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魔法陣と少女

――???は合成空間次元跳躍召喚魔法を使った!

――ショースケは召喚された!

ここは……章輔は少し考える。

「……なるほどね」

章輔は目の前に現れた少女と、隣に置いてあった本をみて、大体の状況を理解した。魔道書か何かだろうか。

部屋は広いが、床に物が散乱している。本が何冊も積み上げられていて、背表紙には見たことのない文字がつづられている。

そして、少女は章輔を見て、足から崩れ落ち、何かを呟いている。まるで、一生かかっても叶えられないほどの、大きな夢を叶えた時の様に。

女の子、それも少女に召喚されるとは、理想的な召喚のされ方だと章輔は思った。女の子の年齢は大体中学生くらいに見え、背はそんなに大きくない。髪は黒いが、何日も洗っていないように汗でぬれており、その長さたるや足まで届いている。

「あー俺の言っていることが……わからないな」

「?」

少女は章輔の言ったことに首をかしげている。

章輔は早くも不安になる。異世界とは無条件で言葉が通じるものではなかったか。まず意思疎通を図ることが必要だと把握した。

「えーと、ジェスチャーとかどうしよう」

「……!翻訳魔法!」

――???は翻訳魔法を使用した!

「そんな便利なものあるのかい!?」

章輔は素直に驚く。……魔法はすごかった。さすが異世界……今更俺は本当に異世界に来てしまったものと理解する。魔法くらいはありますか。先ほどの心配は無用だったと知り、安心する。

いやはや本当に来てしまったよどうしよう。

と言うかなんだ今のシステムメッセージ……ゲーム系の異世界ですか。そうですか。

異世界、異世界。新しい世界、誰も自分を知らない世界。

まだ、現実味がない。もしかしたら夢ではないのか?

そう思っているうちに、少女の言葉が理解できるようになる。

「で、できた……できた!」

章輔はどうしていいかわからずに頭を掻く。

まずは状況確認だな!章輔は心踊らせながら少女に聞く。

「さてお嬢様……なせ私めを召喚しましたのでございましょうか……とりあえず色々知りたいことは有るけど」

冗談めかして丁寧語を使う章輔。

そういえばお話とかでは召喚したモンスターが素直に言うこと聞くことが多いけど、あれってどういう仕組みなんだろうなあ。洗脳でもしてるのか?

章輔はそんなことを考えるが、とくに体に違和感はないようだった。

「……さみしかったから」

なるほど。至極単純でわかりやすい理由だった。

さみしい。人が欲しい。友達が欲しい。だから異世界から召喚する。……それほどの事かと言われれば違うが、章輔には納得できる部分があった。

「私のために、召喚されてくれてありがとう」

少女はそう言って笑った。

女の子に召喚されるなら本望ですよ、と思いながら章輔も笑う。

「ねえ、一つ、頼んでいいですか?」

少女はついに現れた、始めてみた人間(・・・・・・・)に、不安になりながら言う。

章輔は頷く。すると少女はこう言った。

「じゃあ……頭なでて?」

それは、少女にとって一番安心できるものだったと記憶していた行動だった。

「さーて落ち着け、その前に状況確認だ」

章輔は困惑する。ええ、ええ!?少女の頭をなでるなんて、犯罪じゃないのか。

膝を曲げて少女の頭をなでながら彼女の背丈と章輔の背丈を合わせる。状況を確認しよう。

「……君何歳?あと名前は?」

「な、名前!?えっと……私はガイア?だっけ?年……わかんない」

ガイアは頭をなでられたことで不安が和らぎ、その質問に素直に答える。

年が分からないとおっしゃるか……ガイアか、随分壮大な名前だ。まあ異世界だし、と納得する章輔。名字とかはないのか。

「えっと……あなた、は?」

ガイアはここは自分も聞いた方が良いのかな?と人間の対応に困りながらも聞く。その眼は少年をじっと眺めていた。

章輔は彼女の頭から手を放す。

「俺は尾ノ裏章輔(おのうらしょうすけ)っていう、章輔、またはお兄ちゃんって呼んでくれよ」

「ショースケ?お兄ちゃん……?思い出した!年上の人ってこと?」

間違ってはないが微妙に違う。うーん、箱入り娘か何かか?

まあ、少女にお兄ちゃんと呼ばれる事に比べたらまあ大きな問題ではない。やったぜ。

「17歳だからな、年上だよ……そういえば、お父さんは?」

「……いない」

やはり、か。

章輔は妙に納得する――何かしら事情はあると思っていた。普通の女の子が魔法を使って人を召喚しようと思うだろうか。まあ、魔法の練習! とかあるかもしれないが。

ほっぺたの肉をかんで、感情を抑える。その憐みという愚にもつかない感情を、だ。

もう一度少女の姿を見る。少し豪華で装飾の多い服を着ている。ロリータ服というのか?

そんな、かわいくてきちんとしてそうな子が、さみしいだなんて。

「お母さんは?」

「お母さんってなに?」

からかっている風でもない。そういう事なのだろう……と了解する。お兄ちゃんは知っててお母さんは知らないと言うのは重傷だ。

「他の人も……いなさそうだな」

少女は小さく頷いたので、やっぱりかと途方にくれる。

不安のようなものを押しとどめながら、彼女の眼を再び見る。

ガイアは不安を再び募らせる。

そしてため息をついて立ち上がり、言った。

「じゃあ、ガイアちゃん……俺は君の家族になってあげればいいのかな?」

「家族って?」

ああ。簡単な事だ。

普通の人が持っている物。彼女に一番必要なもの。

あとは、俺も欲しいか。

「一緒に暮らす人のことさ」

「一緒にいて、くれるの?」

「もちろんだよ」

ガイアは、それを聞くと章輔に抱きついた。

……それに、彼女と一緒に居るしか俺が異世界で生きられる方法はなさそうだ、と章輔は感じていた。

俺に選択肢はない。彼女と一緒にいることで俺は異世界の情報を得なければならない。元の世界に戻るにしても彼女を頼らなければならない。彼女の目的が孤独を解消する事、俺が一緒にいてあげればいいのであれば、これほど楽なことはない。それにそれ以外とれる方法もない。

もちろん、彼女に同情したというのもあるが。

「じゃあ、この家を案内してあげる!」

「そうか、ありがとうな」

「どういたしましてっ!」

この異世界、まだドラゴンにも遭遇していないが――どんな世界なのだろうか。

未来が分からない、と言う事実が章輔の心を震わせる。

しかし、不安もある――でも、来たからにはやるしかないじゃないか。

章輔は腕を強く握りしめた。

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