表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゴーレムの仕様書  作者: suzuki
1/51

おっさんとの出会い

参ったなぁと執行官は頭を掻いている。


彼の机の前に立つ私には「未然の罪」が宣告されていた。

別に罪を犯した訳ではないが、将来的に確実と予測されるので事前に排除するという事だった。


それでこの執行官は私の収容先を探してくれていたのだが、全て丁重に断られてしまったのだ。

彼は予備の収容先リストを取り寄せるので少し待ってくれと言い、机の上のボタンを押下した。

少しの間手持ち無沙汰になった彼は、予備が出てくる筈の扉を眺めながら私に話しかけてきた。


「引き継ぎは大変でしたか?」


「優秀な予備が来ましたので、さほど。」

「それは結構な事です、ご家族は?」


「数年前から予備です。」

「ああ、お察しします。」


お察しも何も、「犯罪因子」は遺伝子から特定される。

この親にしてこの子ありというやつで、親族の誰かに犯罪因子が出た場合の一族掃討は常識だ。

私は後天的な犯罪抑制プロトコルのサンプルとして、データ収集期間分だけ長生きしただけだ。


なお、一族掃討になったとしても戸籍に変化はない、予備が来てすぐに代わりを務めるからだ。

世界がこの画期的なシステムに移行してからは、事故や病気、飢えでの死は存在しなくなった。

クローン技術などではなく、人口の上限百万人の枠を優秀な人材で順次置き換える制度なのだ。

今回は僻地で優秀な遺伝子配列の群れが見つかったので私の一族と入れ替えただけに過ぎない。


「未然の罪」だの「犯罪因子」だのは総入れ替えするときの方便としてよく使われる手だった。

私の一族も昔そうやって丸ごと交代したクチだから、今回の交代も正直仕方ないと思っている。

私の予備には今後向精神薬での人格矯正が始まるが、折角の機会だから頑張って耐えて欲しい。


そうこうしているうちに扉の奥から、手押しのワゴンが滑り出して来た。

ワゴンに積まれた予備のリストの山が執行官のデスク上に雪崩れ込むと、彼は私を手招きした。


「では、お好きなのをひとつ。」


言いたい事は分かる、これらは慢性化する収容先不足の切り札として集められた善意のリスト。

性善説の下に、その提供者、組織、動機、背景、全て一切合切詮索も把握もしていない代物だ。

とんでもない地雷が混ざっていてもおかしくない、誰も責任を取れないし取りたくないだろう。

私としては収容先を自分で選ぶのは賛成だ、玉石混淆であれば当たりを引く可能性だってある。


「では、これでお願いします。」


私が「自称」クラス3の収容先のひとつを指差すと、執行官は目を逸らし口元を片手で隠した。

詮索も把握もしていないとはいっても、それは御上での話で現場は色々と知っているのだろう。

はずれか?いや、この反応なら私にとっては当たりの筈だ、私は世間とは少々ズレた質なので。


執行官が収容先の諸元を入力するのを見届けた後、私はチャージされた執行台の中央に立った。

処置方法は圧殺を選択、親が処置された時の豪快な散りっぷりを見て私もコレだと思ったのだ。

なお圧殺といっても握り潰すタイプではない、頭上から鉄球が降ってくるタイプの圧殺である。

執行台とは、トマトピューレを製造しつつ二一グラムの魂を収容先に送り届ける送信機なのだ。


いくら囚人の収容コストを減らすためとはいえ、よくもまぁこんな儀式を制度化できたものだ。


そう思った刹那ぐるりと視界が横転した、潰された時の勢いで首が横に飛んでしまったようだ。

姿勢が悪く背骨が曲がっている個体では稀にこういう事が起こるとは聞いたが、まさか私とは。

社会見学の時、綺麗に潰れないと掃除が大変だと清掃員が話していたのを走馬燈で思い出した。

私は人生の最後、清掃員にごめんなさいと言った。首だけなので声は出ないが。


それで、私は今ちょっと面白い事になっている-意識があるのだ、夢よりは鮮明に。


私は真っ暗な空間に浮かび立っていた、私の眼は見えていて眼下に巨大な青い球が輝いている。

その青い球からは3本の巨大な光の筋-河が流れ出ており、遥か那由他の彼方まで伸びていた。

河の光は小さな光点の集まりで、水族館で見る回遊魚の群れのようにキラキラと煌めいていた。

そしてその光点のひとつひとつが私と同じ存在-魂だと気付くのにそう時間は掛からなかった。


ただ、私は彼らからは遠く離れて立って居た、彼らが作る河を広く見渡せるくらいには遠くに。

それは、つまり-


その時、おっさんが此方に走ってくるのが見えた。


漆黒の空間を幽霊のようにスーっと来るのだが、足は有るし、走っているつもりのようだった。

せめて、歩幅と移動距離は合わせて欲しかった、私はこういう細かい事が気になるクチなのだ。


「ここにおったんか。」


そのおっさんは私の目の前まで来ると、肩で息をしながらそう言った。呼吸が必要なのかココ。

なお、おっさんとは言ったが正確な見た目は栗色の髪を肩まで伸ばした大層美しい少女である。

ただ、その存在感は正におっさんである、おばさんですらない、まごう事なきおっさんである。

私は騙されない、この恐らくは死後の世界において見た目は信用してはいけない、間違いない。


「そやで。」

おっさんは肯定した、この瞬間おっさんが確定した。


「ちがうで。」

今度は否定した、どっちなのか、さては第三のジェンダーか。


「まてまて、いっぺん落ち着こ。」

その通り、まずはお前が落ち着いて要点を整理してから語れ。


「まず、『そやで』ってのはお前はんのお察しについてや。」

「お前はんは河の流れの外におるやろ、つまりボッチもとい皆と違うとこ逝くっちゅう話や。」

「ほんで、『ちがうで』ってのはおっさん疑惑についてや。」


つまり、おっさんは私の水先案内人という事だった。


「そういうこっちゃ。」

やはり、おっさんか。


「うがぁああ」


挿絵(By みてみん)


おっさんは吠えて、あぁぁああ面倒くさいわこいつという顔をしだした。


私はからかったお詫びとして、収容所に着くまでの間おっさんの話に着き合ってやる事にした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