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扉と外

 二人はトイレにいる。

章輔はガイアちゃんに考察を話した。

「ここは、地下だ」

章輔はそう言ってトイレのドアを開く。

「地下?……ここはってどういうこと?」

ガイアはわけのわからないと言った顔をしながらトイレの中を覗きこむ。

章輔はトイレの中に入って天井を眺めた。

それから一人で頷きガイアの下へ振り返る。

「うーん、どこから話したものか……昨日、放射能のお話をしただろう?」

「う、うん」

「邪悪が放射能みたいなものと考えると……放射能の被害からさけるためには、地下にシェルターを作るのが一番いい。完全に地上と隔離されるためには、そこが一番都合がいいんだ。それに窓もドアもない理由だ」

「……つまり、ここは地面の下に家が作られてるってことなの?何かから身を守るために」

章輔は自分の考察が正しいかを何度も振り返って確かめている。答えを見つけられたと言う自尊心と、一日考えてようやく見つけた答えが正しいのかと言う緊張があった。

「それは地下だったらはじめっから窓もドアもないと言うことになる。地下にあるんだったらドアは天井にある。天井だったら、背の低いガイアちゃんは届かないだろ?」

「身長……それが、邪悪を打倒せるようになる、つまり成長するってこと……って考えたのね?」

章輔は再び頷いた。

「まあその成長するまでの間魔法を勉強しておくっていうが最低条件だと思うけど……」

ガイアはいまだに納得できていない。大きく首をかしげている。

「それは分かったけど……なんでトイレなの?」

「ああ、それはな……」

天井が低く(・・・・・ )光石の大きい場所(・・・・・・・・ )

そこが章輔の目の付けた場所だった。

天井の光石をもう一度見る章輔。親指で大きさを確認する。

「俺の家のトイレがなんだか天井からの圧迫感あるから気が付かなかったが……普通天井低くないし、光石が大きいってだけで気づくべきだったな……」

章輔は決意を固め、トイレの上に乗り、光石を両手で掴む。

光石は天井の中にはめ込まれているのではなく、天井の下にくっついている。そして光石と天井の間には、指が入るくらいの隙間があった。

「……お願いします」

章輔はその光石を、回す。

音を立てて光石は回った。

「……おっと回った。ビンゴだ」

光石から手を放し、軽くガッツポーズをする。

「え、どういうこと?」

目を何度も瞬きして驚くガイア。

「この光石はフェイクだ……ハンドルになっている」

「は、ハンドルってなに!?」

「そこまで知らされていなかったか……」

と、するとこの脱出ゲームの回答は異世界から人間を引っ張ってくることだったのかもしれない。章輔はそうまで考えたが、さすがにそれはないかとため息をつく。うぬぼれすぎだ。

「回せば開くんだよ……地下シェルターのハッチっていうのはな」

光石を回すと、天井がだんだん上がっていく。そして回しきった時――上の方から、カチッと音がした。

その天井を背伸びしながら押す。すると。

天井の隙間から光があふれていった。

「ほんとに……できたの?」

章輔は親指をだし、ぐっり拳をガイアに突き出す。

「さて、ここが外だよ」

***

俺らを照らしているのは、月の光だった。

やはり時間は十二時間ずれていたか。

「わぁ、すごい……空で光ってるのって星っていう奴?」

「ああそうだよ。天の光は全て星――っていう小説があったな」

個人的には無駄などんでん返しがあってあまり好きではない。とつぶやいた。

どちらかと言うとアニメの最終回のタイトルになっている方が有名である。

「この世界においてはあまり関係ないことか……」

アニメとか小説とか大好きだったなあ。いまだに現実感がない。

「お兄ちゃん、すごい!」

ガイアは興奮のあまり章輔に抱き着く。章輔の顔は熱くなり、そっぽを向いてごまかした。

「まあ、今度は外の世界で昼の時間に来よう……ああ、その時は絶対に空を凝視するなよ?目がつぶれるからな」

「太陽っていうのでしょ?知ってるよ!」

ガイアの目が光り輝いている。待望の外だ。

「一日とは言え外に出られないのは辛かったなあ……」

長そうで短かった一日。時間としては短いが、章輔はほっと安心していた。

章輔の顔が自然とほころんでいく。

「綺麗な空だ」

光たちの集合は大きな運河を作っていた――それは弧を描いている。

――俺のいた世界での天の川はこんなものだったか?ああ、異世界だから星座すら違うのか。

章輔はわくわくしていた。ここは俺の知らない世界だ――知らないことしか未来にはない。

「す、すっごい……」

「俺だってこんな綺麗な空、写真でしか見たことがないな……」

「ちょっとあれ使ってみようかな!飛行魔法!」

そう言うとガイアは、空高くジャンプする。

章輔がそれを眺めていると――

――ガイアは飛行魔法を使った!

