強悪強善
主人公の名前は必ず二文字という法則が自分にはあります。
多分、すぐに名前を憶えて欲しいからだと思います。
「ミーアちゃん、待ちましたか~?」
「うん。待った」
天使をフルボッコにしてから早半年が過ぎた。
今日も二人で待ち合わせをして、気ままに過ごそうかとしていたある日のこと。
「も~、そこは『今来たとこだよ』って言わないと~」
「いや、実際待ったし。アンタ五分の遅刻よ……って、あれ?」
ミーアはユニの異変に気付いた。なんだかユニのお腹がポッコリと膨れている。
「実は私、ミーアちゃんの子供を孕んでしまいました。想像だけで」
「えええぇぇ~~!! まさかの想像妊娠!?」
「名前ももう決めているんですよ。二人の名前を取って、女の子なら『ユニミーア』。男の子なら『ミーアユニ』」
「安直すぎる!!」
ユニのよくわからないボケを捌きつつ、ミーアはユニに掴みかかった。
「バカなことやってんじゃないわよ! どうせお腹に何か詰めてるんでしょ!? 出しなさい!」
「いやぁ! 昼間からエッチなことをするつもりですか!? 盛りのついた動物のように!」
「盛ってんのはアンタでしょうが!?」
ミーアは強引に、ユニのお腹に入っている詰め物を引きずり出した。
中に入っていた物は――
「オギャー、オギャー」
「!?」
それは、赤ん坊…………の人形だった。音声付きである。
だが、ミーアはよほど驚いたのか、固まっていた。
「ねぇユニ、割と本気でビビったから、ごはん奢って……」
「はい♪」
二人は早めに昼食を取ることになった。
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「あ、すいません。私、手持ちが1000カオスしかありません。500カオスの食べ物にしてください」
「ん、別にいいけど、家に全部置いてきたの?」
「家にもありませんよ。確かこれで全部です」
「……え?」
よく意味がわからないミーアは、さらに追及する。
「いやいや、アンタ天使から2億以上巻き上げたでしょ」
「誤解されそうな言い方しないでください!……あのお金はもう使ってしまいました」
ミーアの目がまん丸になった。
「使った? 二億を?」
「はい」
「半年で?」
「はい」
ミーアがワナワナと震え出す。
「えええええぇぇぇ~~~!! な、なんで? 何に使ったの!?」
「いやぁ、未払いだったものや、ちょっと借金してたのとかありまして……あとは家の家具を買ったり、困った人に買ってあげたり」
ミーアは開いた口が塞がらなかった。しかし、何かを決意したかのように、キリッと表情を強張らせる。
「ユニ、やっぱアンタは天使狩りを専門にした方がいいわ」
「天使狩り……ですか?」
ユニはキョトンとした顔で小首を傾げた。
「そう、アンタは基本的に誰であろうと酷いことができない。だけど、ゼルエルみたいに自分の欲望のためだけに悪魔を殺そうとする天使が現れたら、アンタがそいつ等と戦うのよ」
「私が……?」
「そう、ってか、アンタにしかできないことよ。普通の悪魔は、天使の使う魔法が弱点だから」
ミーアは真面目に、ユニを真っすぐに見つめて話す。それは、ユニのことを真剣に想ってのことだろう。それはユニにも伝わったようで……
「わかりました。確かにそれが一番私に合っているかもしれませんね」
と、そう答えた。
「よし! それじゃ、アンタはそのことを他の悪魔に伝えて宣伝しておくのよ?」
「はい!……それで、この後の予定なんですけど」
「あ~、パス! 私やることができたから。しばらくの間、アンタんちにも顔出さないから、よろしくね」
それを聞いたユニは、顔面蒼白になる。
「えぇ~! ミーアちゃんどこに行くんですか!? 私もお供します!」
そう言ってミーアに引っ付こうとする。だが、ミーアが軽やかに避けたためにビターンと地面にへばり付いた。
「アンタは付いてこなくていいの! いい? 私がいない間に餓死するんじゃないわよ! 何がなんでも生き延びなさい!」
そう言って飛び立とうとするミーアだが、地面にへばり付いたユニはカサコソと地面を這ってミーアの足首に絡みついてきた。
「ミーアちゃんがいないと、私それだけで酸欠になってしまいます~」
「私はアンタの酸素か! 私がいなくとも生きていけるようにミーア離れしなさい!」
足を振ってポーンとユニを投げ飛ばすと、ミーアはそのまま飛んで行ってしまった。
――そしてその日から、ミーアはユニの前から姿を消した。
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「で、何やってんだ? ユニお嬢」
「ここを通る人を脅かすために隠れてるんです」
ユニは街道の茂みに隠れながらそう答えた。その後ろから不思議そうに見つめるのはカジカ。以前、天使と共闘して悪魔を殺そうと、武器と部下を集めた武装集団のまとめ役だったが、ユニの魅力に引かれて今ではお友達状態である。
「カジカさんも隠れてください! 通る人に見つかってしまいます」
そこへ通りすがりの人間が歩いてきた。すかさずユニは茂みから飛び出して大声を上げた。
「わっ!」
「うわっ! ビックリした! なんだよ子供のいたずらか……」
通りすがりの男はそのまま立ち去って行った。
「作戦成功です! さっそく精算してみましょう」
ポンッ!
