後退させた飛び級様は、土ヒトデから抜いたヨワネ様の月球を、先程作り上げた『土人形』の胸の部分にポトリと落とした。
直後ドカンと大きな音と閃光が走り、三人は壁に打ち付けられた。飛び級様も壁際まで飛ばされていた。爆心地には先程の『土人形』が二本の足で立っている。
「なんだ、今のは!」
「爆発か雷撃の魔法ですわ」
「いや、これは電撃バーストという現象、過去の御使い様の記録にある通りです。受肉した体のサイズが大きいほど危険で、ナカバを受肉していたら恐らくLABO、下手をすると屋敷ごと吹っ飛んでいたでしょう」
三人が爆心地に目をやると、飛び級様とヨワネ様の御二人は屈んで、すぐ傍の土ヒトデのあった場所を見つめていた。そこに土ヒトデは既に無く、真っ白な灰の山ができていた。
すると御二人は急に、もう一体『土人形』を作り始めた。ヨワネ様の体がヒトデから人の形に変わったせいもあって、『土人形』はあっという間に完成した。
そして御二人はその『土人形二号』から距離を取ると、飛び級様がヨワネ様の月球を抜き取り、『土人形二号』に向かって放り投げた――
「伏せろ!」
再度ドカンと炸裂、爆心地には新しいヨワネ様の『土人形二号』が立っており、離れたところにあった『土人形一号』は灰の山になっていた。
「痛てて、何で同じ事を二回するんだ?」
「ゲホッ、さっきよりは少し加減されてましたわ」
「『再現性』の確認でしょう、バーストではなく灰の山についての。おそらく御二人は、月球移動時の『リスク』を我々に教えてくださっているのです」
「再現性ってなんですの? リスクってなんですの?」
「カチクお願いだ、分かるように言ってくれ。僕らのために言ってくれ!」
「つまり、一度に受肉できる体は一つだけだという事です。新たに受肉したら以前の体――依代は灰になる。つまり、飛び級様が新しい体を受肉してしまうとエクス嬢の体は永遠に失われる。その事を教えてくれているのですよ」
「「ええっ! それは――まあ――しょうがないんじゃないの?」」
「――ああ、これほどまでに君らを見損ない直したのは久しぶりです」
―――
想定外の事が起きてしまった。
インターフェイスを新しい体に移動すると、元の体は分解してしまうようだ。それはつまり、複数の体をあらかじめ用意して使い分けるという運用が出来ない事を意味している。
私とジョーの最優先目標は、ジョーにこの体を返す事だ。我々が元々考えていた手順は、私が新しい死体を調達して移り、空いたこの体にジョーが戻ってくるというものだった。
しかし、この手順では新しい死体に私が移った時点でこの体は灰になってしまう。それを回避するには、まずジョーが新しい死体に移り、その後でお互いの体を交換するしかない。
だが、この方法でも問題はある。ジョーに体を返した後で私が新たな体を新規作成した場合はどうなってしまうのか。ジョーが宿っているにも拘らず、ジョーの体が灰になってしまう危険性が無いと言い切れるのか。
しかし、今それを試すのは危険すぎる。ああ、最初の予備一号がこの手にあれば、この体を危険にさらす事なく予備一、二号の土人形だけで検証できたのに。悔やんでも悔やみきれない。
この懸念はもう少し先、もっと理解を深めてから検証すべきだろう。まず今はインターフェイスの交換、別のインターフェイスが作成した体に移って問題ないかを確認すべきだ。そもそもこれが出来ないなら、体を返す事自体が不可能だからだ。
それに、インターフェイスを交換する場合はお互いの体を使い廻す形になるので、灰になる危険もないはずだ。
以上をジョーに伝える、そして問う、実験を続けるか? 交換を試すか?
