探索する異端者
ドラゴンとの戦いを繰り広げた地上――
昨日の戦いの跡は、ドラゴンの死体として残っていた。
何か大きいものの足跡と化したボロボロの家からは、一冊の本が顔を覗かしている。
――章輔は結界解除魔法書を見つけた!
「一回この辺りも調べた方がよさそうだな……このドラゴン、剥ぎ取りとかできないかな?そうだ、周りに敵がいないかどうか確認しないと」
「探索魔法っ!」
――ガイアは探索魔法を使った!
「大丈夫お兄ちゃん、その心配はなさそうだよ!」
弾むガイアの声。
章輔はひとまず安心し、胸をなでおろした。
ポケットに手を突っ込み、放り込んだ銃を握る。
「あ、また結界張ってある」
「ええ!? ここからも出られないってことか?」
「えーと……通れるみたいだけど……なんか特殊な作りになってて、『邪悪』の濃度が薄い限界の場所まで自動的に大きくなるようになってるみたい」
「つまり、もともと地下室の周りに張ってあった結界が、脱出してドラゴンを倒したことにより『邪悪』の濃度が薄まった……ってことか?」
自分で言ってて何を言っているのかあまりわからない章輔。つまり敵を倒せば安全地帯が増えると言う事と認識した。
「うーん、そんなところだろうけど実際やってみないとわかんない……結界の外に出て、モンスターを倒してみよっか」
「ええ、ちょっとまって怖い……またあれとかと戦うんですか……?」
章輔はガイアに向かって弱音を吐く。
章輔は思い出す。
前回なんてたまたまこっちの方が行動が速かっただけだ……あちらの一撃が入れば、それこそ一撃で……
足が震える。ようやく自分は異世界に来て、それこそ巨大なモンスターと戦わなければいけないとようやく気が付く。
章輔の体が寒くなり、背筋が凍る。歯を強く噛み、目をつぶる。
何の想像も浮かんでいなかった。
「くっ、やるしかないのか……でも、すっげえ怖い……」
「お兄ちゃん!」
ガイアの怒号が響く。
物音すらしないこの世界では――その声が遠くまで響いていった。
「私だって、怖いもん」
そりゃ、そうだよな。
「でも、あの家にずっといて引きこもっているだけで、いいの?」
「そんなわけ、ないだろ」
章輔は無理やりその声を絞り出した。
「だったら!」
ガイアは、俺の目を見つめて言う。
「お兄ちゃんが扉を開いたんだから、お兄ちゃんがしっかりして、よね」
そう言って、ガイアは笑った。
……そうだな。俺がうじうじしてちゃ何も始まらない。
彼女を連れだしたのは俺なのだ。俺が責任を持って彼女を導かなければならない。そう章輔は思った。
章輔は、広く広い空を見上げる。
「さて――西へ行くか、東へ行くか、南へ行くか、北へ行くか――行きたい所を選べ」
「お兄ちゃんが行きたい所っ!」
……そうか。
ガイアは章輔に手を伸ばし、二人はその手を固く握りしめる。
章輔は適当な方へ向かう。
「ちょっと寒いから……南の方へ行こうか」
「うん!」
南の方が温かいとは限らない。
でも、そんなことはどうでもよかった。
二人は結界を手をつなぎながら進んでいった。
***
結論から言ってみれば、その道中は余裕だったと言えよう。
無尽蔵に出てくるモンスター。それを超える二人(主にガイア)の力……
「お兄ちゃん!来るよ!」
――邪悪に呪われたゴブリンAが現れた!
――邪悪に呪われたゴブリンBが現れた!
――邪悪に呪われたゴブリンCが現れた!
――邪悪に呪われたゴブリンDが現れた!
――邪悪に呪われたゴブリンEが現れた!
――邪悪に呪われたドラゴンが現れた!
「神聖属性貫通分散射撃!」
章輔のはなった銃からあふれ出した光の矢は、現れた敵たちに突き刺さる。
――邪悪に呪われたゴブリンCは浄化されていった……
――邪悪に呪われたゴブリンDは浄化されていった……
――邪悪に呪われたゴブリンEは浄化されていった……
「神聖属性業火魔法!」
そして、ガイアの放った炎は残った敵を木々もろとも焼き尽くしていった。
――邪悪に呪われたゴブリンAは浄化されていった……
――邪悪に呪われたゴブリンBは浄化されていった……
――邪悪に呪われたドラゴンは浄化されていった……
「……ったく、こう多いとおちおち進むこともできないな……いったん休憩するか。ガイアちゃん、魔力供給を」
「はーい」
――祝福されし銃に魔力が供給される……
「いやはや、拍子抜けだなあ……雑魚しかいないから時間がかからないのがまだいいけど」
少し肌寒い森を体を温める事を兼ねながら、小走りで進んでいた章輔。その足をとめ、立ち止り振り返る。
「ちょっと休憩しよっか」
その辺の石に座り込む二人。
「……ファンネルとかで自動攻撃とかできねえかな」
「自動攻撃……うん、それいいかも」
――ガイアは反撃結界を張った!
