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ロマンがありあまる

学校で美少女と有名な生徒から、最近ラブレターが何者かに持ち去られていると相談を受ける。

 昨晩を共に過ごしたウォッカの強い影響力がずきずきと残る頭を必死に働かせて、彼女の話を聞き終えた私は、とにかく任せなさいという責任感の欠片もない生返事をして、不安そうな表情を浮かべ続けていた少女を帰した。

「あんた、ちゃんと話聞いてたか」

 その少女、畑中百合が出ていった後に静かになった教室で、先輩に対するリスペクトを欠いた質問を仁志が堂々としてくる。

「私が美少女の話を聞き流すわけないじゃないか。失敬な奴だ」

「畑中先輩が美少女じゃなけりゃ聞き流すのかよ」

「聞き流すことはないだろうけど、そこまで一所懸命にはなれないだろうね、残念なことに」

 教室の真ん中あたりで机に突っ伏したまま返答する私とは対照的に、立ったままの仁志は窓の外を見下ろしている。そんな彼は私の返事に盛大に、いやむしろ大げさにため息をついた。

「あんたは女だ。やる気を出すにしても、男にしてくれよ。同性愛者かと思われるぞ」

「イケメンももちろん好きだよ。ただ美女だっていいさ。私はどっちでも愛せる。博愛主義って奴だね」

 二日酔いの頭で持論をなめらかに言ってみせるけど、返ってきたのはさっきと変わらないため息だった。

「で、どうなんだよ」

「ひぃ君、私は三年、君は一年生。いい加減敬語を覚えることをお勧めするよ」

 彼がこの高校に入学してもう半年近く経つのに、未だに私に対して敬語を使わないのはいかがなものかと思ってこのことを何度も言ってるのだけど、彼の言い訳はいつも同じだ。

「今更変なことを言ってんじゃねぇ」

 私と仁志はなんと今年で六年の付き合いになる。だから今更という彼の意見は非常に頷ける。私としても本当に敬語で話されると、なんとなく寂しいだろう。つまり、言ってみただけだ。

 生徒指導にばれない程度の茶髪が、窓の近くにいて陽に直接当たるせいですごく目立っている。その髪をかきむしり、また質問してきた。

「畑中先輩の相談、受けたってことは動くんだろ?」

 さっきの美少女、二年生の畑中君。前々から知ってる人物ではあったけど、話すのは初めてだった。噂に違わぬ美人で、つい見ほれそうになった。

 私は一応、学校でよく厄介ごとを引き受け入れるとしてちょっと有名で、彼女もそんな噂を聞きつけて相談しにきた。

「動くといっても、今の話を聞いて大体の真相は分かるだろ?」

 私が相談を受けた直後なのに、こんなにのんきにしているのは相談を受けた段階である程度、先の展開がよめたからだ。

「ラブレターが消える。なかなか面白い事件ではあるよね」


 2


「実は、最近私の周りでおかしなことが起きるんです」

 あまりの美人さに学校の中では知らない生徒がいないと言われている、超のつく美少女の畑中百合は、その美貌に似合わない深刻さを漂わせていた。

「おかしなことが起こるってのは人生がロマンに満ちてる証拠だよ」

 空き教室の真ん中あたりで、机を引っ付けて私たちは向き合うように座っていた。私の横に座っていた仁志が肘でついて、黙っとけという意味合いをこめた視線を送ってくる。

 畑中は私の言葉など聞こえなかった様に話を進める。

「自慢になるかもしれませんけど、私、よくラブレターをもらいます」

「だろうね。私も送りたいくらい綺麗だよ、君は」

 さっきより強めの肘が私のわき腹を直撃する。

「けど私、つき合うとか、よく分からないので全部断るようにしてるんです。ラブレターをくれた男子には悪いけど」

「つき合うってことが分からないなら、よければ私が教えて上げようか。心身とも成長させてあげるよ」

 私のセクハラ発言に当の畑中君は笑い、隣の仁志が少し顔を赤らめて叱責してくる。

「いい加減に黙って聞け!」

「大声を出さないでくれ。頭に響く」

 仁志がいい加減に本気で怒りだしそうだったので、そろそろ黙らないといけない。私としては依頼者とコミュニケーションを取りたかっただけなのだけどね。けどまあ、下心がなかったとは言わない。少しくらいいいじゃないか。

「けど、随分と昭和チックだね。恋文なんて」

「恋文って言い方もかなり昭和くさいぞ、おばさん」

 私が仁志の足の甲を踵で踏みつけている間、畑中君が彼女が一年生のときに女友達との談笑で、私は告白されるなら口やメールより、紙のラブレターが良いと話したことがどこからか漏れてしまい、いつの間にか彼女に告白する男子は必ずラブレターを出すということになってしまったという説明をしてくれた。

「同じ人から何度もラブレターが来ることもありますし、いたずらなのか分かりませんけど、ラブレターに指示された場所に行っても誰もいないこともありました。そういうのが週に一度はあったんですけど、最近はなくなりました」

「もてなくなったって訳じゃないんだよね?」

 意地悪でも何でもなく、ただ可能性として口に出したが彼女は結構強めに首を左右に振って否定した。

「それはないみたいです。誰かは分かりませんけど、私のラブレターを私より先に見つけて、処分してるみたいです」

 彼女はそこで一旦黙り、まっすぐに私を見つめた。

「蓮見先輩、お願いです。犯人を突き止めて、その子のことをこっそり私に教えてください」


 3


「ロスト・ラブ・レター。ロマンに満ちすぎてるね」

 教室の前まで移動して、特別意味もないのに黒板に“Lost Love Letter”と書いてみる。ご丁寧に最後はハートマークをつけてやった。

「真相は分かってるって、あんたもう犯人が誰なのか分かってるのか」

 仁志が驚いたような声を出すので、私は少しばかり不機嫌になる。彼とは長いつきあいだ。私のこういう、なんというか探偵的能力に長けていることは知ってるはずで、早々に真相を見抜くのも別段珍しいことじゃない。

「一応、頭はそこそこに働く方だと自覚してるよ。あれ位ならお茶の子さいさいってやつだね。ああ、これはもう死語かな」

「じゃああんたはもう、犯人がどこの誰だか分かってるのか」

 今度は私がため息をつく番らしい。さっきのお返しに、これ以上ないほどのため息をついてみせた。少し大げさに表現したが、情けないという思いがしっかりある。

 私は仁志をこの半年、助手として側に置いてきた。おかげで大分助かっているが、彼にも少しは学習してほしい。彼は頭は悪くないけど、いかんせん柔軟性に欠けるところがあって、そこが難点だ。

「馬鹿なことを言わないでくれ。あれだけの話で犯人が特定できるはずないだろ。私は、犯人がどういう人物かということしか分かってない」

 仁志が首を傾げる。全く、本当に情けない。

「彼女の話を思い出してみなさい」

5年ほど書いてた短編です。

3〜4回の更新で終わると思います。

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