「ヤルマス!」
動揺が隠せないのか、言語変換が変だ。いや、この場合翻訳は私のインターフェイスだから、私自身が動揺しているのかもしれないな。
よし、では、いよいよ本命の実験、インターフェイスの交換を始めよう。
―――
飛び級様とヨワネ様は、土の絨毯の上で向かい合ってお座りになると、まず飛び級様がヨワネ様の月球を取り出し、それをヨワネ様は両手で挟むように受け取った。土人形には指が無いため、御自身の月球を取り出せないのだ。
次に飛び級様がその指で御自身の月球を掴んで取り出すと、御二人は腕を伸ばして行き、静かに相手の胸に月球を触れさせた。
――何も起きない、この時点では。
見ると、LABOの隅の机の下にはナカバ、本棚の影にはウワンが居た。体二体分の爆発が起きたらさすがにみんな木端微塵だろうし、正直心配するだけ無駄だと思うのだが。
一呼吸置いて、御二人はいよいよ互いの胸の穴へ月球を這わせて行く。ナカバは目を瞑り縮こまる、ウワンは使えもしない防御魔法の呪文を呟き始めた。ちなみに私が防御魔法を唱えないのは、このLABOの外壁に耐火、防音、耐震魔法を使いきってしまったからだ。
閉じかけていた胸の穴の中心に互いの月球が触れると、ちゅるりと音を立てて吸い込まれた。
直後、まばゆい光と共に雷の帯のような物が御二人の胸の間に発生した。
帯はまるで蛇のように空間をのたうちまわる。いや、頭と尾をまな板に固定されたウナギが暴れていると言うのが一番形容できているだろうか。
その現象は数秒だけ続き、最後、ばんと小さな破裂音と共に雷の帯は消え去った。少し生臭い匂いがした以外、後には何も起きなかった。
ナカバの泣き声が聞こえる、ウワンは静かだと思ったら気絶していた。私も身構えてマジカルワンドを握りしめていた、無駄だというのに。
土の絨毯の上では『土人形二号』の体を得た飛び級様が飛び跳ねており、その傍ではエクス嬢の体を得たヨワネ様が静かにうなだれていた。
―――
軽い、軽い、心も体も。
私はあまりの自身の変化に驚いていた。土の塊とは思えない体の軽さと力強さ、そして心の高揚感と万能感。そうだ、これは子供の頃の感覚に近い、公園や河原を走り回っていた頃の。
苦痛も空腹感もない、ただ心のままに忠実に動いてくれる『体』。
私がこの世界に来た際に人の姿を得たのは何のためであったか。ひとつは単に私が元人間だったからで、もうひとつは人の姿でなければ、化け物として駆除される危険があったからだ。
『おっさん』から特にその旨説明があったわけではない。だが、主たる知性種族が人間である以上、自ずとそれは自明であった。他種族への非寛容は人間の主たる特性だ。
私は間違っていたのかもしれない、何も人の姿のままこの世界で『時』を待つ必要はないのではないか。命を脅かされる可能性が排除できるのであれば、この無機質な体こそが私には理想なのではないか。
もしそうであれば、ジョーに体を返す際に、もう一つの新鮮な死体を用意する必要がなくなる。それに生物の場合は既存のものに限られる上捕獲が必要になるが、人工物ならば新しく創造したり、順次増強する事も可能だろう、この自由度の高さは魅力的だ。
そいうえば、ジョーはどうしたのだろう。ずいぶんと静かだが。
私は、ジョーを下から覗き込んだ。ジョーの顔は上気しており目からは涙、口からは涎が垂れていた。なんだこれは、何があった。
明らかに異常な状態だ。なんて事だ、真っ先にお互いの状況を確認すべきだったのに私は自分の変化に浮かれていた。なんて愚かなのか……
ジョーとの通信を試みたが応答がない。混線しているのか、まともに聞き取れない、そもそもこちらの意思が届いているのかも分からない状態だ。
ジョーの胸のインターフェイスを見ると、その三日月のインジケータに異常が見られた。普段はうっすらと黄色く光る三日月のインジケータの、右三分の一ほどが赤くなっているのだ。ゲームでよくあるライフゲージのダメージ表現のような見た目だ。
体も先程から全く動いていない、このままの状態でいるのは危険と判断した私はペットマンに合図を送った。トラブルが発生した時のためにあらかじめ擦り合わせておいた、『対処B』を行うためだ。
―――
飛び級様から『対処B』の指示が出された。私はナカバを机の下から引きずり出す、ウワンは……駄目か。
「ナカバ、ヨワネ様を寝かせて四肢を押さえてください!」
ナカバは切迫した状況を感じ取り、素早く指示を実行した。ナカバの顔は涙でひどい事になっているが、その目は鋭い。さすがはクインタスの一員だ、もう一人は後で反省会だが。