――邪悪に呪われたドラゴンは浄化されていった……
「大丈夫かな? ちゃんと反撃できるかな……」
「たぶんものすごい勢いで周りの敵が減ってるよ……」
――邪悪に呪われたゴブリンは浄化されていった……
「そうなの?」
出現したことすらわかるまえに、抵抗する暇もなく周りのモンスターが倒れていく。
もしかして、ガイアちゃんにはこのシステムメッセージが見えないのかな?と章輔は考えた。
さして有用性は少ないな。敵が不意打ちしてきたときに便利ってだけだ。章輔は心の中でため息をつく。
「うーん、探索魔法……」
――ガイアは探索魔法を使った!
「うん、モンスターしか見つからないみたい。何もないよ……町も、家も、人も……」
かろうじて森は生きているが、モンスターの巣窟と化している。
ガイアの顔が悪くなってきたことに章輔が気づき、肩に手を乗せる。
「一回戻るか?」
「でも、何もわからないで帰るのも……跳躍魔法を使えばいつでも帰れるんだからもう少し……」
ガイアは大きく深呼吸し、自分のほっぺたを叩いた。
「無理はするな、明日だって探索はできるんだぞ」
章輔は肩に乗せていた手を頭に回し、ガイアをなでる。
ガイアはびくっとはねるが、目をつぶって手を胸に当てる。
「……うん、落着いた。確かにそうかも。それにちょっと頭が痛くなって……あっ」
最後の一言、気の抜けた声が出た。
「へ?」
章輔は一瞬何が起こったのか理解できず――
その時、ガイアが倒れた。
「……ガイアちゃん!」
章輔は何も行動できなかった事を悔いた。
彼女はまだ子供だ。こんなこと、想定していた良かったはずなのに――そんな、嘘だろ?
背中に冷や汗が垂れる。膚寒さが寒さに変わり、早くなった息が白く見えそうだった。
「大丈夫か!?いったん帰るぞ、跳躍魔法を……」
「お兄ちゃん……まずい、魔法使えない……」
「そ、そんな……」
章輔は左手に持っていた刀をそこらへんに投げ、銃をポケットに入れる。
そして、章輔はガイアをおんぶした。
「ねえ、お兄ちゃん……」
「どうしたガイアちゃん!? 畜生、どっちから来たっけ……」
「いい知らせと悪い知らせ、どっちが聞きたい?」
「そんなアメリカンジョーク言ってる場合か!?」
「アメリカンってなに……?」
「そんなこと言ってる場合か! ……でなんだ悪い知らせって!?」
「……ドラゴンが近くにいる」
黒い巨体が森を切り裂いて歩く音が聞こえる。
そしてそれは現れる。
――邪悪に呪われたドラゴンが現れた!
「……くっ、早く帰らなきゃならないのに」
とりあえず一体なら対処できる――まだましだと判断し、心を落ち着かせる。何体か続けて出たらさすがに対処できなくなる。
ガイアを背負いなおして、右手に銃を持つ章輔。
「……しっかり捕まってろよ、ガイアちゃん」
「うん。わかった……」
章輔とドラゴンの呼吸の音が聞こえる。
瞬きを何回もして手に力を込める章輔。
舌なめずりの音をさせるドラゴン。
「仲間を呼ばれたら困る……一撃できめないと、でも……一発じゃ……」
「それでいい知らせっていうのは……」
「ガイアちゃん、そんなことは後だ!」
汗が草の葉の上に落ちる。
章輔が右手の銃をドラゴンに向け――ドラゴンが身を起こした。
その刹那。
その時、ドラゴンの咆哮と共に――一陣の光が目の前を刺した。
――??は跳躍魔法を使った!
章輔は一歩後ろに下がる。
今度は瞬きもせずにその光を見つめていた。
「跳躍魔法!? つまりそれって……人か!?」
「いいしらせってのはね、魔法の効果が切れる寸前……人が、探索魔法に引っ掛かったの……」
そして、その光は人の形となる――
金色の髪が光になびく。
光が消えた時、目の前にいたのは――鎧を着た、一人の女の子の背中。
「すっげえ……異世界の人っぽい」
そんな能天気なことを言う章輔。
彼には何もできることはなかった。
女の子は一瞬にしてこう宣言する。
「発光魔法!」
――??は発光魔法を使った!
ドラゴンがたじろぐ。章輔は目の前を手でおおい、光から目をそらす。
女の子が振り返る。凛々しい金色の目をした彼女は、手を伸ばす。
「そこの二人とも――大丈夫か!? 何はともあれ逃げよう!」
章輔は一も二もなくその手を取った。
振り返った女の子は――いくつもの困難を乗り越えた顔をしていた。
「あなたは、一体……!」
「私の名前は――スウ・ユピテルだ!ともかく行くぞ!跳躍魔法!」
――スウは跳躍魔法を使った!
二回連続で跳躍魔法を使った所で終わりましたね……
新キャラ登場ーハーレムできるかなあ
ダメージ表記めんどくさいので消しました。
ヒロインの性格が決まりません、何回この話直しましたかね?
全話修正しなおしてたのでしばらく更新とまってましたね、今度こそ復活の予定