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愛について本気出して考えてみた

レイと仁志は二人で、事件の謎を考えていく。



「ラブレターが消えるっていうのは、そんなに弊害があるのかい」

 彼女の依頼を聞き終えて、私が最初に思ったことはそれで、そいつを遠慮もなく口にしたら畑中君は意味が分からないというような顔をしてみせた。

「君は告白を受けなくて良い。つき合うことが分からなくて、すべて断っているなら、手間が省けて良いように思えるんだけどね」

 犯人を見つけだして、そいつをたこ殴りにするというなら分かる。私に見つけ出せというのも頷ける。けど、そこまで恨みを持つようなことでもない。そして彼女の依頼は、復讐とは違うみたいだ。

「告白されますよ。しばらくすると急に呼び出されて、どうして返事をくれないんだって言われるんです。……結構傷つきますよ。悪気がないのに、人を傷つけてるっていうのは。だからその子には悪いけど、ちゃんと断って、止めさせたい」

 彼女はそう弱々しい笑いをみせたが、その表情には確かに苦悶の色が少し覗けた。自分を苦しめている犯人にまでここまで気をつかえるのか。人間としてすばらしい。

 なるほど。見た目だけでもててるわけじゃないみたいだ。

「そうかい。それはすまないことを言ったね」

「いえ、いいんです」

 しばらく何となく気まずい雰囲気が流れてしまった。これは私のミスだ。やっぱり思考がはっきりしてない。

「それはつまり畑中先輩には最近、一通もラブレターが届いてないってことですか」

 空気を入れ換えるべきだと思ったのか、適当なタイミングで仁志が質問をして、それに彼女はうんとうなずく。

「それでラブレターの返事をくれないと、告白した人から怒られて、困っている。それ以外、何か困っているかい」

「私がラブレターを無視し続けているって噂がたってます。そのせいで、もっと悪い噂もたってます。もちろん、根も葉もないんです。それを止めたいんです」

 彼女の場合、同性から訳もなく嫌われることが多々あるだろう。元々そういうのがあるのに、この事件。確かに彼女にとってはやめてほしいだろう。

「ちなみにラブレターはどこに届くんだい?」

「いつもはげた箱に入ってます。机の中にある時もありました。ただ、最近は机はないです。私がさすがにそれはやめてほしいって友達に漏らしたら、なくなりました」

「君の友達は随分とお喋りだね」

 ここで初めて彼女はふつうの笑顔を見せてくれた。

「そうですね。あの子たち、ちょっとお喋り過ぎます」


 5


「あのな、犯人がどういう人物かってことくらいなら、俺にだって分かってる」

 私の回答が不満だったのか、偉そうに仁志が腕を組んでそう声を張った。

「ほほう、偉く自信満々だねぇ。なら、言ってくれ。どういう人物だい?」

 ここでさらっと彼が真相を言ってくれれば先輩として実に嬉しいのだけど……。

「決まってるだろ。畑中先輩に告白したい奴さ」

 すごい自信をもって発言する彼の顔は、どうだと言わんばかりの天狗顔になっている。馬鹿にするな、と言いたいらしい。私としては期待はずれ。まあ、そこまで強い期待をしてたわけじゃないから別にいい。

「ふぅん。そうかい」

「おいおい、悔しがるなよ。カッコウの雛の話と一緒だよ。あいつらは一番最初に生まれた雛が、他のまだ生まれてない卵を巣から落として、親に一番可愛がられようとするんだ。だから、畑中先輩に告白したい奴が、他の奴らを蹴落としてるんだよ」

 長々と彼が鼻を伸ばしながら語る推理を私は何も言わずに黙って聞いていた。彼が語り終えた後も、何も言わず彼を見続けた。もちろん、その視線には馬鹿という気持ちをこめて。