私はクローゼットを開け『抽出器』を取り出す。これはかつてシケ様が崩御された際、その聖遺骸を取り出すために弟子達が作り上げた禁忌の発明、そのレプリカだ。
実は我々人間は御使い様の月球に触れる事ができない。もちろん、そんな事実は協会の書物や民間伝承のどこにも書かれてはいない。
しかし、御使い様を悪用しようとした者が受けたとされる数多の神罰のうち、後の創作と言われるものを丁寧に取り除いていけば、特定のパターン、指や腕が腐って落ちるというものしかない事に気付く。
そしてその『抽出器』の形状は槍だとも、鋭い爪だとも伝えられる。恐らくは刺股のように先端が割れて爪になっている長い竿で、物を掴めるようになっているはずだ。
ただ、この『抽出器』も万能ではない。あくまで依代様の肉体から月球を抜き出すところまでしかできない上、抜いた直後からその爪は月球による浸食の餌食になる。こいつの爪の部分には硬い希少金属を使ってみたが、それでももって数秒だろう。
ヨワネ様に跨り、その胸に『抽出器』を突き立てる。ナカバを見ると、何が起きようとしているか悟った顔だ、その目は泳ぎ、動揺を隠せないでいる。飛び級様を見ると強く右腕を振り下ろす所作をされている、私に『迷わずやれ』と言っておられるのだ。
深く息を吸い、覚悟を決めた。ずぶりと肉を突きさす感触が腕に伝わり、直後ヨワネであるエクス嬢の体が跳ね上がる。ナカバが必死に押さえつけているが、体の重さが足りないのだ。
金属の爪で突き刺されて痛くないわけがない。こんな所業、不敬で済むわけがない、永久に許されない罪だ。ああ、誰でもいい、今すぐ私を殺して欲しい。そんな感情に浸食されながら、私は持ち手の部分にあるレバーを引き絞る。
がちりと爪がヨワネ様の月球を掴んだ。落ち着け、垂直に引き抜いてエクス嬢の腹の上に落とすだけだ、それだけだ。
『抽出器』を持ち上げる、ずるずると生々しい感触が腕に伝わり、最後にちゅぽんと抜けた、その瞬間、私は後ろにバランスを崩してしまい、掴んでいた爪は一瞬で蒸発、そして月球は宙に浮いた。
「あっ」
私の間抜けな声が出た。だがその時、仰け反っていたエクス嬢の体が糸の切れた人形のように崩れ落ちてくれたお陰で月球は胸ではなく首の横に落下し、エクス嬢の後ろ髪に受け止められた。
私とナカバは、おそるおそるエクス嬢の傍から離れた。気が動転している、この後どうするのであったか。
そうだ、エクス嬢の手に月球を移すのだ。本来は腹の上に落としてそこから手の平に転がして移す段取りだったのだが、こうなってしまってはエクス嬢の頭を持ち上げて髪の上から手の上へ移す事になるだろう。
こういう繊細な作業はナカバの方が良いだろう。その手順をナカバに指示すると、私は『抽出器』だった鉄の棒の先を見た。爪はもう使い物にならないくらい削られていた。
本来の『対処B』の趣旨は、『とにかくエクス嬢の体の復旧を最優先する』というものである。実際、不器用な土人形を復旧させるメリットはほぼ無いし、作り直した方が早いからだ。
ヨワネ様の月球でエクス嬢の体がうまく動かない以上は、飛び級様の月球をエクス嬢の体に戻さねばならないのだが、『抽出器』を失った今、どうすれば良いのか。
私が頭を抱えていると、飛び級様は横たわるエクス嬢の体に御自身の土人形の体を重ねて見せた。見ると、互いの胸の穴の位置がぴったりと重なっていた。
意図が読めてしまった。飛び級様はこの状態で御自身を『バラせ』と言っているのだ。この状態で土の体が崩壊すれば、自然と月球はエクス嬢の胸の穴に落ち、移動が完了すると踏んで。
なんて事だ、私にその罪も犯せと言われるのか。見ると、ナカバはヨワネの月球をエクス嬢の指ごと握り締め震えている。彼女の心も限界だった。
私は本棚まで走ると、そのままウワンを蹴飛ばした。ぼーっとしているウワンの頭を掴み、耳元で今起きている状況を囁く。ウワンの顔がみるみる真っ青になっていく。
「僕に、飛び級様の体を握り潰せというのかい?」
「やあ、おめでとう、ウワン。君の怪力が役に立つ時が来ましたよ!」
「ウワン、かっこいい、あこがれちゃうわ! 尊敬しちゃうわ!」
ウワンは許してくださいオーラを放つが、私とナカバが許すわけはない、絶対に。
ウワンはエクス嬢と土人形の上に馬乗りになると、土人形の背中、人でいうと肩甲骨の辺りを両手で掴み、指に力を込めていく。ここを引きちぎれば、飛び級様の月球を支えている部位の大半が無くなり、エクス嬢の胸の穴に吸い込まれて行くはずである。
ウワンは指が食い込んだのと確認すると今度は左右に引っ張り始めた。すると、土でできているはずの飛び級様の体からぶちぶちと繊維が切れる音がし始める。
「その調子です、ウワン」
