愛と呪い
ところで皆さんは幽霊の存在とか信じますか?
私は信じています。昔見たことがありますから。
けれど、見たことあるのが一回なので声を高く見ましたと言えません。
そこでふと考えついたんです。これらはどういった経緯でこのよに残っているのか?
それははたして私たちの想像の余地に収まる出来事だったのか。
ホラーって奥が深いですね。
一本の蝋燭に火を灯す
目の前で小さな火が風に吹かれ踊るようにゆらぐ
私はその火の下で手紙を書き始める
最愛の恋人宛に一文字一文字思いを込めながら
けれど分かっているこの手紙はその人に届かない
しかしこれを書くことは私の中の罪を洗い流す唯一の方法なのだ
そう私の罪、私は自らの手で恋人を殺した。
彼女は勇敢で強く気高い心を持っていた
容姿は淡麗でなかったがその美しさに私は陶酔していた
戦争はそんな彼女を姿ごとすべて変えた
彼女を迎えに行った時それは人の形をしていなかった
乳房は焼かれ爛れており衣服は小便の臭いを漂わせていた
白かった歯は抜かれ何度も交わしたその舌はちぎれていて言葉が聞き取れない
目は1つしかなくその目も白く濁り、彼女の燐とした鼻は削がれていた
腕は一本残っていたが焼かれており指は全て異なる拷問のあとで変形している
足はかろうじて残っているが足首の先は両方ともなくなっていた
捕虜が逃げないようにする常套手段だが切られたのではなく引きちぎられていた
彼女はきっと最後まで抵抗したのだろう。
しかし、私はそんな彼女を見て悲鳴を上げてしまった。
なんとか救い出したが国は彼女を受け入れたがらなかった。
戦の英雄が途端に化け物扱いになった
王は彼女の処刑を言い渡した
もちろん私は抵抗したしかしそれは無駄な抵抗に終わった。
処刑の前日私は彼女を救い出した
私にはそれしかできなかった追ってをなんとかやり過ごし
森の中に逃げ込んだ。彼女と秘密で会う時に使っていた小屋
思い出があふれたその小屋に逃げ込む
腕に彼女を抱きしめながら息を殺していると彼女は私に言った
「あ…い…し…て…」
私はなんとかそれを聞き取ったが白く濁る目を直視できなかった
もう昔のように彼女を愛せなくなっていた。
「すまない、できない」
そう答えると彼女の目から涙が落ちたしかし彼女はおそらく笑ってた
爛れた口角を広げていたから私の勘違いでなければだが
彼女はそのあと何も言わなかった
その日の夜彼女はもう一度私に言った
「あ…い…し…て」
横になっている私に言うが聞こえないフリをした。
すると彼女は起き上がり私の上にまたがった
必死に抵抗した昔であれば抵抗をしても私は彼女に屈していただろう
しかし、一度の身の捩りで彼女は床に伏した
その時初めて彼女の嗚咽を聞いた初めて鳴き声を聞いた
炎で焼かれしゃがれた喉と舌のないその口からは風が通り抜けるような音が聞こえる
私は限界だった泣きながら懇願した
「すまない、もうダメだ私は昔のようにあなたを愛せない」
私がそう言うと彼女の涙が途端に止まった
見ると項垂れながらそのままピクリとも動かない
近づき体を揺するが反応すらしないまるで死体のようになっていた
怖くなった私は剣を持ちその小屋から出た
森の中は暗く何も見えなかったが今はそれがありがたかった
今は何も見たくなかった森の中を進んでいると小川の前に出た
喉も渇いていたしさっき汗をかいてしまったのでその川で流そうと川縁に近づくと
そこに女がいた、いや、今になって思うとあれはそもそも人だったのだろうか
美しい女だった、しかしどこか彼女に似ている
気がつくとその女に近づいていた
女はクスクスと笑いながら近づくと離れ離れると近づきまるで話に出てくる妖精のようだった、私はなんどかそのやり取りの末彼女を捕まえることができた
触れられる生身の体に私は貪りついた
彼女を慕って以来その行為を他の女性としたことはなかった。
それは彼女よりも何倍も何千倍も気持ち良く、私はそれを強く強く何度も何度も求めた
何回かその行為が終わるとその女は何かに気づきいなくなってしまった。
私も背後に気配を感じ振り向くとそこに彼女がいた
手には私の剣を抱いていた、私は彼女に殺されるのだと心を決めた
しかし、結果は彼女は己にその刃を突き立てた慌ててそれを引き抜くと彼女は腕を私の頬に当て笑いながら言った
「の…ろ…わ…れ…ろ」
彼女は最後の一言を残すと力がスッと抜けた
