男と魔法陣
ふと尾ノ裏章輔が後ろを向くと、魔方陣があった。
「うおっ」
自らの目の疑いつつも、再び見直してそれが見間違いでないことを確認する。
……なんだこれ。
とは思いつつも、なんだ魔法陣か、とも思ってしまう。ブラックホールとかだったら驚きがいがあるんだが。そう思いながら章輔はシャーペンから手を離し、椅子を回して体を魔法陣の方へ向ける。
自宅で勉強中に現れたそれを、明日にある小テストを忘れてまじまじと眺める。
「何なんだろうな?」
なんでこんなものが? 異世界への扉だろうか? そうだといいな。章輔はそんな風に荒唐無稽な思考をすると同時に、心臓の鼓動が早まり始めた。
可愛い女の子に召喚されるなら本望だが、残念ながら俺には能力などはない。転移するときに貰えるんだったらいいけれど、よく考えなくても都合がよすぎる。
異世界から召喚された人間がチート能力を持つとしたら、強大な力を召喚できるとしたら。……戦場のど真ん中に一発逆転を狙って召喚とかもあり得るだろう。そんな風に、召喚される場所がいい場所とは限らない。普通に召喚されたとしても、チート能力すら手に入らなかったら? ――なるほど、ないないだらけだな。
でも。
だとしても、現状よりかはましではないか。
夢もなく希望もなく生きていくよりも、一瞬だけでも期待して死んだ方が良いのではないだろうか。中世のような異世界だったら成り上がることだって不可能では……難しいか。
まあ、ここらでこの世界の人生を終えるのもいいだろう。異世界で新しい事でもやってちやほやされよう。
そもそも異世界に召喚される以外の可能性だってあるわけだが……何も起こらないっていうのもあり得る。
……これで異世界への扉じゃなかったら悲しいな。
ま、とりあえず行ってみましょうか。そう思いながら章輔は気軽な感じで魔法陣の上に乗った。
体がここではないどこかへ行くような感じがした。