「調子じゃない! ああ、お許しください、お許しください!」
ばつんという音がしてウワンの両腕は一気に左右に開かれた。その両手からは土がこぼれ落ちていく。
エクス嬢は一度仰け反った後、ぐいと上半身を起こした。そしてウワンと顔が向かい合い、目が合った。ウワンの目には涙が溢れていた。
「僕に、僕に罰をお与えください、飛び級様――」
飛び級様は子供のように泣き出したウワンを抱き抱えた。二人の間からはただの土に戻った土人形の残骸がぼろぼろとこぼれ落ちていった。
「え? おかしいですわ!」
「ぁあ? それはないでしょう、ウワン!」
なんだこの美味しいとこ取りは、決して許されるものではない。だが、その時既に飛び級様にはちゃんとしたお考えがあったのだ。
「なあカチク、防御魔法――」
「残念ながら打ち止めです」
「なあナカバ、せめて僕の前に机とかをだな――」
「破片が飛んだりしたら逆に危険ですわね」
今、土の絨毯の上には新しい『土人形三号』が横たわっており、我々はその前で縦一列に並んでいる。三号、ウワン、私、ナカバ、飛び級様、壁の順だ。
そして飛び級様は右手にヨワネ様の月球を握り、今まさに三号に向かって放り投げようとしていた。
飛び級様はちゃんとウワンに罰をお与えになったのだ、『肉の壁』としての罰を。
そして閃光と共にズンとLABO全体が揺れ、四人は仲良く部屋の中を転がったのだった。
―――
外はすっかり陽が落ちていた。
LABOには窓が無いため、時間の感覚が狂ってしまうようだ。今、私はいつもの小綺麗な部屋に戻り、わら半紙に今日の実験の結果を書き留めている。
・インターフェイスを体から外しても体は維持される。
・インターフェイスの交換でもお互いの体は維持される。
・インターフェイスで体を新造すると元の体は灰になる。
・体が物理的に破壊された場合、体は灰にならず元の材料に戻る。
・体を新造すると閃光と爆発が発生する。
・爆発の威力は恐らく体の体積の二乗に比例している。
・インターフェイスの交換では爆発は起きない。
・インターフェイスの交換ではお互いの体の間に雷の帯が発生する。
ここまでは良い、気になるのが次の二つだ。
・インターフェイスは有機物より無機物を操作する方が適している。
・インターフェイスと体の間には相性が存在し、エラーも起きる。
土人形に移った際のしっくり加減は素晴らしいものだった。そもそもインターフェイスは魔改造された機械生命体の卵だったはずなので、無機物と相性が良いのは至極当然の話ではあったのだ。
そして、問題はジョーが何故あのような状態になったのかだ。
単純に相性なのか、それとも無機物の体に慣れてしまうと、有機物の体の操作で問題が起きてしまうようになるのか。
インジケータを見れば異常が正常かがすぐ分かるのは有難いが、この件は今後も継続して調べていく必要があるだろう。
それから、ジョーはあの後、三号の体で元気に動き回っていた。特に後遺症は無いようなので安心したが、彼女はあの時何が起きていたのかについては一切教えてくれない。
ただ一言、「ドッキリシタ」と言っただけだった。
だが、ジョーはやはり何としてもこのエクスの体に戻りたいらしい。それは当然そうだろう、彼女はこの世界の正規の住人だし、なにより傍に仲間達が居る。土人形でいる理由なんてどこにもないのだ。
私はその逆で、非正規の居候、孤独の身だ。仲間や社会が無いと生きていけない生物の体は不利でしかなく、土や木、金属の体の方が確実に都合が良い。
つい昨日までは、新しい死体を手に入れて、体をジョーに返すのが目標だったが、明日からは相性問題を解決しつつ、私用の強い(重要)人工の体を建造するのが目標だ。
ふと振り向くと、三号のジョーがベッドの上で待っていた。私はベッドに入ると、ジョーとインターフェイスを交換した。
実はこの三号の左腕にはスプーンが埋め込まれている。三号を作った時、あらかじめ埋め込んでおいてから新造したのだ。すると、やはり体の一部として認識されるようで、コアで削られる事のない無敵のスプーンになったのだ。
つまり、もうあんなへんな器具が無くとも、三号の力だけでインターフェイスをほじくり出せるようになったのだ。
その結果、これからは夜にお互いを交換し、それぞれの『練習』をする事にしたのだ。
ジョーは相性を克服して体を動かす練習、ようはリハビリだ。
私は、サーチライトの練習と、その他の便利機能の発掘だ。
エラーが出た状態で朝までジョーを放置して大丈夫なのかが気掛かりだが、本人が大丈夫と言う以上、やらせてみるしかない。
結局私はその晩、ジョーが気になって仕方がなく、殆ど練習ができなかった。