私はその亡骸を小屋に運び思い出ごとその小屋を棺桶に彼女ごと燃やした
目の前で火がうねりを上げながら轟音を上げ燃え上がる
ふと火の中に彼女の姿が見えた気がした白く濁る眼差しを私に向け叫んでいるようにさえ見えるそれに私は恐怖した燃え盛る火を見届けることなくその場を去った。
森の外に出ると小屋を燃やした火に呼ばれたのか王国の兵士たちがそこにはいた私はことの次第を王に話すと
「処刑は執行された森で火事があったが敵の雑兵が自殺ついでに燃やしたこの国では何も起こっていない」
そう宣言すると民衆はそれを聞き入れこの件は黙殺される事になった
しかし、私は罪の意識から王に頼んだ。
「私の罪が洗い流されるまで塔の中に49日間閉じ込めてください」
王はそれを承諾すると衛兵たちによって塔の中に私は閉じ込められた
三度の食事と伝えれば紙と筆が届けられるその塔の中で私は祈り続けた
いつしかこの塔が私の住処になった不思議な事に食事も水も必要のない体に私はなっていた紙と筆、インクは途切れることなく補充されるこの場所が私にとって心安らぐ唯一の居場所になっていた
しかし最近はどうにも落ち着けない見張りの兵達はどこに行ってしまったのか、今日も私は無粋な輩を追い払う塔を揺らし声を上げるとその者たちはみな出て行った。
今日もこの場所で手紙を書く届くことの無い手紙、読まれることの無い手紙、彼女の呪いを終わらせる為に彼女への手紙を書き続ける。
…マジなのか?この城に出るって
マジだよこの城のどっかの塔のてっぺんに昔なんかの罰で幽閉された奴がいて
そいつが書いた手紙を読むと呪われるんだってさ
え!何それ聞いてないんだけど!私帰るからね!
ここまで来てどうやって帰るんだ?歩いてふもとに降りるのか?
それじゃ車にいる!
1人で?そっちの方が怖いぞ〜噂じゃホームレスが住み着いてるからお前襲われるぞ
やめてよ!行けばいいんでしょ!行けば!
何そんな怒ってんだよ、っとここだこの上が例の。
うわぁ暗いね誰が先行く?
は?みんなで行くに決まってるでしょ?1人で行かせる気なの?
臆病だなコレだから女は…
それじゃ全員で行くか…崩れないよな?
大丈夫でしょ頑丈にできてるし。
よしそれじゃ行こう。
うう、怖いよ、手離さないでよね!!
離せないだろお前がしがみついてんだから!
2人は仲良いなー
どこがだよ!お、もうすぐ頂上だそろそろ離れろよ服伸びるだろう!
あんたの服なんかどうでもいいのよ!ったく
あれ、なんでここだけ明るいんだろ?
本当だ…なんでろうそくに火がついてるんだ?
これまだつけたばっかりだよほら、まだこんなに背がある
誰か今までここにいたってこと?でもあの階段で誰ともすれ違ってなんか
2人ともこれ見て!
何?紙?なんか書いてある手紙だ。
(最愛の人へ
君はいつになれば私を許してくれる?
いつになったらこの場所から解放してくれる?
いつになったら私を離してくれる?
ここで君に手紙を書き続けてからというモノ
君は変わらずその姿で僕の元にくるね
あの時僕が君を求めなかった事を怒ってるの?
仕方が無いじゃないか君はあの時すでに人じゃなかった
この世に一抹の未練を残した亡者を愛するなんてとても出来なかった
だから死後なら添い遂げられると思ってるんだろ?
それは違う僕はあの子と結婚したんだ、
だから君とは添い遂げられない
本当にごめんよ代わりになる人を見つけてくれ
この塔はなぜかたくさんの人が夜な夜な来る
そこから見つけるといい
君の最愛の人を
貴方を慕った愚か者より)
何これ?どういうこと!?
知らないよ!なんだよこれ!俺が前来た時こんなのなかったのに!!
2人とも静かに何か聞こえる。
おい!こんな時に冗談やめろよ!!
キャー!本当何かこっち来てる!!
なんだろう階段を何かがゆっくり上がってきてる
おい、おい!やばいよ早く出よう!
うわぁ!おい押すな!このバカ!
うるさい!連れてきたのあんたでしょ!
勝手に来たのはお前じゃん!!
もう遅いよ
は?お前何言って
だってもう彼女はここにいるよ
は?彼女って誰?
彼女だよ手紙に書かれた恋人ほら、見て彼女がこっちを見ながら言ってるよ
「あ…い…し…て」
参考文献
ジル・ド・レ・バレンタイン伝記
椅子人間
グリム童話 ラプンツェル
猿の右腕
(game)
スウィートホーム
AKIRA
アークザラッドⅡ