「な、なんだよ」

「君の考えが非常に浅いっていうのはよく分かった」

 私の完全な皮肉を正面から受けとめた彼は顔を紅潮させて、怒り始めた。

「なんだよ。違うっていうのか」

「カッコウの雛の話をしてたね。じゃあ聞くが当の雛はどこにいるんだい?」

 彼の口撃をなかったことのように無視をして、質問をなげかけてやると彼は最初は私が何を言っているのか理解してなかった様子だったが、しばらくするとさっきまで赤かった顔が、少し青ざめた。自分の推理の穴を見つけたみたいだ。

「そう。雛が卵を落とすなら、巣には雛がいる。けど彼女は言っていたね。最近一通もラブレターをもらってないと。誰か畑中君に告白したいなら、自分のラブレターを残すだろ。けど犯人はそれさえしてないんだ。カッコウの雛の論理は通じない」

 私の指摘にしばらく呆然としていた仁志だが、すぐにはっとした顔になる。

「そういえば畑中先輩、ラブレターで呼び出されても誰もいないときがあったって言ってたよな。それじゃないか。告白する勇気はないけど、畑中先輩が誰かの告白を受け入れるかもしれないって恐怖から解放されたかったんだよ」

 思わずにやつきそうになる、別にバカにしてるわけじゃなく彼が一つ否定されたからといって諦めず、すぐに別の道筋を見つけだしてくれたことが、単純に嬉しかった。

「うん。筋は通ってそうだね。けど、どうして今なんだろ。彼女がもてていたのはずっとだ。どうして今更恐れだしたんだ? いやそもそも彼女は全て告白を断っていたんだ。そんな恐怖、感じる必要はあんまりないよね」

「そりゃあ、彼女の気持ちがいつ変わるか分からないから、だろう。それに今更なのは、最近彼女を知ったからじゃないか」

「君、一年生だね。彼女のこと、知らなかったかい?」

 仁志は非常にばつの悪そうな顔をした後、首を左右に振った。あの美貌だ、彼女は入学したときから学校の有名人。一年生だって知らないってことはない。

「けど、彼女の心変わりは否定できないよな?」

 そこだけが彼の推理で唯一、合っていそうなところだけに彼は期待のまなざしを向けて確認してくる。そうだねぇと答えてやると、小さくガッツポーズをした。

「けどね」

 私が言葉を続けようとすると、そのガッツポーズもすぐに崩れた。かわいい奴だ。

「理解できないとは思わないかい。今、ラブレターを隠している犯人は、いつ告白するつもりなんだろう? だって、もしもいつか告白をするまでラブレターを隠し続けたとして、いつかラブレターで告白すると、畑中君に自分が犯人だって、それこそ告白することになる。畑中君が、その告白を受けるかな」

 そういう可能性を全く考慮していなかった様で、仁志は情けなく口を小さくあけて、あっと声を出したまま固まった。やっぱり、まだまだだな。

「そもそもこんなことをしていること事態、彼女にばれたら嫌われるのは目に見えてる。そこまでしてラブレターを隠してどうする? 相手を減らすより、自分が嫌われる要素を作る方がまずいだろ。そもそもラブレターを隠しても、後で呼び出されてる。相手を減らすという計画自体、もうすでに失敗してるじゃないか」

 私が一気にまくし立てると、ここで生意気な茶髪の頭は限界を迎えたようで、頭を抑えながら何かよく聞き取れないうめき声を上げ始めた。彼が本当に悔しいときにだす声なので、いつも聞き流している。

「じゃあ、じゃあ一体、犯人は何がしたいんだよ」

 仁志がもう完全にオーバーヒートしていたので、ここで丁寧に黒板に今回の事件の事柄を大雑把なまとめたもの、箇条書きしていく。


 ①ラブレターが消えた。

 ②それにより悪い噂がたちはじめた。

 ③犯人の目的は相手を減らすことじゃない。

 ④今回、今になってラブレターを隠すのは不自然。

 ⑤犯人は失敗して嫌われると分かっていながら、犯行に及んでいる。

最後にかいた箇条書きで、解ける人は解けそうな謎です。

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