ガイアの背中から、羽が生えた。

その羽で自在に空を飛んでいく――それを見て、章輔は思った。

「魔法あったら身長関係ないじゃん……」

成長魔法とかもあるだろうしこれで飛んでハンドル回せばよかったのでは……少しかっこつけた推理を後悔する。

つまるところ、天井の光石を探すと言う発想さえあれば良かったわけだ……結局ガイアちゃんの探索不足、と言う事か。

まあ、もしかしたらそれなりに魔法が使えるようになったら出ていいよ、と言う事だったのかもしれない。答えはすぐそばにあったのにそれに気が付かなかっただけと言う事か。

ま、言わないでおこう。せっかく念願の外に出られたのだから。章輔はそう考えた。

魔法と言うのはでたらめなものである。章輔はそれに気が付かなかった。

「空を飛べるなんて……もっと驚け、俺」

ガイアが地上に降りてくる。

「どうだ? 空は楽しかったか?」

しかし彼女の顔は、深刻だった。

「お兄ちゃん……あっちで何か黒いものが動いてる」

「……何」

「それが、こっちに近づいてきて……」

音はしなかった。

静かに、空気の様に、気が付いたらそこにそれ、『邪悪』はいた。

――邪悪に呪われたドラゴンが現れた!

形はドラゴンだ。しかし、ドラゴンを黒い霧状の物質が包み込んでいる。

ドラゴンそのものも真っ黒だ。顔が、手が、うろこが――真っ黒だ。

「やれ、地上はこんな『邪悪』が大量にいるっていうのかよ……」

章輔は一歩たじろぎ、しかし目はドラゴンを見ている。

「どっちが、邪悪なのかな……あのドラゴンが邪悪なのか、それとも……」

「たぶん、黒い霧の方だと思う……あれだったら蔓延しているし、そして、打倒できる」

そして、ドラゴンが雄たけびを上げた。

「キュオオオオオオオオオオオオ!!」

それは、悲痛な叫びだった。

苦しむように、悲しみを声高に叫ぶ。

章輔はひたすらに呆然としていた。

ガイアが章輔の腕をつかむ。

「お兄ちゃん! 何か武器を思い浮かべて!」

「え!? ……武器だな、わかった!」

武器、武器、武器……章輔の頭にはすぐに武器の思いつく当てがなかった。

「属性付属合成記憶召喚魔法!」

――ガイアは合成記憶召喚魔法を使った! 祝福されしシャベルが召喚された!

――ショウスケは祝福されしシャベルを装備した!

章輔の手に武器の重さが伝わる――それは大きなシャベルだった。

「……剣とか槍とかじゃないの?」

「しょうがないだろ! あっちの世界は平和だったんだよ!剣も槍もねえよ!」

「ああもういいや! 行くよ!お兄ちゃん!」

「お、おう!」

「行くよ!合成拡散爆破魔法!」

――ガイアは合成拡散爆破魔法を使った!

そう言うと、ドラゴンの羽が爆発する――章輔はそれに驚き足がすくむ。

目をそらしたい。逃げたい。が、何もしないわけにもいかない。

このくらい勝てないと、異世界に来た価値がないじゃないか。

その爆破によって痛みを苦しむ叫びが聞こえる。

その開いた口に、章輔はシャベルを突っ込んだ。

「おおおおお!!」

章輔のその叫びに合わせ、腕に衝撃が伝わる。

何か口からだしてくるのか――と章輔は体が逃げそうになったが、何かが出たのは章輔の持っているシャベルからだった。

――ショウスケの神聖攻撃! ドラゴンとは相性がいい!

「お兄ちゃん! そのシャベルには神聖属性光線放射魔法を付属させてる!だから……魔法の名前を詠唱して!」

「長い長い! えっと……神聖属性光線放射魔法!?」

腕にかかる負荷が高まる――

「いけええええええ!!」

――ショウスケの神聖属性光線放射魔法!

そして最後に――光線は、そのドラゴンを――貫いた。

「ガガガガガガガガガアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

――ドラゴンは浄化されていった……

ドラゴンが消えていく。章輔は固まって動けない。

黒い霧と物体が、一陣の風と共に消えていくまで――章輔は動けなかった。

最後にはドラゴンの死体だけが残っていた。

「くっそ、どうしろっていうんだよ……」

「お兄ちゃん、とりあえず地下に戻ろう……これじゃ危険ばかりだよ」

「ああ、そうだな……」

一難去ってまた一難。脱出を果たしたと思ったら、今度は『邪悪」――目に見える、敵が現れた。

「蔓延している、と言うのだからこんな奴が世界中にいるのだろな……」

ふと周りを見回してみる。町の跡――のようだ。

全ての家が破壊されている。何軒もの家が足跡の残骸と化している。

「外に出たければ『邪悪』を打倒せるように――か」

それでも、章輔はやるしかなかった。

「そもそも生き残りっているのかねえ……俺達だけってないよなあ?」

章輔はガイアを眺める。

ガイアはこの状況においてわくわくしているのか笑っている。

「あんなモンスターがいるんだ……魔法使うの楽しみだなあ!」

無邪気で、邪悪を知らない。

それは、邪悪を怖がらないと言う事でありながら、邪悪に飲まれる危険性をはらんでいるのだった。

事実、世界は真っ暗だった。

暗い。黒い。

それでも――人は生きている。

章輔とガイアだけではなく、細々と、ある場所では大きく、邪悪と立ち向かう人がいる。

章輔とガイアは一体、アダムとイブになるのか。それとも――

世界を救う、英雄になるのか。

章輔は震える足を抑えながら、ガイアに合わせて無理やり笑っていた。

一回目はこのくらいで。

ドラゴンが出たところまでです。全然戦闘してないしキャラも少ない……

その内出てくる予定です。

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