遏悪揚善
1カオス=1円と思っていただければいいかと。
「ミーアちゃん、カッコよすぎです……こんなの惚れてしまいます……もう、ミーアちゃんのお嫁さんになるしかありません……ぐすっ」
「いや、それは女子としてどうなのよ……?」
未だ鼻をすすりながらユニとミーアはカオスを貯める方法を探すために人間の多い所まで飛んできた。
さてどうしようかと周りを見渡していると、ユニが突如大声を上げた。
「あそこの川を見てください! 女の子が溺れています!!」
「あら本当。でも川岸から近いし、すぐに上がって来れそうね」
ユニとは正反対に、ミーアは冷静に分析する。
「あの子をどうしてやろうかしら? 川を水増しにして慌てさせる? それとも水中に引きずり込んで思う存分怖がらせてやろうかしら?」
舌なめずりをしながらいろんな方法を模索するミーアであったが……
「早く助けないと!!」
「って、助けるんかーい!」
すでにユニは女の子の救助に向かっていた。
素早く救い上げ、お姫様抱っこの状態でパタパタと羽をばたつかせて空中に飛び上がる。
「あ、ありがとうお姉ちゃん……って、悪魔!?」
女の子はユニの正体に気付くとギョッとした表情を浮かべた。
「大丈夫ですよ~。私は何も悪いことはしません。あなたを助けるために来ただけです」
「ほ、本当……?」
半信半疑といった具合の少女に、ミーアは耳元で囁いた。
「悪魔に触れられた部分は呪いがかかるのよ。放っておくと激しい痛みでのたうち回ることになるわ」
「ひぎゃあああああああぁぁ離してえええええええぇぇ」
デタラメなことを吹き込んだことで、少女はジタバタと暴れ出した。
「ミーアちゃんてきとうなこと言わないでください! 大丈夫ですよ、呪いなんてかけてませんから! まぁ本当に呪われたら地獄の苦しみですけどね、ウフフ」
「うわあああああああああああああん」
もはや正気を失った少女は泣き叫び、暴れるばかりだ。
そんな少女を支えられず、ユニは再び川へ向かって墜落していった。
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「ミーアちゃんのせいで大変な目に合いました……」
「とどめの殺し文句はナイスだったわ!」
ビシッと親指を立てるミーアをジト目で見るユニであった。
「ほら、今の女の子を怖がらせたお陰でカオスが貯まったじゃない。精算してみたら?」
気を取り直して、言われた通りにユニはカオスを精算することにした。
ポコッ!
『ユニは1200カオスを手に入れた!』
「わわっ! すごい大金が手に入りました!」
「いや、別に大金じゃないし……まぁ、今までの10カオスをチリ積もしてた時と比べれば大分ましだけどさ」
目を輝かせるユニにため息をはくミーアだったが、まだ日は高いと狩りを続行した。
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「あ、見てごらんユニ。人間が盗みを働いてるわ」
見ると市場のような場所で、一人の人間が全力疾走で逃げようとしていた。
周りからは「誰か捕まえて!」と叫ぶ声も聞こえる。
「ん~、あいつを利用してカオスを稼ぐのは難しいなぁ……」
悩むミーアだったが――
「急いで捕まえないと!!」
「ですよね~……」
すでに突撃をかけているユニに、うん、知ってた。と半分諦めている自分に気付くミーアであった。
結局、ユニはあっさりと泥棒を捕まえて抑え込んでいた。
盗みを働いた男は、「なぜ悪魔が俺の邪魔をする!?」と戸惑っている。そこにミーアがまたしても耳打ちをした。
「アンタが盗みを行ったのは私達が魔法でそう命令したからさ。アンタは私達のためによく働いてくれたよ。ケッケッケ!」
すると男はハッとしたように目を見開いた。
「なんだって!? そうか! 俺がこんなことをしたのはお前らに操られていたのか!? くっそ~悪魔とはなんて恐ろしい種族なんだ!!」
まんまとミーアの口車に乗せられていた。
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『ユニは700カオスを手に入れた!』
「またまた大金です! ミーアちゃんと一緒に人助けをすると、すごく儲かりますね♪」
などと、目的をはき違えているのではないかと思う発現を口にするユニであったが、もはやミーアは気にしなかった。
もう少し儲けられないかと、ミーアは思案しながら周りを見渡す。すると――
「うわあ~、荷車から荷物が崩れたぞ~。人が下敷きになった~」
そんな声が聞こえて来た。
「大変! ユニ、急いで助けに行くわよ!」
そんなミーアの言葉にユニは目を輝かせた。
「私、嬉しいです! ミーアちゃんが進んで人助けをしようって言ってくれるなんて! 感動しました!」
「うん、感動してるところ悪いんだけど、どうせそういう展開になるだろうし、ツッコむの面倒くさいから、最初からそういう流れにしようかなって思っただけだからね……」
結局はそんなツッコミを入れているミーアだった。
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「いやぁ、力を貸してくれてありがとう! 悪魔も人間のために動いてくれるんだね」
二人の協力で、(ミーアはほとんど何もしなかったが)迅速に救助できたために多くの人間が頭を下げて来た。そこにミーアは悪い笑みを浮かべながら当然のように嘘を付く。
「はぁ? もしかしてタダで助けてもらえたとでも思ってんの? 明日にでも、ここにいる全員の寿命を半分は貰いに行くから、覚悟しておきなさい! クックック!」
そんなセリフにその場の全員が青ざめた。
「寿命の半分!? うわあ~それだけは勘弁してくれ~」
その場の人間は散り散りになって逃げていく。
そんな様子をユニは呆然と見つめていた。
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『ユニは3800カオスを手に入れた!』
「す、凄いです……今日一日で、1万カオスくらいは貯まりましたよ?」
「いや、普通にやってたらそれの4、5倍くらいは貯まるんだけど……まぁいいか」
キャッキャとはしゃぐユニを見て、ミーアは小さく笑った。
「これだけの大金があれば……」
ブツブツと何かを呟くユニが気になり、質問をしてみた。
「どうしたのユニ。もしかして何か欲しい物でもあんの?」
「いえ、これだけあれば、貧しい子供達に何か買ってあげられるかと思いまして~……」
「 貧 し い の は お 前 だ ~ !!」
この時のミーアは知る由もないだろう。この長い人生のほとんどを、ユニのツッコミに使うほどに長い付き合いになるということを。
これは、人間に酷いことができない悪魔と、その少女にツッコミを入れ続ける悪魔の苦労譚である!