『ユニは10カオスを手に入れた』
「やりました! これで50カオス貯まったので、チョコレートに変換できます! 今日の晩御飯ゲットです!」
そんな喜ぶユニに、カジカは呆れていた。
「ユニお嬢……お金がないならミアお嬢に相談して手伝ってもらえばいいんじゃねぇか?」
その言葉を聞いた瞬間、ユニの動きがピタリと止まった。そしてガタガタと震え出す。
「ミ、ミーアちゃんは……どっかに行っちゃって……わ、私、捨てられて……ふえぇ~ん!」
そして泣き出してしまった。
「おわっ、泣くなって! なんだ? ケンカでもしたのか?」
「そうじゃありませんけど……ぐすっ、多分、私がいっつも変なこと言って困らせるから、愛想が尽きたんです……ふぇ……」
「そんな風には見えなかったがなぁ……よし! なら、ミアお嬢がいない間は俺がユニお嬢を手伝ってやるよ」
カジカの助け舟に、口をへの字にしたユニはようやく顔を上げた。
「うぅ……ありがとうございます。でも、手伝うってどうするんですか?」
「そうだな……よし! お嬢、俺を踏んづけてくれ!」
「えぇ!?」
唐突なカジカの作戦に、ユニは戸惑いを隠せない。
「悪魔ってやつは、人間に嫌がらせをしてカオスってのを貯めるんだろ? だったらよ、俺を踏んづけてカオスを稼げばいい」
「そ、そんなことできません! カジカさんはお友達ですから……」
「へっ! だからこそユニお嬢の役に立ちたいのさ……それに、ユニお嬢に何かあったらミアお嬢が戻って来たときに申し訳が立たねぇ」
ビシッとカジカは胸を張る。俺を頼れと、遠慮はするなと、その堂々とした態度は物語っていた。
ユニはそんな彼の言葉に甘えることにした。
「わかりました。では、失礼します……」
恐る恐る、跪くカジカの後頭部に足の乗せる。
「さぁ! そのまま踏みつけるんだ!」
「は、はい!」
「もっと強く! 地面に押し付けるように!」
「こ、こうですか!」
「よし! そこで抉るように足を動かすんだ! こう、グリグリと……」
「あ、あの、カジカさん……」
ユニはふと思うことがあって、足の動きを止めた。
「む? どうした?」
「全然カオスが貯まらないんですけど、もしかして喜んでませんか?」
少しだけ沈黙するカジカ。
「そ、そんなことねぇよ!」
「今の間はなんなんですか!?」
信頼が疑惑に変わった瞬間であった。
「ほ、ほんとだって! 信じてくれ!」
ガバッと、カジカは勢いよく顔を上げた。
ユニの足が頭に乗っている状態で顔を上げたのだ。丈の短いドレスの中をカジカは垣間見た。
「あ、黒……」
そう、自然と声を漏らしていた。
その瞬間、ユニの顔はみるみるうちに赤くなっていく。
「あ……あぁ……」
「ち、違うんだ! 見てねぇよ!? 空がそろそろ黒くなってきたなぁって言っただけで……」
「ミ……ミ……ミーアちゃんにも見せたことないのにぃ~!!」
バコーン! と、カジカは思い切り蹴っ飛ばされて、宙に舞い上がった。
それでもカオスは一切、貯まらなかったという……




